artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
レオナール・フジタとパリ 1913-1931
会期:2013/04/20~2013/06/23
静岡市美術館[静岡県]
静岡市美術館「レオナール・フジタとパリ1913-1931」展を見る。近年、彼の戦争画が再評価されているが、この企画では、いわゆる乳白色のスタイル以前の、パリ渡航前や渡航後のデビュー時など、藤田の初期作品を紹介する。古今東西のさまざまなスタイルを器用に吸収し、ミックスし、異国でどうアピールするかを計算しており、なかなか戦略的だと思う。実際、彼がルーブルでエジプト美術を研究したり、同時代のアーティストのさまざまな手法をパロディ的に再現するドローイングを描いていたことも紹介されていた。
2013/06/16(日)(五十嵐太郎)
薄井一議「Showa88/ 昭和88年」
会期:2013/06/15~2013/08/08
写大ギャラリー[東京都]
薄井一議が2011年にZEN FOTO GALLERYで「Showa88」展を開催したとき、やや奇妙に感じたのは、2011年は「昭和86年」であり「昭和88年」ではなかったことだった。もし彼が、2013年=昭和88年にも展覧会を開催することを見越してこのタイトルを選んだとすれば、かなりの配慮ということになるのだが、実際はそうではないのではないか。「Showa88」という響きのよさに惹かれたのだろう。いずれにしても、1998年に、彼の母校でもある東京工芸大学の中にある写大ギャラリーで、このシリーズをあらためて展示できたのは、薄井にとってもわれわれ観客にとってもとてもよかったのではないかと思う。彼の作品が孕む可能性をあらためて確認することができたからだ。
今回は大判プリント18点による展示である。飛田新地(大阪)、五条楽園(京都)、栄町(那覇)など、昭和の匂いが色濃く残る歓楽街のたたずまいを、一癖も二癖もありそうな住人たちとともにおさえたこのシリーズは、薄井の代表作になっていくのではないか。けばけばしいピンク色をそこここに登場させることによる、目くらましのような視覚的効果もうまく計算されている。ノスタルジーやエキゾチシズムに過度に寄りかかることなく、日本=東アジアに特有の生の形をしっかりと見出していこうという志向性を、強く感じることができた。
とすると、このシリーズは、もう少し長いスパンで撮り進めてもいいのではないだろうか。会場に展示されていた作品は、すべて前回のZEN FOTO GALLERYでの「Showa88」展のときに刊行された、同名の写真集におさめられていたものだった。新作の「Showa88」もぜひ見てみたいと思う。
2013/06/16(日)(飯沢耕太郎)
碧亜希子 個展「割って 並べて 貼るところ」
会期:2013/06/01~2013/06/30
家具町LAB.[大阪府]
木工の体験教室や家具を長く愛用するための修理再生のワークショップなどユニークな活動を行なっている家具町工房。面白そうなのでいつか行ってみたいと思っていたのだが、このときは、ちょうど併設の家具町ラボ(家具町LAB.)で開催されていたモザイク画の展覧会にあわせ、両方を訪ねることができた。家具町ラボで個展を行っていたのは、イタリアで伝統的なモザイク技法を学び、アテネ市内のモザイク工房に勤めたのちに帰国し、モザイク彫刻家として活動している、碧(あお)亜希子さん。会場には10数点のモザイク作品が展示されていたのだが、期間中、碧さんはここでモザイクの材料や石を割る機械、作業台などアトリエの一角をそのまま持ち運んだという状態で、滞在制作も行なっていた。この日はモザイク画制作体験のワークショップが行なわれていて、年輩の夫婦や親子連れの姿など大勢ではないがゆっくりと作業を楽しむ参加者の姿が見られた。自由参加で、ひとつのモザイク画面を完成させるという内容だったのだが、作業をしているうちに見知らぬ者同士だった参加者の会話がはずんでいくという和やかな光景も微笑ましい。私も体験したモザイク画、想像以上に難しく苦戦したがその技法やテクニック、やればやるほど時間のかかるたいへんな仕事であることなど、これまで知らなかった興味深い事柄を知ることもできたのが嬉しい。収穫の多いワークショップだった。
2013/06/16(日)(酒井千穂)
村田兼一「眠り姫~Another Tale of Princess」出版記念展
会期:2013/06/12~2013/06/29
神保町画廊[東京都]
村田兼一は1990年代半ば頃から、モノクローム・プリントに彩色した耽美的なヌード・フォトを発表し続けてきた(手彩色は山崎由美子による)。相当にきわどいポーズの写真が多いにもかかわらず、どこか品のよさを感じさせ、浮世絵に通じるような手の込んだ工芸品としての魅力も備えた村田の作品は、ヨーロッパで人気が高く、特にドイツでは『JAPANESE PRINCESS』(Edition Reuss, 2005)以来、すでに写真集が4冊も刊行されている。ところが日本ではなぜか本格的な写真集出版が実現していなかった。今回初めて『眠り姫~Another Tale of Princess』(アトリエサード)が刊行されたのを記念して、神保町画廊で開催されたのが本展である。
写真集におさめられている手彩色作品の代表作も展示されていたのだが、僕がむしろ注目したのは近作のデジタルカメラを使った写真群だった。村田のヌード・フォトは、ブログなどを通じてコンタクトをとり、大阪市近郊の彼の自宅を改装したスタジオを訪れた女性モデルたちとの共同作業というべきものである。以前は村田の世界観にモデルを「当てはめていく」傾向が強かったのだが、最近は彼女たちの個性をのびのびと発揮させるように、対話を繰り返しながら撮影を進めていくようになった。その相互交換的なコミュニケーションのあり方が、デジタルカメラを使うことでさらに加速され、軽やかなものに変わりつつあるのではないかと思う。
すでにドイツで写真集として刊行された『UPSKIRT VOYEUR』(Edition Reuss, 2012)にもはっきりとあらわれているのだが、スナップショット的な偶発性を活かした撮影のやり方によって、村田の写真の世界にのびやかな風が吹き通ってきているように感じる。これから先の彼の作品は、細やかにつくり込んだ手彩色写真と、デジタルカメラによるスナップショットとの二本立てで進めていくべきなのではないだろうか。
2013/06/15(土)(飯沢耕太郎)
「暮らしと美術と高島屋」展
会期:2013/04/20~2013/06/23
世田谷美術館[東京都]
いまどき「美術と百貨店ってなんの関係があるの?」といぶかしむ若者もいるはずだが、「デパートと美術」は歴史的には興味深いテーマ。明治のころだと三井呉服店─三越百貨店がリードし、20年ほど前までは西武デパートがぶっちぎりのトップに立っていたが(これはやっぱり売り上げに比例する)、ここでは高島屋1本に絞ってる。焦点を絞ってるため展示は明快だが、関係する美術家(日本画家と工芸家が多い)は限られ、「デパートと美術」全体について考えるうえでは広がりに欠ける。そのためか、後半では三越や白木屋などのデパート建築、ポスターなども紹介し、カタログには高島屋社長と西武流通グループの総帥だった堤清二こと辻井喬との対談を載せている。いちおう目配りはしているのだ。それにしても、なぜ公立美術館が高島屋という特定のデパートを採り上げたのか、なぜ「デパートと美術」という一般論にしなかったのか不思議に思ったが、答えは意外と簡単、近所に玉川高島屋があるからだ。それに、世田美は2007年にも「福原信三と美術と資生堂」という一企業と美術の関係をたどる展覧会を開いた前歴もあるし。公立館としてはなかなか勇気のいることだと思う。こんどは東急の五島と組むか、いや、それより隣接地に清掃工場があるので、ぜひ「ゴミとアート」をテーマにしていただきたい。
2013/06/15(土)(村田真)