artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ウルの牡山羊 シガリット・ランダウ展

会期:2013/05/17~2013/08/18

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

メインの部屋では、4面の縦長スクリーンにそれぞれ樹木が映されている。その幹を大きな機械の腕が挟んで轟音とともに激しく揺さぶると、土煙とともになにかがバラバラと落ちてくるのがわかる。これはなんだ? 見たことない光景に心がざわめく。落ちてきたのはオリーブの実。実際こんな手荒な方法で収穫するんだろうか。これはイスラエル南部のネゲブ砂漠にあるオリーブ園で撮影されたもの。もう一方の部屋では、キッチンやリビングに時代遅れの家具が並ぶ50年代のイスラエルの居住空間が再現され、ランダウの親族との関係が示唆されている。タイトルの「ウルの牡山羊」とはメソポタミアで発掘された古代彫刻のことで、神の命でアブラハムが息子のイサクを生贄に捧げようとした旧約聖書(ユダヤ教の聖典でもある)の創世記に由来するもの。ランダウはイスラエルとユダヤ人の記憶を呼び起こすような作品を制作しているが、歴史も文化も異なる日本人には遠すぎて届きにくい。とくに後者のように私的な関係性から紡ぎ出された作品は、たとえそれが民族全体の問題に敷衍できるにしても共感するのは難しい。直接的な言及より、前者のような得体の知れない映像のほうが心に響くものだ。

2013/07/16(火)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00021700.json s 10090184

カタログ&ブックス│2013年7月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

「内臓感覚─遠クテ近イ生ノ声」展カタログ

アートディレクション:豊永政史
発行日:2013年04月27日
発行所:赤々舎
サイズ:242×242mm、116頁
定価:2,940円(税込)

人間の諸感覚の中でもより原始的・根源的な「内臓感覚」を手がかりに、その内なる感覚に響き、語りかけ、新たな知覚の目覚めにつながる現代の表現を巡っていく展覧会「内臓感覚─遠クテ近イ生ノ声」。 その13組の出品作家の作品とテキスト、豊永政史によるアートディレクションで、内臓感覚を揺さぶる渾身の1冊が刊行されました。
金沢21世紀美術館サイトより]




前橋市における美術館構想 プレイベントの記録 2012・4-13・3

発行日:2013年03月31日
発行所:前橋市文化国際課芸術文化推進室/アーツ前橋
サイズ:182×257mm、96頁

2013年10月にオープンする群馬県前橋市の美術館「アーツ前橋」の準備のためにおこなった、約一年間の事業をまとめた一冊。ZINEをつくるアートスクールをはじめ、韓国人アーティストのペ・ヨンファンを招聘したアーティストインレジデンス、off-Nibrollを講師としたダンスワークショップ、数多くの地域アートプロジェクトなど、地域と芸術文化を結びつける実践が数多く紹介されている。


現代建築家コンセプ・トシリーズ15 菊地宏 バッソコンティヌオ 空間を支配する旋律

著者:菊地宏
発行日:2013年06月30日
発行所:LIXIL出版
サイズ:210×148mm、136頁
定価:1,890円(税込)

1972年生まれの菊地宏が建築を志した90年代から「白い建築」が注目を集めていた。建築が白ければ模型も白く、平面図では色を表現する余地がない。菊地には、建築をめぐるこの状況は、モードのうえにモードを重ね、より視野を狭めて進んでいるように思えた。なぜこれほどまでに建築は自由を奪われてしまったのか、白の呪縛から逃れ、豊かな空間をつくることができるのだろうか──。
菊地の設計活動は、こうした問いと向き合い、歴史や自然のなかに範を探していくものとなった。
空間の豊かさは、自然のリズムと協調することから生まれてくる。菊地は、環境、方角、季節、時間、光、色といった要素と人間をどのように結びつけられるかを丁寧に探り当てる。建築の最新モードから離れ、豊かな空間についてあらためてじっくりと考えるための一冊。
LIXIL出版サイトより]


リアル・アノニマスデザイン──ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア

編著:岡田栄造・山崎泰寛・藤村龍至
サイズ:四六判、256頁
定価:2,310円(税込)

物と情報は溢れ、誰もがネットで自由に表現できる現在、建築家やデザイナーが「つくるべき」物とは何か。個性際立つ芸術作品?日常に馴染んだ実用品?その両方を同時に成し遂げたとされる20世紀の作家・柳宗理の言葉“アノニマスデザイン”を出発点に、32人のクリエイターが解釈を重ね、デザインの今日的役割を炙り出す。
学芸出版社サイトより]


Project ‘Mirrors’ 稲垣智子個展

編集:多田智美
発行日:2013年5月14日
発行:京都芸術センター
サイズ:A4判
価格:2,100円(税込)、500部限定

2013年2月5日〜26日に京都芸術センターで行われた「Project ‘Mirrors’ 稲垣智子個展」のカタログ。展覧会では、作家の稲垣自身がキュレーションした「beautiful sʌn」と批評家・高嶋慈がキュレーションした「はざまをひらく」という2つの個展が同時開催された。本カタログは、この2つの個展をもとに編集者・多田智美が制作したもので、それぞれの個展をまとめた2冊のビジュアルブックと、稲垣のインタビューと高嶋の批評テクストをまとめたテクストブック、計3冊をひとつの本に収めている。

2013/07/16(火)(artscape編集部)

オープン・スタジオ2013

会期:2013/07/12~2013/07/21

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

5月20日からBankARTのスタジオを借りた37組のアーティストたちが、約2カ月間の成果を発表。1室を半透明のスクリーンで二分し、片方に竹を使ったサウンドオブジェを仕掛け、もう一方でその影絵を見ながら音を楽しむというインスタレーションを制作した松本秋則をはじめ、グーグルマップを使いながら「いま私はどこにいるのか」を問う谷山恭子、きゃりーぱみゅぱみゅなカワイイ風景を極彩色の半立体で表現した増田セバスチャン+m.a.m.a.、バリ島の仮面をモチーフに大型絵画に挑んだ宮間夕子、写真を撮るために人形を塑像し背景をセットして被写体をつくる関本幸治、「青」の時代から水平線の絵画へと試行しているフランシス真悟など、挙げていくとキリがないが、とにかく今年はレベルが高い。毎週末は4、5人ずつアーティストトークを行ない、今日は松本、谷山、増田、南條敏之、パク・ミスンの5人に話を聞いた。

2013/07/15(月)(村田真)

藤田美智「ここではない どこかへ」

会期:2013/07/10~2013/07/15

Gallery Ort Project[京都府]

京都を拠点に活動している陶芸作家、藤田美智の個展。私が藤田の作品に初めて出会ったのは、2012年春の京都府庁旧本館(重要文化財)一般公開に際して開催された「ECHO TOUR 2012」という展覧会。その若い作家達による手工芸品の展示販売コーナーで、女性の頭部と身体をモチーフにした徳利状の花器《頭から花》という藤田の小さな作品を見つけた。ふくよかな顔と黒目のない表情、デザインのユニークなインパクトに惹かれてひとつ購入。以来、個展が開催されるのを楽しみにしていたのだが、これまではグループ展などで小品を出品しているのしか見たことがなかった。今展でも小さな作品が並んでいるのかと思ったら、意外にもメインだったのは両手でやっと抱えられるというくらいの大きめの陶芸作品。寝転がったり逆立ちしていたり、いろいろなポーズをとる水着姿のぽっちゃりした人形が、茶の間の雰囲気に設えられた空間にインスタレーションされていた。《妄想浮遊》《死んだように…》《見方を変えてみる》など、作家の心のつぶやきのようなタイトルと照らし合わせながらそれぞれのポーズや表情を見るのが面白い。疲労感や倦怠感もたびたび抱える生活のなかで、夏休みの過ごし方を一人ぼんやり考えて楽しむような日常感に溢れた空間が心地よかった。


展示風景

2013/07/15(月)(酒井千穂)

プレビュー:大竹伸朗 展「ニューニュー」

会期:2013/07/13~2013/11/04

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館[香川県]

1980年代初頭に鮮烈なデビューを飾って以来、絵画を中心に音、写真・映像、印刷などの表現を取り込みつつ、旺盛かつ多彩な活動を展開してきた大竹伸朗(1955-)。本展は四国・宇和島への移住から25年を経て新しい局面を迎えつつある「大竹伸朗の現在」に焦点を絞った大規模な新作展で、高さ6メートルに達するという大型の平面作品や、3層吹き抜けのエントランスに設置する巨大なインスタレーションなどの最新作をはじめ、国内未発表の作品を中心に構成される。同展にあわせ、7月17日からは高松市美術館(香川県)で「大竹伸朗 展──憶速」が開催、7月20日からは瀬戸内国際芸術祭2013にて、《女根/めこん》が女木島(香川県)で公開される。また、11月24日まで開催中の第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展では大竹のライフワークとも言えるスクラップブック全66冊が出品されている。じつに「大竹伸朗」目白押しの夏。どれも見たいところ。

2013/07/15(月)(酒井千穂)

artscapeレビュー /relation/e_00022433.json s 10089266