artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
村上誠「水迎え 南島の“死”の光景」
会期:2013/07/03~2013/07/16
銀座ニコンサロン[東京都]
銀座と新宿のニコンサロンは、なかなか油断できない写真展の会場だ。その大部分は、やや型にはまったスナップ/ドキュメンタリー系の作品展示なのだが、時折思いがけない写真の仕事を見ることができる。今回銀座ニコンサロンで開催された村上誠の「水迎え 南島の“死”の光景」も、そんな驚きを与えてくれる写真展だった。
村上が撮影しているのは宮古諸島や多々良島など、南島の森や洞窟の奥に潜む死の気配が色濃く漂う場所の光景だ。この種の写真は、どこかおどろおどろしいスペクタクル性を強調したものになりがちだが、村上はあくまでも控えめで、慎ましやかな態度で被写体に接している。かといって記録的な描写に徹しているわけではなく、そこには彼が「見たい」と欲したものが、きちんと写り込んでいるように感じる。それこそが「水迎え」、すなわち「水の流れる足元、地面の下の方で紡ぎ出されていた……“死の影”」を捉えようとする営みにほかならない。ニコライ・ネフスキーの『月と不死』のなかにある「死水」の物語に触発されたその探求の成果は、会場に展示された16点の大判カラープリントにしっかりと写り込んでいるのではないだろうか。
村上は本来写真家ではなく、美術教育に携わりながら、1988〜2003年に「天地[あまつち]耕作」というアートプロジェクトを立ち上げ、大地との交感に根ざした作品を発表してきたアーティストだ。彼のような、異なる領域から越境してきた人の写真の仕事は逆に面白い。より挑発的で刺激的なものになっていく可能性を感じる。
2013/07/10(水)(飯沢耕太郎)
Kalle Lampela─Collected papers─
SAI GALLERY[大阪府]
会期:2013/07/09~2013/07/13、2013/07/30~2013/08/10
フィンランド人アーティストのカッレ・ランペラは、過去に同画廊で何度も個展を開催し、その度に異なる作風を見せていた。特定のスタイルを持たない柔軟さが彼の特徴なのかもしれない。本展では、独自に改造したタイプライターを駆使した作品を発表。このタイプライターはアームの先の活字部分に異物を挟む、削るなどしたもので、プリペアド・ピアノならぬ「プリペアド・タイプライター」と命名されていた。文字とも模様ともつかないイメージで埋め尽くされた画面は、さながら古代文明、あるいは未知の惑星からもたらされた図面のよう。見ようによってはお洒落なテキスタイル風でもあり、不思議な魅力を放っていた。
2013/07/10(水)(小吹隆文)
〈遊ぶ〉シュルレアリスム──不思議な出会いが人生を変える
会期:2013/07/09~2013/08/25
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
生誕160年を記念して某文化センターでゴッホの連続講座を開き、その最終回として《ひまわり》を見るため損保ジャパンの美術館を訪れた。だから「シュルレアリスム展」はついでに見ただけなんで印象が薄いなあ。大ざっぱにいえば、シュルレアリスムは夢や無意識など非合理の世界に分け入ったため、恐怖やグロテスク感を呼び覚ます一方で、笑いを誘うユーモアのある作品も見られる。今回は後者のほうがメインになっているように感じた。デュシャン、マン・レイ、エルンスト、ダリといった中心画家より、ドロテア・タニング、トワイアン、ウィルフレド・ラム、ヴィクトル・ブローネルといった周縁画家に佳作が多い。
2013/07/09(火)(村田真)
MuDA 山男
会期:2013/07/07
滋賀県栗東市金勝井上「こんこん山」[滋賀県]
ダンサーで振付家のQUICK、作曲家の山中透、美術家の井上信太ら、異ジャンルのソリスト達が集まり、2010年に結成されたアーティスト集団、MuDA。生命、身体、負荷、儀式、宇宙をテーマに、これまで、活動拠点である京都をはじめ、大阪、東京、鳥取、福岡などでもダンス、音楽、映像、美術を駆使したパフォーマンス公演を行なっている。私自身は昨年大阪での公演『MuDA 菌』を見たのが初めてだったのだが、トレーニングのような反復運動を舞台で繰り返し、ダンサー同士が身体をぶつけ合うその独特のテイストは、それまで抱いていたダンスのイメージとも異なるもので、正直に言うとよくわからないという消化不良の感もあった。しかしエネルギッシュなダンサー達の動き、リズミックな音響と舞台美術のイメージもインパクトが強烈だった公演。機会があればまた見たいと思っていた。今回の『MuDA 山男』の舞台は栗東市にある通称「こんこん山」。夜の野外公演という点にも興味がそそられた。昼間に同地で開催されていた竹や瓢箪、森で拾った木の枝などを用いた楽器やオブジェ作りのワークショップにはおもに地元の子ども達が参加していたのだが、なかには鳥取での公演を見て以来MuDAのファンになり、はるばるこのために夜行バスでやってきたという若者達も。最寄りのバス停からもかなり遠く不便な会場だったのだが、夕方の公演にはボランティアスタッフによるシャトルバスの送迎もあり、開演前には続々と観客が集まって一気に賑やかになった。日も暮れかけたころ、妖精か妖怪のようなイメージの着ぐるみを着た2人とひとりの女性ダンサーが登場して開演。その後、うっそうとした林の中から、ほぼ全裸で全身に木の年輪のボディペインティングという出で立ちの6名の「山男」(ダンサー)達が現われ、大きな焚き火の前でダンスパフォーマンスを繰り広げた。やはり反復運動が中心なのだが、激しい動作も呼吸か鼓動のように規則的で、今回は見ているうちに徐々にそのリズムに引き込まれてしまった。中盤には本物の木を「山男」達が切り倒すというパフォーマンスも。揺らめく焚き火の光、音響、山の舞台など、どの要素もその世界観を効果的に見せていた公演。迫力もさることながら、輪廻転生、自然界の壮大な時間、シャーマニズムなど、インスピレーションを刺激する詩的な趣きが素晴らしかった。
2013/07/07(日)(酒井千穂)
ジェレミー・ディッキンソン展
会期:2013/06/19~2013/07/08
自動車を並べたり積み上げたりした絵。車体の塗料がはげてたりプロポーションがずんぐりしてるため、ミニカーを描いたものだとわかる。もちろん描写力があるからミニカーだとわかるのであって、ヘタな画家が描いたら本物の車と区別がつかないかもしれない。おもしろいのは、色とりどりの積み木をぴったりはめ込んだ隙間にミニカーを挿入した絵。モンドリアンの幾何学的抽象画を彷彿させる。聞くところによると、彼は子どものころからミニカーを集めていて、現在5,000台くらい持っているという。子どものころからの趣味をそのまま引き継いで好きな絵に描いて(しかも売れて)る……男にとって最高の人生だ(か?)。
2013/07/06(土)(村田真)