artscapeレビュー

MuDA 山男

2013年08月15日号

会期:2013/07/07

滋賀県栗東市金勝井上「こんこん山」[滋賀県]

ダンサーで振付家のQUICK、作曲家の山中透、美術家の井上信太ら、異ジャンルのソリスト達が集まり、2010年に結成されたアーティスト集団、MuDA。生命、身体、負荷、儀式、宇宙をテーマに、これまで、活動拠点である京都をはじめ、大阪、東京、鳥取、福岡などでもダンス、音楽、映像、美術を駆使したパフォーマンス公演を行なっている。私自身は昨年大阪での公演『MuDA 菌』を見たのが初めてだったのだが、トレーニングのような反復運動を舞台で繰り返し、ダンサー同士が身体をぶつけ合うその独特のテイストは、それまで抱いていたダンスのイメージとも異なるもので、正直に言うとよくわからないという消化不良の感もあった。しかしエネルギッシュなダンサー達の動き、リズミックな音響と舞台美術のイメージもインパクトが強烈だった公演。機会があればまた見たいと思っていた。今回の『MuDA 山男』の舞台は栗東市にある通称「こんこん山」。夜の野外公演という点にも興味がそそられた。昼間に同地で開催されていた竹や瓢箪、森で拾った木の枝などを用いた楽器やオブジェ作りのワークショップにはおもに地元の子ども達が参加していたのだが、なかには鳥取での公演を見て以来MuDAのファンになり、はるばるこのために夜行バスでやってきたという若者達も。最寄りのバス停からもかなり遠く不便な会場だったのだが、夕方の公演にはボランティアスタッフによるシャトルバスの送迎もあり、開演前には続々と観客が集まって一気に賑やかになった。日も暮れかけたころ、妖精か妖怪のようなイメージの着ぐるみを着た2人とひとりの女性ダンサーが登場して開演。その後、うっそうとした林の中から、ほぼ全裸で全身に木の年輪のボディペインティングという出で立ちの6名の「山男」(ダンサー)達が現われ、大きな焚き火の前でダンスパフォーマンスを繰り広げた。やはり反復運動が中心なのだが、激しい動作も呼吸か鼓動のように規則的で、今回は見ているうちに徐々にそのリズムに引き込まれてしまった。中盤には本物の木を「山男」達が切り倒すというパフォーマンスも。揺らめく焚き火の光、音響、山の舞台など、どの要素もその世界観を効果的に見せていた公演。迫力もさることながら、輪廻転生、自然界の壮大な時間、シャーマニズムなど、インスピレーションを刺激する詩的な趣きが素晴らしかった。


公演『MuDA山男』会場の「こんこん山」入口

2013/07/07(日)(酒井千穂)

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