artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

堂島リバービエンナーレ2013「Little Water」

会期:2013/07/20~2013/08/18

堂島リバーフォーラム[大阪府]

大阪の堂島リバーフォーラムで開催される国際展、堂島リバービエンナーレの3回目。台湾出身のキュレーターで、テート・ギャラリーのアジア購入委員会の委員でもあるルディ・ツェン氏をアーティスティック・ディレクターに迎えて開催された今回は、テーマを「Little Water」として、水の複雑性や多様性、詩的な美しさを表現するアーティスト、28組の作品が紹介された。展示作品は、日常の身近な感覚に基づいてさまざまなイメージを喚起するものから、雄大な自然やその時間の流れ、宇宙に想像をめぐらすものまでさまざまだが、いまもふとしたときに思い出すのが、エントランスホールに展示されていた台湾生まれニューヨーク在住のアーティスト、リー・ミンウェイの《動く花園》。約15メートルの花崗岩のテーブルと、その中央にある溝から生えたたくさんのバラで構成された作品なのだが、こちらは来場者が会場を去るときに花を1本持ち帰り、見ず知らずの人にプレゼントするということで成立する。持ち帰った人の行動と花の行方に想像を巡らすのも楽しくドラマチック。全体に、静けさを保った会場の展示構成も、詩的な趣きをたたえた内容もじつに美しく、アーティスティック・ディレクター、ルディ・ツェン氏の各作品への眼差しや価値観も伝わってくるようだったのが素晴らしい。多くの人に見てほしいと感じた展覧会だった。

堂島リバービエンナーレ Facebook=https://www.facebook.com/pages/DOJIMA-RIVER-BIENNALE堂島リバービエンナーレ/322211084571096?fref=ts

2013/07/19(金)(酒井千穂)

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大竹夏紀 個展6

会期:2013/07/15~2013/07/27

GALLERY b. TOKYO[東京都]

ろうけつ染めを駆使した染織絵画で知られる大竹夏紀の個展。
きらびやかな少女をモチーフとしながら、それらの図像を支持体から切り出して壁面に直接貼りつける方法はこれまでと変わらないが、アイドルたちを彩る造形や色彩はこれまで以上に過剰になっていたように見受けられた。全身を収めた構図ではなく、頭部を中心に構成された作品が多かったせいか、顔の周りに装飾された花や星、宝石などの描写も、色彩のグラデーションも、目眩を催すほど、非常に細かい。
華美な装飾性はアイドルに必要不可欠である。ところが、大竹の作品が面白いのは、デコラティヴな方向性を極限化することによって、装飾されえない少女の本質的なところを浮き彫りにする逆説を生んでいるからだ。装飾が過剰になればなるほど、少女たちの白い地が際立つと言ってもいい。実際、見る者がその色彩と造形に目を奪われることは事実だが、絶え間ない視線運動がどこに行き着くかというと、それは顔面の中央、すなわち何物にも染まっていない絹の下地なのだ。
そこに何が隠されているのか、ほんとうのところはわからない。けれども、その空白に視線が誘われることの意味は大きい。装飾や化粧の本質を突いているからではない。描くことの意義が描かないことに置かれているからだ。

2013/07/19(金)(福住廉)

大竹伸朗 展「ニューニュー」「憶速」「女根/めこん」

[香川県]

ニューニュー:2013/07/13~11/04(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)
憶速:2013/07/17~2013/09/01(高松市美術館)
女根/めこん:2013/07/20~2013/09/01、2013/10/05~2013/11/04(女木島)

大竹伸朗の展覧会が、香川県の3カ所で同時開催されている。これだけ大規模な機会は「全景」展(2006年、東京都現代美術館)以来だ。3つの会場は以下のように性格分けされている。女木島の《女根/めこん》(画像)は「瀬戸内国際芸術祭2013」の出品物であり、すでに春から展示されている。しかし、その後も大竹が手を入れ続け、春とはすっかり異なる様相になってしまった。この作品は永遠に未完成と言っても差し支えなく、今後も変化し続けるであろう。丸亀の個展は2010年以降の作品を集めた近作・新作展で、2012年の「ドクメンタ」に出品した《モンシェリー:自画像としてのスクラップ小屋》や、1階エントランスの巨大なボーリングピンの立体《時憶/美唄》をはじめとする立体と、大量のドローイングやコラージュで構成されている。以上2展が大竹のいまと近年を表わしているのに対し、高松の「憶速」展は、大竹の過去を「記憶」と「速度」をキーワードに再編したものだ。出品数は534点。ジャンルやシリーズではなく、キーワードに準じて作品選定を行なっているのが興味深い。また、1977年から現在までのスケッチブック96冊を一挙に展示しており、非常に見応えがあった。今年は大竹が宇和島に移住して25周年にあたる。また、高松市美の開館、瀬戸大橋の開通も25周年であり、奇しき縁が大竹と香川を結びつけたと言えるだろう。3会場とも驚くべき密度とテンションに貫かれており、この夏見ておくべき展覧会である。

2013/07/18(金)(小吹隆文)

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元田敬三「Sunday Harajuku」

会期:2013/07/12~2013/07/25

エプソンイメージングギャラリーエプサイト[東京都]

元田敬三は、2005年頃から毎日曜日に、パノラマサイズのワイドラックスカメラを手に、東京・原宿の代々木公園前の路上に出かけるようになった。そこには20~40歳代の、リーゼント・スタイルの「ローラー」たちが集まり、大音響のロックンロールに合わせて日がくれるまで踊り狂っていた。それから6年あまり、顔なじみも増えて、コンサートに連れて行ってもらったり、沖縄に一緒に旅行したりするようにもなった。撮影された写真を見ていると、被写体との長期にわたる細やかな交流が、この種のドキュメントには必須のものであることがよくわかる。
だが写真集(SUPER LABO刊)をまとめ、展覧会を開催するために写真を選び、プリントしているうちに、元田のなかには実際に撮影していた時期とはまた違った感情が湧いてきたようだ。「大きなプリントとして立ち現れた場面の中で、写された光景のすべてはモノクロームの粒子として等価になる」。そこに写り込んでいる「ローラー」たちとその家族や恋人とおぼしき女性たち、彼らを取り巻く観客やカメラを向ける外人観光客、そして路肩に駐車しているアメ車やオートバイなども、すべて画面の構成要素として「等価」に見えてくるということだ。このような醒めた認識を持ち得るかどうかが、ドキュメントとしての写真の成否を判断する基準となるのではないかと思う。
この写真展を見てあらためて感じたことがもうひとつ。デジタルプリンターによるモノクロームプリントのクオリティは、もはや手焼きの銀塩プリントをはるかに凌いでいるのではないか。大容量のスキャナー、顔料10色インクジェットプリンター、プロフェッショナル仕様のフォトペーパーの組み合わせの精度は、唖然としてしまうような高さに達しつつある。

2013/07/18(木)(飯沢耕太郎)

平間至「last movement─最終の身振りへ向けて」

会期:2013/07/06~2013/08/31

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

平間至は2008年にも、同じフォト・ギャラリー・インターナショナルで舞踊家・田中泯の「場踊り」を撮影した写真展を開催している。それから5年を経て姿をあらわした「last movement─最終の身振りへ向けて」は、以前とはまるでレベルが違って見えた。単純なパフォーマンスの記録ということに留まらない、身体と場所とが溶け合い、一体化して渦巻くエネルギーが、モノクロームの写真群から強い力で放射している様が、はっきりと感じられたのだ。今回の展示作品には、シリーズの主体であるはずの田中泯の姿がまったく写り込んでいないものも含まれている。だが、それらの水や樹木や岩のある風景を捉えた写真もまた、そのあふれ出し、盛り上がり、流れ去っていくエネルギーの”場”であることに変わりはなく、むしろその風景の至る所に「見えない」舞踊家が遍在しているようにすら見えた。明らかに、存在の震えや揺らぎを鋭敏にキャッチする平間のセンサーが、研ぎ澄まされてきているのだ。
平間の意識の変容をもたらしたのが、2011年の東日本大震災であったことは間違いないだろう。彼の実家がある宮城県塩竈市とその周辺は、震災とその後の津波に寄って大きな被害を受けた。彼はむろん写真家としての活動を通じて、地域の復興に寄与しようとした。だがその後、被災の状況を直接的に記録するよりは、この「last movement」のシリーズを撮り進めることで、むしろ震災によって引き起こされたネガティブな感情の高まりを鎮めようとしているように見える。
実は一枚だけ、写真展に併せて刊行された同名の2冊組の写真集のなかに、震災直後の「宮城県七ヶ浜」の風景を写した写真がおさめられている。だが、この写真にもまた、田中泯の存在の気配が色濃く感じられる気がする。

2013/07/17(水)(飯沢耕太郎)