artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
サイレントアクア2013
会期:2013/08/31~2013/09/08
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
京都市立芸術大学主催の東日本大震災被災地支援チャリティーオークション。3回目となる今年は291名の作家が参加。学部生、院生、留学生、教員、旧教員、卒業生、修了生などのハガキサイズの小品、674点が展示された。誰の作品なのか見てすぐにわかるものもあるが、作家名を伏せたサイレントオークションで、落札後にしか作家名がわからない。そのため多面的な楽しみ方ができる機会で魅力的だ。私は2度会場へ足を運んだのだが、最終日にはほとんどの展示作品に、入札されていることを示すシールが貼られており、その盛況ぶりも窺えた。残念ながら欲しい作品を落札することはできなかったが、その作品と落札者が再会することに想像を巡らせるのもなかなか愉しい。オークションは収入から経費分を差し引いた全額が復興に関わる活動をしている団体等に寄付される。今回は、全出展作家名と展示作品を掲載したカタログも制作、販売される予定とのことで、この活動が続けられている意義と今後の可能性について考えさせられるものにもなりそうだ。
2013/09/08(日)(酒井千穂)
Konohana's Eye ♯2 加賀城健 展「ヴァリアブル・コスモス|Variable Cosmos」
会期:2013/09/06~2013/10/20
the three konohana[大阪府]
染色工芸の世界では失敗とされるボケやブレなどを積極的に取り込んだ作品を発表し、現代美術としての染色に新たな価値を付加してきた加賀城健。近年の個展では絵画を意識したタブロー形式の作品が多かったが、本展では、インスタレーション、壁画、屏風、反物をそのまま用いた長大な作品など、バリエーション豊かな表現が見られた。筆者自身、こうした枠にはまらない作品が加賀城との出会いだったので、今回の展開は望むところ。作品の伸びやかさから察するに、作家自身もタブロー形式に少々気詰まりを感じていたのではなかろうか。本展を機に、加賀城が新たな段階に入ったのだとしたら嬉しい。
2013/09/07(土)(小吹隆文)
大西みつぐ「物語」
会期:2013/09/02~2013/09/08
銀座奥野ビル三〇六号室[東京都]
東京都中央区銀座1丁目の奥野ビルは、1932(昭和7)年竣工という古い建物。戦前はモダンな文化人たちが住むアパートだった。その三〇六号室に、やはり戦前から「スダ美容室」が営業していた。店主の老齢化とともに、昭和60年代に廃業したが、その後も住居として使用されていたという。「銀座奥野ビル三〇六号室プロジェクト」は、その部屋をそのまま維持しつつ活用することを目的として、何人かの有志によって運営されている。美容院時代に使われていたという丸い鏡だけでなく、剥落しかけた壁や壁紙の一部などもそのまま残され、往時の面影を留めている。
大西みつぐは、その三〇六号室の雰囲気をそのまま活かしつつ、いろいろな素材を持ち込んでインスタレーションを試みた。ラジオからは、甘いオールデイズの曲が流れ、古写真が棚や床に散らばり、書棚には古い『平凡』が薄明かりに照らし出されている。今回は自作の写真ではなく、ウィーン辺りで撮影されたとおぼしき交通事故の記録写真を「森山大道の『アクシデント』ばりに」複写して、コントラストを強くプリントしたパネルなども展示していた。部屋から引き出され、形をとっていった「物語」を、その固有の空間に凝固させ、併せてそこを訪れる観客の記憶と重ね合わせていくという大西の試みは、さらなる可能性を孕んでいるのではないだろうか。
この三〇六号室では、以前、今道子も作品を展示したことがあった。その時は三〇六号室で撮影した写真を、同じ部屋に飾るという試みだった。この部屋と写真とはとても相性がいいので、誰かほかの写真家の展覧会も見てみたいと思っている。
2013/09/06(金)(飯沢耕太郎)
モローとルオー──聖なるものの継承と変容
会期:2013/09/07~2013/12/10
汐留ミュージアム[東京都]
モローとルオー、名前の響きは似ているけれど、19世紀の耽美な象徴主義者と20世紀の激しい表現主義者とでは、少なくとも絵画上のつながりはまったく感じられない。だから彼らが師弟関係にあると聞いたとき、きっとモローは反面教師だったに違いない(ルオーが反抗学生でもいい)と信じたものだが、事実はまったく逆で、この展覧会でも明らかにされてるようにふたりは深い師弟愛で結ばれていたという。モローが晩年パリのエコール・デ・ボザールで教えていたとき、一番の愛弟子がルオーだった。師弟の信頼は厚く、ルオーは師の没後に開館したモロー美術館の初代館長を30年近く務めてもいる。モロー自身は宗教画や神話画にこだわり続けていたが、新しい絵画動向にも理解があったようで、晩年の「エボシュ」と呼ばれるエスキースはほとんど抽象表現主義といっていいくらいだ。同展ではモローのフトコロの深さばかりに目が行き、ルオー作品はそのための参考作品に甘んじていると感じるのは私のひいき目か。
2013/09/06(金)(村田真)
山部泰司 展・溢れる風景画
会期:2013/09/03~2013/09/12
LADS GALLERY[大阪府]
主にベンガラ色で描かれた山部泰司の新作絵画。そこには深い森と、森を侵食する洪水や滝などが描かれていた。どこか黙示録的世界を思わせる情景だが、よく見ると森や樹木の大きさが部分ごとにまちまちで、遠近法も1点ではなく複数が脈絡なく展開している。つまり作品中に複数の情景がパッチワークされ、ひとつの大きな情景へと収斂しているのだ。ディテールを目で追うと矛盾の連続で、その都度脳内でイメージを修正しなければならない。でも、決して不快ではない。むしろ目の快楽が勝っているのだ。なんと不思議な絵画作品だろう。近年の山部は、古典絵画に描かれた樹木や森を引用した作品を発表し続けてきた。それがまさかこのような形で結実するとは。本展は、近年の山部の仕事を総括する重要な機会であった。当方にとっても、この間彼の作品を見続けてきたことが報われた気がして感慨深かった。
2013/09/06(金)(小吹隆文)