artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
吉本伊織 展
会期:2013/09/13~2013/10/06
M・Zアーツ[神奈川県]
黄金町バザールに合わせた個展。日本画素材の風景画が並ぶ。基本的にモノクロなので冬の日本海とか雪景色が多い。いや、日本海側の風景や雪景色が多いからモノクロになったというべきか。いずれにせよ寒々とした「殺風景」が好きなようだ。絵の下にそれぞれ陶器が置いてあるが、これは吉本の作品ではなく画廊のコレクション。これが絵の引き立て役になっていて、いささかドーピングの疑いが。
2013/09/13(金)(村田真)
黄金町バザール2013
会期:2013/09/14~2013/11/24
京急日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下スタジオなど[神奈川県]
アジアを中心に内外16組のアーティストが参加。以前の作品も含めて20作家以上の作品が京急沿線の黄金町界隈に展開している。展示場所は元売春宿の小さな建物が多く、狭く込み入った空間をいかに生かすかが見どころのひとつだ。鎌田友介は天井をブチ抜いて細いL字鋼と角材を組み上げ、蛍光灯や都市の写真などを差し挟んだインスタレーションを発表。吹き抜けの空間全体が作品化されていた。台湾から来たタイ・ハン・ホンも建物全体をインスタレーションしたもので、1階も2階もドアを開けると金色の重石が上がり、奥の壁がギィーッと開く仕掛け。一種の「からくり屋敷」で、よくできている。一方、太田遼の部屋にはなにもないが、奥の狭い中庭を見ると周囲がトタン板で囲まれている。部屋に作品を置かず、中庭を「中部屋」に変えてしまったのだ。この3人は場所の読み方、空間の裏返し方がうまい。タイのトーラープ・ラープジャロエンスックは駐車場の壁にタブローや刺繍した布などを描き、本物のタブローも並べている。かたわらの記名ノートや寄付箱なども手描き。とにかく四角いものならなんでも絵にしてしまう。これは共感するなあ。緊急参加した韓国のユ・ソラは、身近な日用品の輪郭を刺繍する。刺繍は近年よく使われる手法だが、彼女は柔らかい表面に刺繍するためゆるやかな凹凸があり、古代のレリーフ絵画を思い出させる。さて、オープニングには市長以下、県警幹部や議員などエリャー人たちが集まり、乾杯前のあいさつだけで30分以上費やしていた。行政の並々ならぬ関心の高さがうかがえるが、そのわりに展覧会は話題になっていないなあ。彼らから見ればこれは展覧会というより、「環境浄化」という仕事なんだろう。
2013/09/13(金)(村田真)
六甲ミーツ・アート 芸術散歩2013
会期:2013/09/14~2013/11/24
六甲ガーデンテラス、自然体感展望台六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲山ホテル、六甲ケーブル、六甲ヒルトップギャラリー、オテル・ド・摩耶(サテライト会場)[兵庫県]
今年で4度目の開催となる「六甲ミーツ・アート(以下、RMA)」。そのテーマは、ピクニック感覚で山上に点在する現代美術を鑑賞することにより、六甲山の豊かな自然環境を再認識することだ。回を追うごとに評判が高まり、いまや秋の関西を代表する美術イベントになりつつある。今年は39組の作家が出品し各会場で見応えのある展示を行なったが、なかでも六甲高山植物園と六甲オルゴールミュージアムは質・量ともに充実していた。この2会場は昨年も見応えがあり、もはやRMAの顔といっても差支えないだろう。また、今年からパフォーマンスを中心とした「公演部門」が新設されており(5組が出演)、その成否が注目される。いま数多くあるアート・イベントのなかで、珍しく民間企業(阪神電鉄)が主催するRMA。それでいて無闇に企業色を押し出してこないところも好感が持てる。今後紅葉の時期になれば、一層魅力的なアート&自然体験ができるだろう。
2013/09/13(金)(小吹隆文)
藤井豊『僕、馬』
発行所:りいぶる・とふん
発行日:2013年6月21日
東日本大震災から2年半が過ぎ、アーティストたちが未曾有の事態にどのように反応し、作品として結晶させていったかも、かなりくっきりと見えてきた。だが今回、仙台の古書店「火星の庭」で、藤井豊の写真集『僕、馬』を何気なく手にして、油断することなく網を張り、探索を続けていかなければならないことがよくわかった。それはまさに「こんな所にもこんな表現が芽生えていたのか!」という驚きと感動を与えてくれる作品集だったのだ。
藤井は1970年岡山県生まれ。独学で写真を学び、沖縄や東京での活動を経て2002年に岡山に帰郷した。彼は震災のひと月後の2013年4月11日から5月20日にかけて、何かに突き動かされるように青森、岩手、宮城、福島の沿岸部から内陸に抜ける旅に出る。その「おおむね鉄道、徒歩、車による」旅の途上で、ずっとモノクロームフィルムで撮影を続けた。今回の写真集は、それらのネガから厳選した約200カットを、ほぼ旅の日程に沿って並べ直したものだ(編集、レイアウトは扉野良人)。
気負いなく撮影されたスナップショットであり、ドキュメントとしての気配りよりは、自分が見た(経験した)出来事を、そのまま何の修飾も加えず提示しようという意志が貫かれている。にもかかわらず、それらの素っ気ないたたずまいの写真群には、同時期に撮影された他の写真家の作品には感じられないリアリティがある。沿岸部の瓦礫や津波の生々しい爪痕はもちろん写っているが、それ以上に藤井が、遅い春を迎えて一斉に生命力を開花させようとしている植物群や、日常を取り戻しつつある人々の営みに、鋭敏に反応してシャッターを切っている様子が伝わってくるのだ。
このような、下手すれば埋もれていきかねない写真家の営みが、こうして写真集として形をとり、京都(メリーゴーランド京都)と東京(ブックギャラリーポポタム)で同名の展覧会も開催されたのは素晴らしいことだと思う。『僕、馬』というタイトルもなかなかいい。これはおそらく、藤井自身が青森県のパートに登場する野生馬に成り代わって、東北を旅したことを暗示しているのだろう。
2013/09/08(日)(飯沢耕太郎)
酒井佑「Horizont」/城田清弘「slide2」(仙台写真月間2013)
会期:2013/09/03~2013/09/08
SARP(仙台アーティストランプレイス)[宮城県]
毎年8月~9月に仙台のSARPを舞台に開催されている「仙台写真月間」。今年は小岩瞳子、稙田優子、酒井佑、城田清弘、伊東卓、花輪奈穂、小岩勉、阿部明子、山田有香の9名が参加した。たまたま仕事で仙台に行っていたので、そのなかの酒井と城田の展示を見ることができた。
酒井佑の「Horizont」は、広々とした海岸の風景を6×6判(マミヤC220)で撮影し、モノクロームプリントに引き伸ばしたシリーズである。画面のほぼ中央に水平線を置き、サーファーや松の木などがシルエットとして浮かび上がる端正な作品だが、これらが東日本大震災で津波の被害を受けた仙台市若林区、宮城野区などの沿岸地域で撮影された写真であることを知ると見方が変わってくる。瓦礫を焼却するために建造された処理場や、海に取り残されたままの自動車のタイヤやボディなど、震災の傷跡も写っているのだが、長時間露光の効果もあって、どちらかと言えば風景作品としての完成度の高さが目につく。それでも、酒井があえて震災後の風景を「このように見たかった(見せたかった)」という思いが、しっかりと伝わってきた。
城田清弘の「slide2」も震災の余波から形をとっていったシリーズだ。一見何の変哲もない、6×7判のフォーマットで撮影されたモノクロームの都市写真だが、実はこれらは仙台市内の活断層に沿って撮影されているのだ。仙台市中央部の北から南にかけては、「大年寺山断層」と「長町─利府線」という二つの活断層が走っている。城田は、道路や河原や住宅の敷地に活断層によって段差が生じている状況にカメラを向ける。正確に、淡々と撮影しているだけに、逆にもし直下型の地震が来たらと考えるとかなり怖い。都市の表層の眺めにこだわりつつ、「見えない」構造をあぶり出そうとするいい仕事だが、より情報量の多いカラー写真を使うという選択もあったのではないだろうか。
残念ながら、他の写真家たちの展示を見ることはできなかったのだが、相当に質の高い「写真月間」に成長しつつあることが充分に伺えた。
2013/09/08(日)(飯沢耕太郎)