artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

和田昌宏 個展 RECORRIDO ARQUEOLOGICO #1

会期:2013/08/14~2013/09/01

Art Center Ongoing[東京都]

気鋭のアーティストとして注目を集めている和田昌宏の個展。アーティスト・イン・レジデンスによって滞在したメキシコでの体験をもとにした映像作品を発表した。アート系の映像というより、むしろちょっとした物語映画のような完成度を誇る、すばらしい作品である。
映像は、和田自身がメキシコに滞在中に襲われた原因不明の体調不良に始まり、次いでその折に夢に出てきた謎の建築物の意味を解明するために祈祷師や分析医を訪ね歩いていくという設定だ。随所に、メキシコ滞在中に撮影されたスナップ写真を差し込むなど、巧みな編集によって鑑賞者をぐいぐいと映像のなかに引き込んでいく。和田が夢のなかで謎の建築物にとりつかれたように、その映像を見る私たちもまた和田の映像に巻き込まれていくようだった。
しかし、翻って和田がメキシコで何をしたのかをよくよく考えてみると、要は現地でダウンし、その後徐々に回復したとはいえ、レジデンスの成果をメキシコで発表したわけでもなく、街中でおもしろい写真を撮影しただけである。今回発表された映像作品は、言ってみれば事後的に編集した物語にすぎない。現地での交流や発表を求めるアーティスト・イン・レジデンス事業の基準からすれば、とても満足できる内容ではないはずだ。
しかし、だからこそ、和田昌宏の力業を評価したい。たとえ祈祷師の預言が出鱈目であったとしても、あるいは体調不良という出発点すら事実ではなかったとしても、それらを清濁併せ呑みながら、すべてをひっくるめて、いかにも真実として仕立て上げることが芸術の役割だったからだ。アートとは、いや、アーティストとは、本来的にそのような職能なのだ。

2013/09/01(日)(福住廉)

花開く江戸の園芸

会期:2013/07/30~2013/09/01

江戸東京博物館[東京都]

江戸時代のガーデニングを紹介する展覧会。園芸を楽しむ人びとやその光景を描いた浮世絵や屏風絵、摺物のほか、関連する資料などが展示された。
石によって構築されたヨーロッパの都市に比べて、木によって構成された江戸には、かねてから緑が豊富だったことはよく知られている。本展を見ると、植物を愛でる文化が当時から盛んだったことがよくわかる。
江戸の園芸文化を爆発的に広げたのが、植木鉢の普及である。これにより栽培と販売の両面にわたって植物は人びとの日常生活の隅々にまで行き渡った。四季に応じて色とりどりの草花を楽しむ営みが江戸の風物詩になったのである。
ただ、この園芸文化の起源が植木鉢に求められることは事実だとしても、より正確に言えば、それは植木鉢が設置される空間、すなわち路地である。もともと狭い路地に、それでもなおおびただしいほどの植木鉢を並べることで、たんに機能的な路を色鮮やかに装飾したのだ。これはすぐれて美学的な問題であることは明らかだ。
たとえばジェントリフィケーションの渦中にある下町では、旧住民の植木鉢が交通の障害になるとして、新住民がその排除を訴えることが多いと聞く。しかし、本展で詳らかにされていたように、これまでも生活と園芸は分かち難く結ばれていたし、それゆえ路地と植木鉢は決して切り離すことはできない。このことを理解できない新住民こそ、草花の美しさやそれらを愛でる感性を磨くべきだろう。

2013/08/31(土)(福住廉)

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アートピクニック vol.3 マイホーム ユアホーム

会期:2013/08/31~2013/10/06

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

わが家、住宅、家族、国、故郷など、さまざまな意味を内包する単語「ホーム」をテーマに、8組の作家を紹介した本展。さまざまな職業に扮したコスプレ家族写真で知られる浅田政志、取り壊される建物の記憶を建築部材によるウクレレで継承する伊達伸明など、どの作品もユニークかつ親しみやすいものであった。現代美術作家と美術教育を受けていない作家を同列に展示しているのも本展の特徴で、小幡正雄の段ボール絵画や高知県の沢田マンションの記録が美術家の作品と共演していた。そこには美術か否かよりもいまのわれわれにとって切実なことを優先する姿勢が感じられる。学究的な企画だけでなく、このような等身大の現代美術展も大切にしたい。

2013/08/31(土)(小吹隆文)

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牛腸茂雄「見慣れた街の中で」

会期:2013/08/31~2013/09/22

MEM[東京都]

牛腸茂雄の『見慣れた街の中で』(1981)は、彼が遺した3冊の写真集(ほかに『日々』1971、『SELF AND OTHERS』1977)のなかで、最も評価が難しいものかもしれない。『日々』は桑沢デザイン研究所時代以来のスナップショットの修練の賜物というべき写真集だし、『SELF AND OTHERS』の緊密な構成、完成度の高さは、代表作と呼ぶのにふさわしい。だが、『見慣れた街の中で』は当時としては珍しくカラー・ポジフィルム(コダクローム)を使っているのを含めて、どうもおさまりが悪い写真集だ。一見すると、どうということもない街の一角を切り取ったスナップとしか思えないこのシリーズで、牛腸が目指していたものが何だったのか、うまく伝わらないもどかしさを彼自身も感じていたのではないだろうか。
だが、最近になってこの写真集の持つ魅力と可能性が、あらためて見えてきたような気がしてならない。いわゆる「ニューカラー」の先駆ということだけではなく、牛腸は確信的に曖昧な街の雑踏を切り取ることで、彼にしか見えない「もう一つの現実」を浮かび上がらせるという力業を試みようとしていたのだ。それだけでなく、どこかふわふわと宙を漂うような写真群を見ていると、2年後に亡くなる牛腸が、すでに死の予感を覚えつつ撮影を続けていたように思えてならない。時折、「見慣れた街」がこの世ならぬ眺めに見えてきて、震撼させられることがある。
今回のMEMの展示では、ポジフィルムをスキャニングして再プリントすることで、これまでとは見違えるほどのクリアーな画面を実現することができた。光と闇のコントラストがより強まるとともに、コダクローム特有の赤や黄色の発色も鮮やかになってきている。そのことによって、牛腸の言う「人間存在の不可解な影のよぎり」が、逆にくっきりと見えてきたのではないだろうか。
なお、本展は牛腸茂雄の没後30年記念企画の一環として開催されたものであり、9月24日~10月14日には彼の子どもを被写体とした写真群を集成した「こども」展が同じ会場で開催される。また新編集の写真集『見慣れた街の中で』(山羊舍)と『こども』(白水社)も同時に発売される。新装版の『見慣れた街の中で』には、個展では発表されたが前の写真集には未収録の作品、27点もおさめられている。牛腸の仕事の広がりをあらためて確認するいい機会になるはずだ。

2013/08/31(土)(飯沢耕太郎)

ポート・ジャーニー・プロジェクト メルボルン⇄横浜

会期:2013/08/09~2013/09/04

象の鼻テラス[神奈川県]

横浜とメルボルンのアートプロジェクト交換事業。昨年メルボルンからプルー・クロームが来日・制作・発表したのに続き、この5月さとうりさが《宇宙船“かりぬい”》を携えてメルボルンに乗り込んだ。《宇宙船“かりぬい”》は卵を細長くして安定感をもたせたバルーンで、高さ2メートルほどあり、人が入って立てる大きさ。もちろん宇宙船といっても機械もなにもなく、通風口から空気を送り続けないとしぼんでしまうのだが、内部はのっぺりした曲面に覆われ、角も平らな面もないせいか大きさの感覚や距離感が失われ、ある種の快さを覚える。メルボルンでは路上、カフェ、植物園、大学構内など市内各地をさまよったという。今回はその帰国展だが、いつもながらカフェに展示されてるため見映えがよくない。この日も夜に卓球大会があるというので隅に押しやられていた。かわいそ。

2013/08/30(金)(村田真)