artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

近藤昌美「IRON PAINTING & OIL PAINTING OF NEW SERIES」

会期:2013/06/12~2013/07/07

HIGURE17-15cas[東京都]

1階は鉄板にラッカーなどで描いた「アイアン・ペインティング」、2階はカンヴァスの「オイル・ペインティング」。聞いただけだとヌルヌルテカテカ黒光りしてるマッチョな絵って感じだが、実際はマッチョではないけど、ドクロとか人型とかハトといった具象的なシルエットに、絵具の滴りや円錐形など抽象形態のレイヤーがかぶさり、多次元的光景を現出させている。でもどうせ鉄板に描くんだったらもっとヌルテカさせて、カンヴァスとは違う重厚感を見せつけてほしかった。

2013/06/21(金)(村田真)

プレビュー:大竹伸朗 展「ニューニュー」「憶速」「女根/めこん」

[香川県]

ニューニュー:2013/07/13~11/04、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
憶速:2013/07/17~09/01、高松市美術館
女根/めこん:2013/07/20~09/01・10/05~11/04、女木島

現在、ヴェネツィア・ビエンナーレの企画展に出品中の大竹伸朗が、7月に香川県で3つの展覧会を同時開催する。ひとつ目は丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での個展「ニューニュー」。これは大竹の現在に焦点を合わせ、大型インスタレーションやペインティング等の新作を発表するものだ。二つ目は高松市美術館での個展「憶速」。こちらは「記憶」「移動」「速度」と創作の関連性を切り口に、新作、近作、未発表作を展示する。そして三つ目は「瀬戸内国際芸術祭2013」の女木島で展示されている《女根/めこん》が、さらにバージョンアップして登場する。これだけの規模で大竹の作品が見られるのは、2006年に東京都現代美術館で行なわれた「全景」展以来ではなかろうか。もちろん「瀬戸内現代芸術祭2013」夏会期も同時期に行なわれる。これはもう、真夏の香川県に行くしかないだろう。

2013/06/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:堂島リバービエンナーレ2013“Little Water”

会期:2013/07/20~2013/08/18

堂島リバーフォーラム[大阪府]

2009年から始まった同ビエンナーレも、今年で3回目を迎える。初回は南條史生(森美術館館長)、2回目は飯田高誉(青森県立美術館チーフ・キュレーター)をアーティスティック・ディレクターに招いたが、今回その任に当たるのは、台湾出身のキュレーターでテート・ギャラリーのアジア太平洋購入委員会委員を務めるルディ・ツェンだ。彼が打ち出したテーマは「Little Water」。これは会場が大阪市内中心部を流れる土佐堀川沿いにあることと、アジアの多くの文明が川沿いで生まれ発展したことに因むものだ。水の意味を再考し、農業・文学・エコロジー・人間の感性などに占める水の役割を探究することがテーマとなる。出品作家は、ダグ・エイケン、藤本由紀夫、畠山直哉、石田尚志、ウィリアム・ケントリッジ、ヴォルフガング・ライプ、リー・ミンウェイ、杉本博司、チーム・ラボなど28組。この面々を見るだけでも、十分期待できることがおわかりだろう。

写真:ユェン・グワンミン《Disappearing Landscape-Passing II》

2013/06/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:ART OSAKA 2013

会期:2013/07/20~2013/07/21

ホテルグランヴィア大阪 26階[大阪府]

今年で11回目を迎える、関西を代表するアートフェア。大阪・梅田のホテルのワンフロアを会場に、国内外の52画廊が出品する。ホテルという日常空間に近い環境で趣向を凝らした展示を行なうことにより、アートを買って楽しむファンをひとりでも増やすことが使命だ。今年は関連企画も充実しており、松谷武判、堀尾貞治、今井祝雄ら具体美術協会ゆかりの作家たちの展示や、フランスの公募展「ジュクレアシオン」から選出された若手フランス人アーティストの展示なども行なわれる。美術館とも画廊とも違うアートの楽しみ方を求めている人に、アートフェアをおすすめしたい。

2013/06/20(木)(小吹隆文)

北野謙『our face: Asia』

発行所:青幻舎

発行日:2013年4月26日

「ショッピングセンター前に作られた特設野外映画場で映画を観る31人を重ねた肖像(主に建設現場で働く出稼ぎ労働者)」(中国北京市、2009)、「日本のアニメのコスプレをする少女34人を重ねた肖像」(台湾台北市、2009)、「原宿の少女43人を重ねた肖像」(東京都原宿、2000~2002)、「2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故後、脱原発の声をあげる25人を重ねた肖像」(東京都代々木公園、首相官邸前、2012)──写真集におさめられた1枚目から4枚目までの作品のタイトルを書き抜いてみた。北野謙が「our face」のシリーズを撮り進めるプロセスの、愚直なほど生真面目で丁寧な姿勢が、これらのキャプションからも伝わってくるのではないだろうか。トルコからインドネシアまで、アジア11カ国53都市を1999年以来15年にわたって回り、数千人以上の人々に声をかけてポートレートを撮影し、印画紙に焼き付けていく。気が遠くなるほどの労作であり、133点の作品がおさめられた写真集のページをめくっていると、彼が費やした時間の厚みが凝縮して、壁のように立ち上がってくるように感じてしまう。
北野が採用したフォトモンタージュによる集合ポートレートは、19世紀以来人類学や犯罪者の調査のために使われてきた手法だった。ある集団に共通する身体的な特徴を、モンタージュ写真から抽出するために用いられたのだ。ところが北野のこのシリーズには、それらの写真を見るときに感じる不気味さ、禍々しさ、威圧感などがあまりない。たしかに集団の一人ひとりの個性は、写真の中に溶け込み、一体化しているのだが、そこにはある種の安らぎや信頼が芽生えてきているように思えるのだ。プロジェクトを開始してすぐに撮影した千葉県鴨川の漁師さんが、自分たちの写真を見て「これは俺たちの顔だよ」といったのだという。写真を「俺たちの顔」つまり「our faces」ではなく「our face」にしていくためにこそ、北野は全精力を傾けている。その強い思いが、モデルになる人々一人ひとりにも、きちんと伝わっているのではないだろうか。

2013/06/18(火)(飯沢耕太郎)