artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
新収蔵品紹介I 信濃橋画廊コレクション
会期:2013/07/06~2013/11/10
兵庫県立美術館[兵庫県]
1965年に産声を上げ、2010年に惜しまれつつ閉廊した大阪の信濃橋画廊。45年にわたるその活動は、そのまま関西現代美術史と重なり合う。画廊主の山口勝子は閉廊にあたり約600点もの所蔵作品を兵庫県立美術館に寄贈したが、それらのうち169点が新収蔵品展の一部として公開された。作品の傾向はさまざまだが、比較的小品が多く、なかには同画廊で一度も個展を行なったことがない作家も含まれる。学芸員によると「このコレクションでなければ、美術館では引き受けなかった作家・作品も含まれる」そうだ。しかし、たとえ作品の質にばらつきがあったとしても、影響力のある画廊のコレクションが散逸を免れたことは幸いと言えるだろう。今後研究が進み、関西現代美術史に新たな視点が付け加えられることを望む。最後に出品作家の名前を挙げておこう。河口龍夫、福岡道雄、ヨシダミノル、井田照一、久保晃、関根勢之助、山本容子、木村秀樹、白髪一雄、石原友明、松井智惠、堀尾貞治、榎忠、奈良美智、中ハシ克シゲ、植松奎二、山口牧生、村岡三郎、松谷武判、元永定正、大島成己、松井紫朗、今村源……、これでもほんの一部である。
2013/07/06(土)(小吹隆文)
ゴッホ展 空白のパリ時代を追う
会期:2013/05/26~2013/07/15
宮城県美術館[宮城県]
宮城県美術館のゴッホ展へ。あまり知られていないが、作風の転換上は重要だった空白のパリ時代とされる作品を、最新の研究成果をもとに紹介する切り口が目新しい。この頃、彼は描く対象をどうするのかという題材の選択から、さまざまな絵画形式の実験という近代的な方法論に移行していく。また常設で特集展示された菅野聖子がよかった。仙台生まれで具体に参加した画家である。手描きによるクールな幾何学絵画がとてもカッコいい。
2013/07/05(金)(五十嵐太郎)
プーシキン美術館展 フランス絵画300年
会期:2013/07/06~2013/09/16
横浜美術館[神奈川県]
2年前に予定されていながら、東日本大震災(原発事故)のため延期とされていたプーシキン美術館展。さすがロシア、原発事故の怖さをよく知っていたようだ。展示は旧約聖書を題材としたニコラ・プッサンの古典的な歴史画に始まり、クロード・ロランの理想的風景画、シャルル・ル・ブランの《モリエールの肖像》、ギリシャ建築とピラミッドを隣り合わせに描いたユベール・ロベールの廃墟画、楽器と性愛を結びつけたルイ・レオポルド・ボワイーの恋愛画など、古典主義やロココの佳作が続く。とりわけブーシェのエロっぽい《ユピテルとカリスト》など、つい最近完成しましたみたいに色彩がみずみずしいので不思議に思ったら、画面にガラスを入れてないのだ。ところが、印象派をはじめとする19世紀以降の作品の多くにはガラスが入っていて、それ以前の作品より原色が多いはずなのにみずみずしさに欠けるように感じた。ガラス越しと生で見るのとこれほど見映えが違うとは驚き。ともあれ、19世紀以降も見どころは少なくない。印象派とほぼ同世代のルイジ・ロワールはイラストレーターとして知られていたらしいが、初耳。雨上がりの風景をとらえた巧みな表現はカイユボットに匹敵する。セザンヌの《パイプをくわえた男》はフォルムもプロポーションも常識破りだし、ゴッホの《医師レーの肖像》はアールブリュットの先駆ともいうべき色づかいだ。なるほど、彼らが20世紀絵画を先導したというのもうなずける。最後のほうにあったキスリングの《少女の顔》は、額縁が破損しているのでいかにもロシアらしいと思ったが、カタログを見るとこの作品、画家から寄贈される際に美術館が支払ったのは額縁代だけだったそうだ。その記念としてそのまま残してあるのかも。
2013/07/05(金)(村田真)
横谷研二 展
会期:2013/07/01~2013/07/06
Gallery K[東京都]
会場の天井から長い立方体が何本もぶら下がっている。表面には細かい網の目模様が全体に広がっており、よく見ると素材はダンボールだった。それらのあいだを縫いながら見て歩くと、来場者の動きに感応してわずかに回転するほど、軽いようだ。離れてみると、回転する立方体の表面に時折モアレが生じて見える。遠景を見透かすほどの浮遊感を覚えた次の瞬間、たちまち網の目がつぶれてソリッドな量塊性が飛び出してくるのだ。無機質な立方体でありながら、回転に応じてその表情を次々と変転させるところが、じつに面白い。求心性にもとづく彫刻の伝統を、これほどまでに軽やかに脱臼させる遠心性は、なかなかない。
2013/07/04(木)(福住廉)
元田久治「東京」
会期:2013/06/21~2013/07/14
アートフロントギャラリー[東京都]
元田は世界の有名建築を廃墟として描いてきたが、今回は東京の廃墟図をリトグラフによって発表している。東京駅、東京タワー、銀座4丁目、浅草雷門、新宿歌舞伎町、国会議事堂、東京ディズニーランド……、東京人ならだれもが知ってる風景が、あわれ廃墟と化しているのだ。よく見るといろいろ発見があって楽しい。東京駅は戦後すっかりなじんだ駅舎ではなく、復元したばかりの建物が廃墟化されていること。東京スカイツリーにはツタが絡まり、六本木ヒルズの森タワー屋上は箱庭になってスケール感を混乱させていること。崩れかけた二重橋はあるけど、廃墟となった御所や宮殿はないこと。絶妙なのは、自由の女神像。一見ニューヨークかと思ったら、背後に大きな橋と東京タワーが見えるのでお台場のレプリカとわかる。しかも橋やタワーは破損しているのに、この像はブロンズ製でサイズが小さいせいかまったく傷ついてない。芸が細かいのだ。「江戸名所図絵」ならぬ「東京廃墟図絵」。
2013/07/03(水)(村田真)