artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

石塚源太 つやのふるまい

会期:2013/08/27~2013/09/08

アートスペース虹[京都府]

複雑な曲面を持つオブジェ3点と、カッターナイフの刃で雪の結晶らしき模様をあしらった平面作品が2点。いずれも漆芸作品である。今回注目すべきは前者で、複数の円環が連続するフォルムが漆で覆われ、表面の艶(つや)がこれでもかとばかりに強調されていた。石塚は磨き込まれた表面の艶が漆芸の魅力の最たるものと考えており、艶が最も引き立つ形としてこれらの作品をつくり上げた。凸面はともかく凹面の研磨は困難であり、専用の道具を自作してこの難題を克服したそうだ。何ものにも似ず実用品でもないこれらの物体は、もっぱら美のためだけに存在している。その潔さもまた美しいと言うべきであろう。

2013/08/27(火)(小吹隆文)

田中雄一郎「ATLAS BLACK」

会期:2013/08/24~2013/09/22

photographers' gallery[東京都]

田中雄一郎は1978年、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科在学中から写真作品を発表しはじめ、現在は九州産業大学大学院に在籍しながら精力的に個展などを開催している。今回、東京・新宿のphotographers' galleryのメンバーになることになり、年2回ほどのペースで展示することが決まった。写真家としての潜在能力の高さは、以前から注目していたのだが、コンスタントに作品を発表することで、さらなる飛躍が期待できそうだ。
今回展示された「ATLAS BLACK」は、2006~09年頃に東京とその周辺で撮影されたモノクロームのスナップショットのシリーズ。大伸ばし3点を含む24点の作品にどこか既視感を覚えるのは、それらが1960年代後半の森山大道、中平卓馬らの作品から脈々と流れる都市のストリート・スナップの流れに、ぴったりとおさまってしまうからだろう。ややカメラを傾けたアングルや、人工光への鋭敏な反応なども、どちらかと言えば目に馴染んできたものだ。そのことを特に否定的に捉える必要はないが、やはり「そこから先」を見てみたい気がする。路上に記された矢印や「国道15号」とい行った表記、廃車のボンネットの埃を指でなぞった落書きなど、グラフィックな要素をより強調するのも面白いかもしれない。
これから先は、2010年から撮影を開始したブラジルの写真や、カラー写真のスナップなども順次展示していく予定だという。photographers' galleryという絶好の環境を活かして、新作にも意欲的に取り組んでいってほしいものだ。

2013/08/27(火)(飯沢耕太郎)

Unknown History

会期:2013/08/23~2013/09/04

アユミギャラリー+アンダーグラウンド+早稲田スコットホールギャラリー[東京都]

2011年8月、カトウチカの呼びかけにより始まったグループ展。今回で3回目、と思ったらなぜか4回目。毎回テーマを変え、民家を改装したギャラリーを中心に、地下2階のなんの変哲もない部屋、一駅隔てたレンガ壁のクセのあるホールと、あえて一筋縄ではいかない空間で作品を発表している。今回の全体テーマは「歴史」だが、優れた作品はテーマを超えるようだ。「ヤドカリトーキョー」もやってる門田光雅は、どんな場所であろうとおかまいなくコテコテのタブローを出している。よくも悪くもブレがない。荻野僚介もいつものような抽象画を出してるが、奇跡的にレンガ壁と合っている。高橋大輔は初耳だが、門田以上に分厚く絵具を載せたタブローで、ほとんどレリーフ状態。ここまでくるともはや場所を選ばない。絵画以外では、アンダーグラウンドのさらに奥の機械室みたいなとこで、マルチスクリーンに流動物の映像を流す町野三佐紀と、鉄カブトを並べて音を出す西原尚のインスタレーションが、場所ともども印象に残った。

2013/08/26(月)(村田真)

井上孝治「『音のない記憶』写真展」

会期:2013/08/20~2013/09/01

アートガレー[東京都]

井上孝治(1919~93)は1955年から福岡市でカメラ店を経営しながら撮影を続けた写真家。3歳のときに事故で聴覚を失うが、その聾唖のハンディゆえに逆に視覚世界に対して鋭敏な感覚を発揮するようになったのかもしれない。そのスナップショットの切れ味にはただならぬものがあり、被写体に対する素早く柔らかな眼差しの向け方は、多くの人たちを引きつけてやまない魅力を備えている。
1989年、福岡のデパート岩田屋の広告キャンペーンに写真が使われたのをきっかけにして、彼の写真の仕事が注目されるようになり、写真集『想い出の街』(河出書房新社、1989)が刊行されて大きな反響を呼んだ。また、井上の写真と人柄に魅せられたフリーライターの黒岩比佐子は、長期間にわたって取材を重ね、1999年に評伝『音のない記憶』(文藝春秋)を上梓する。これが、その後多くの力作評論を刊行し、2010年に惜しまれつつ亡くなった黒岩のデビュー作となった。今回の東京・神楽坂のアートガレーでの展覧会は、井上の代表作70点を黒岩の『音のない記憶』の記述と重ね合わせる構成になっていた。
あらためて井上の作品を見直すと、彼が写真を撮影することに注ぎ込んだ情熱とエネルギーの大きさに圧倒される思いを味わう。アマチュア写真家という範疇にはおさまりきれない写真家としての意欲が、ぴんと張りつめた画面にみなぎっているのだ。今回は福岡の自宅の周辺で撮影された路上スナップだけでなく、1959年の沖縄滞在時の写真や、1975年のヨーロッパ旅行のときの写真も併せて展示されていた。これらも含めて、テーマ別に井上の写真の世界を再構築してみるのも面白いかもしれない。

2013/08/25(日)(飯沢耕太郎)

井口雄介+松本玲子+椋本真理子 三人展

会期:2013/08/05~2013/08/25

ライズギャラリー[東京都]

1年にわたり2、3人の若手アーティストに絞って個展やグループ展を開いていく「クリエティビィティ・コンティニューズ2013-2014」の第1弾。今回は3人のグループ展で、井口雄介はシナベニヤ製のパラボラアンテナに、細かい計算式を書いた設計図とその青焼きを出品し、松本玲子は紙に水彩画、椋本真理子は水を「かたまり」として実感させる作品を展示している。いわば顔見世興行みたいなもんで、これから1年間どのように展開していくか楽しみだ。余談だが、学芸大学駅からギャラリーに向かう途中、世田谷通り沿いのダイエーの前に人垣ができていた。なんだろうと思って見てると向こうからオレンジ色の集団がやってくる。マラソンにしては遅いし、競歩にしても遅い。デモかとも思ったがなにも聞こえてこない。お、集団のなかに太った女の人が! そう、24時間マラソンでした。

2013/08/25(日)(村田真)