artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

天若湖アートプロジェクト2013「あかりがつなぐ記憶」

会期:2013/08/03~2013/08/04

京都府南丹市日吉町日吉ダム湖面[京都府]

京都府南丹市にある日吉ダムの建設に際して水没した5集落(宮村、世木林、楽河、沢田、上世木)、122戸の家々の位置を計測し、その一戸ずつのあかりをダム湖面に浮かべたLEDライトによって再現するプロジェクト「天若湖アートプロジェクト『あかりがつなぐ記憶』」。昨年初めて見に行って感動し、今年も無料バスツアーに参加した。今回はあいにく天気が悪く、雨が時折激しく降るなかで鑑賞することになったのが残念だったが、当時の集落の様子や周辺地域の歴史についての説明をスタッフから聞きながら眺める湖面の小さな灯りの数々、霧の暗闇に広がる幻想的なその光景はやはり圧倒的な美しさで、そこにあった人々の暮らしや時間にも思いが巡った。複数の大学の学生たちや周辺地域の人々、ダム管理施設の関係者など、立場の異なる多くの人達の協力によって毎回開催されるこのプロジェクト。今年は9回目にして若い造形作家の作品を紹介するという新たな展示プログラムも始動していた。「スプリングひよし」の展示室にて開催されていた河村啓生展。こちらには河村の合成漆とグルーによる作品が数点展示されていた。明と闇、生と死、破壊と再生などの言葉やそれらの境界について想像が掻き立てられていくのが「あかりがつなぐ記憶」のイメージにも合っている。もっとゆっくりと鑑賞したかったが、ここでは少し急ぎ足になってしまい残念。しかし10回目の開催となる来年も引き続き河村が参加、作品展示を行なうと聞いたので楽しみにしている。

2013/08/04(日)(酒井千穂)

内山聡 I have my time.

会期:2013/07/06~2013/08/11

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

絵画を「行為」と「時間」の2要素に還元し、文具などの既製品を用いた繰り返し行為のなかから表現を生成させる内山聡。本展では、紙テープを巻き続けて巨大かつカラフルな円形の作品が形成される過程そのものを展示。また、キャンバスを塗料に何度も漬け込んで作られるストライプ柄の作品も発表された。筆者が訪れたのは会期後半だったため、肝心の制作風景が見られなかったのは残念。ただ、制作時に使用した机や道具が展示室にそのまま残されていたため、後追いとはいえライブ感を持って作品を味わうことができた。

2013/08/04(日)(小吹隆文)

殿村任香「ゼィコードゥミーユカリ/母恋ハハ・ラブ」

Zen Foto Gallery[東京都]

会期:2013/7/31~9/7(8/11~16休)

殿村任香(とのむらひでか)のデビュー作『母恋ハハ・ラブ』(赤々舎、2008)は「女としての母、あるいは母としての女」の像を鮮烈に描き出して、見る者に重い衝撃を与える写真集だった。今回のZen Foto Galleryでのひさびさの個展には、その続編にあたる「ゼィコードゥミーユカリ」が展示されていた。闇の中にうごめく被写体を、手探りし、抱き寄せ、肌を擦りつけるように撮影していく撮影の仕方に変わりはない。だがその視線の強度と生々しさは、さらに強まっているように感じられる。
2008~2009年にかけて集中して撮影されたこのシリーズは、殿村の「歌舞伎町時代」の産物だという。新宿・歌舞伎町のお店では、彼女は「ユカリ」という源氏名を使っていて、それが今回のタイトルの由来になっている。前作のようなストーリー性はむしろ薄められており、至近距離から赤っぽい色調で撮影された男女の姿は、一瞬浮かび上がっては、再び濃い闇の奥に沈んでいく。その点滅を目で追ううちに、「もののあはれ」としか言いようのない感情が、押さえきれずに湧き上がって来るのを感じた。日本人の心性に強く根付いている無常観が、濃密な性の営みの描写を通して浮かび上がってくるのだ。
ふと、こういう作品がヨーロッパやアメリカでどんな評価を受けるのかを確かめたくなった。どこかで殿村の本格的な展覧会を開催できないだろうか。なお展示に合わせて、Zen Foto Galleryから同名の写真集も刊行されている。

2013/08/03(土)(飯沢耕太郎)

ヴィト・アコンチ講演会

会期:2013/08/03

市原湖畔美術館[千葉県]

屋上広場にインスタレーションを設置しているアコンチの記念講演会。アコンチといえばかつてギャラリーでオナニーパフォーマンスをしたり、最近では福島原発の「指差し作業員」の元ネタとしてその名が出るなど、過激なアーティストとして知られるが、講演ではいきなり「自分のやってることはアートだと思ってない。建築だと思ってる」といってのけ、スライドを使って彼のいう「建築作品」を紹介していった。たしかに風力発電で地面を円形に回転させたり、メビウスの輪を応用したベンチを開発したり、トリッキーなアイディアが多いけど、けっこうしっかり設計して実現させている。一方で、ニューヨークのWTCの跡地に「どうせ破壊されるなら、あらかじめ破壊されたビルを建てる」というコンセプトのもと、内も外もない穴だらけの超高層建築を提案して落とされたりもしている。老いてなお過激さを失わないばかりか、ますます増長させてる点は見倣いたい。

2013/08/03(土)(村田真)

磯辺行久──環境・イメージ・表現

会期:2013/08/03~2013/11/04

市原湖畔美術館[千葉県]

千葉県市原市に美術館ができたというので見に行く。市原市といっても広うござんして、房総半島のほぼど真ん中、内房線で五井まで行き小湊鉄道に乗り換えて約40分、高滝駅からさらに徒歩20分ほど、ダム湖の高滝湖のほとりに建っている。風光明媚といえば風光明媚だが、グーグルマップで検索すると周辺には虫食いのごとく何十ものゴルフコースがひしめいてるのがわかる。最近、近くに圏央道が完成し、西へ走ればアクアラインを通って東京、横浜、そして羽田空港と結び、北へ向かえば成田空港に出られる。この地の利を生かして来年には「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」を開くという。また「国際芸術祭」かよ。でも北川フラムさんが手がけるのでおもしろくなるかもしれない。また「北川さん」かよ、ともいえるが。そんな計画を見据えての開館だが、じつは建物自体はバブル後に建てられたもので、今回増改築してのリニューアルオープンとなった。そのせいか、湖上にはひと味違う彫刻が立ってたりして、まあいろいろ裏があるというか、物語性にあふれた物件ではある。円弧と正方形を組み合わせたコンクリート打ちっぱなしの建築は、あまり使い勝手がよくなさそうだが、「磯辺行久展」をやってるほか、KOSUGE1-16、クワクボリョウタ、ヴィト・アコンチの作品も展示されている。「環境」が大きなテーマか? いまいち脈絡がつかめない。たしかに国際芸術祭でもないかぎり2度と行かないだろうなあ。

2013/08/03(土)(村田真)