artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

石原友明「アウラとエクトプラズム」

会期:2013/06/22~2013/07/28

MEM[東京都]

1980年代後半~90年代にかけて、森村泰昌、やなぎみわ、小山穂太郎、佐藤時啓など、美術系の大学の在校生、卒業生たちが写真作品を発表し始めた。彼らの作品は発想においても手法においても、また展示(インスタレーション)のあり方も、従来の「写真家」のそれとはまったく異なっており、大きなインパクトを与えるものだった。そのなかで、石原友明の印画紙に焼き付けたセルフポートレートに原色でドローイングした作品も、鮮やかに記憶に刻みつけられている。石原は1990年代から2000年代初めにかけても、精力的に作品を発表し続ける。だが、その後は京都市立芸術大学で教育の現場に携わっていたこともあって、作家活動はほぼ休止状態になっていた。今回のMEMでの展示は、ほぼ10年ぶりの個展になるのだという。
「アウラとエクトプラズム」と名づけられた今回の個展でも、身体の「かたち」にこだわり続ける姿勢は一貫している。「自分の持っている『かたち』を眼で触り、捏ねながら、拡大、延長、投影、反転、切断して、再度『かたちづく』ってゆく」その作業の過程において、最大限に活用されているのが、写真による「セルフポートレート」であることにも変わりはない。今回の展示には、革袋を連ねたようなフォルムの自作のオブジェを、裸になって抱えたりくわえたりしている写真作品が出品されていた。それを見ると、いまは50歳代の石原の身体は、明らかに小太りの中年男性の体型になっている。それでもなお、体を張って作品制作を続ける彼の姿勢に感動を覚えた。

2013/06/26(水)(飯沢耕太郎)

國府理 未来のいえ

会期:2013/06/22~2013/07/28

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

自動車、自転車、バイクなどをモチーフにした乗り物型作品や、環境問題に言及した装置型作品で知られる國府理。彼の作品の最大の特徴は実際に可動・機能することで、そのリアリティが作品に確かな存在感を与えている。本展では、自作の乗り物《電動三輪自動車》、転倒した自動車に苔を植えた《虹の高地》、念力(?)でプロペラを動かす《Mental powered Vehcle》、その姿が福島第一原発事故を想起させる《水中エンジン》など、初期から近作までの12点が紹介された。作品数が思いのほか少なかったのは、作品のサイズが大きいこともあるが、新作を制作するために旧作から部品を調達するという、現実的な事情も影響しているようだ。その事実は残念でならないが、やっと美術館で彼の個展が実現したことを素直に喜びたい。

2013/06/25(火)(小吹隆文)

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街の記憶 写真と現代美術でたどるヨコスカ

会期:2013/04/27~2013/06/30

横須賀美術館[神奈川県]

横須賀という街のイメージは、写真によって形づくられている。私にとっても、1960~70年代に東松照明、北井一夫、森山大道、石内都らが撮影したアメリカ軍基地が大きく影を落とす「ヨコスカ」の写真群は、それらが日本の写真表現に大きな転換をもたらしたということもあって、トラウマのように記憶に食い込むものとなってきた。
だが、横須賀美術館で開催された「街の記憶 写真と現代美術でたどるヨコスカ」展からは、横須賀のイメージがもっと広がりと多層性を備えたものであることが見えてくる。これまであまり取り上げられることのなかった高橋和海、市川美幸らの作品は、彼らが生まれ育った横須賀の「海」のイメージを写真という装置を介して内面化しようとする試みといえる。また、田村彰英の「Road」やホンマタカシの「東京郊外」シリーズのなかに、横須賀とその周辺の写真が含まれていたことは新鮮な驚きだった。これらに横須賀の古写真や絵葉書、若江漢字や藤田修の現代美術や版画の領域に属する作品などを重ね合わせていくと、写真を通じて横須賀の成り立ちをマッピングしようという今回の展示が、より重層的な厚みを備えてくることになる。もっと数を増やしてほしかったのだが、市民のスナップショットを展示したコーナーもけっこう面白かった。
目黒美術館で2013年2月~3月に開催された「記憶写真展」もそうだったのだが、都市やある地域の「記憶」を再構築しようとするときに、写真がとても有効な媒介物となることが、あらためて証明されつつあるのではないだろうか。他の場所でも、同様の企画は充分に成立すると思う。

2013/06/25(火)(飯沢耕太郎)

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國府理「未来のいえ」

会期:2013/06/22~2013/07/28

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

西宮市大谷記念美術館で、これまでに発表された國府理の初期作から最新作まで、12点の作品を紹介する展覧会が開催されている。國府がこれまでに制作、発表してきた自動車や船等の乗り物を素材とした作品は現存していないものも多い。そのため、今展にはこの機のために再現された作品もある。展示数は多くはないが、今展は、科学技術の進歩と自然を、対立したものとしてとらえるのではなく、人間の目的意識やその努力による技術的所産がうまれる状況にも目を向け、夢という未来や現実の世界の状況を見つめて制作し続けてきた作家の眼差しがうかがえる展示となっていて見応えがある。7月28日(日)まで開催され、毎週土曜日には、國府自身が会場にて展示作品のメンテナンスや試運転を行なっている。もしその時ならば、國府の思想と作品のイメージを重ねて見ることもでき、一層会場の展示が楽しめるだろう。作品解説には「120%の力を出す」というアスリートの言葉が例にあげられていたが、人間のはかりしれない力とエネルギーをテーマに制作された《Mental Powered Vehicle》(2006)はハンドルに手をかざせばプロペラが回転する車で、とくに実際に作動中のところが見てみたいもの。


屋外展示作品《親子の庭》(2013)


Mental Powered Vehicle

2013/06/25(火)(酒井千穂)

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石井陽平 個展「真のLOVE展 これが僕の愛のかたち 木からダッチワイフ、麻里子まで」

会期:2013/06/19~2013/06/23

素人の乱12号店[東京都]

「天才ハイスクール!!!!」の3期生、石井陽平による初個展。元AKB48の篠田麻里子への愛をテーマにした作品を発表した。
展示されたのは、写真作品を中心にしたインスタレーション。一見すると写真が埋没するほど雑多で猥雑な空間にしか見えないが、必ずしも低次元の展示として断罪できないところに不思議な魅力がある。
写真の多くは、彼が篠田麻里子の顔写真をつけたダッチワイフとともに海や森を訪ね歩くという設定にのっとったもの。愛してやまない麻里子とのデートにはしゃぐ当人の姿は悪乗りしているようにしか見えないし、そもそもダッチワイフを麻里子に見立てるという物語がすでに変態的である。
けれども、写真をよく見てみると、それらを神秘的な色彩や光と闇で撮影しているからだろうか、通俗的で偏執的な主題が思いのほか後退していることがわかる。その代わりに前面化しているのが、彼の愛情の純粋性である。暗闇の中に広がる鮮やかな色彩が、そのあまりにも純粋な愛を輝かせているのだ。しばらく見ていると、網膜が焼けるように感じられるほど、その純度は高い。
ダッチワイフといえば、ローリー・シモンズが人間と見紛うほど高品質な日本製のラブドールを被写体にした写真シリーズを、森美術館で開催中の「LOVE」展で発表しているが、その写真はラブドールの人工性に焦点を当てることで愛そのものが「つくりもの」であることを暗示していた。それに対して、石井陽平が用いるダッチワイフはビニール製の安物にすぎないが、だからこそその「つくりもの」に投影される愛情の深さが際立っていた。前者が即物的だとすれば、後者は情動的であると言えようか。
だからといって石井陽平の愛は、それが「つくりもの」であることに無自覚なわけではないし、それに対して冷笑的に振る舞っているわけでもない。不可能であることを知りつつも可能を生きる「粋」のように、その愛が実らないことを十分承知しつつも、その愛を生きているのだ。それは、あまりにも強く、同時にあまりにも脆く、だからこそ私たちの胸を打つ。

2013/06/23(日)(福住廉)