artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

稲垣元則 427 Drawings

会期:2013/06/15~2013/07/13

ギャラリーノマル[大阪府]

ギャラリーの4つの壁面は、大量のドローイングで埋め尽くされていた。作品のサイズはすべてB4。なかにはかなり日焼けしている作品もある。それもそのはず、本展は稲垣元則が21年前から日々描き続けている膨大な数のドローイングのなかから、427点を選んで展示しているのだ。作品は緩やかに年代順に展示され、同時に類似するイメージ同士が集合するように配置されている。説明文の類はないが、作品を見ていると一作家のイマジネーションの変遷が十分感じ取れる。なかには、稲垣自身はいまさら見せたくない作品も混じっていたが、展覧会の趣旨を尊重し、あえて出品したそうだ。見せ方はシンプルでも、コンセプトを徹底すれば展覧会は面白くなる(もちろん作品の質が保たれていることが前提条件だが)。本展はその見本である。

2013/06/15(土)(小吹隆文)

プレビュー:國府理「未来のいえ」

会期:2013/06/22~2013/07/28

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

國府理は、自動車、自転車、バイクなどの乗り物をモチーフとして、大型の立体作品を発表してきた。その最大の特徴は、ただ造形表現を目指すだけでなく、実際に機能する構造と強度を兼ね備えていること。近年は、移動する乗り物という枠を超えて、植物を自生させるための装置としての作品や、エンジン動力そのものを見せる作品を手がけている。今展では、独自の造形性を確立した初期作品から、植物を取り入れた近作群、また実際に稼働する新作を一堂に展示。芸術と科学技術のはざまから現実と未来を見つめる國府理の視点に迫る。

2013/06/15(土)(酒井千穂)

プレビュー:景 風 趣 情──自在の手付き

会期:2013/06/14~2013/07/14

京都芸術センター[京都府]

伊藤存、小川智彦、ニシジマ・アツシの3名のアーティストが自ら企画し開催する展覧会。フライヤーには「現実の根底にある自然法則に気付くのは達人で、現実の根底にある自然の調和に気付くのは詩人である」という湯川秀樹(理論物理学者)の言葉も記されている。今展では、3人のアーティストが、言わば詩人の観点に立ち、キーワードである「景」「風」「趣」「情」の四つの文字から生まれる「あわい」の存在を読み解き、表現の根底にある調和を作品展示によって試みる。

2013/06/15(土)(酒井千穂)

横田百合のオトンコレクション2013 ハリコ

会期:2013/05/24~2013/06/23

ギャラリー バンコ[大阪府]

私が横田百合さんのお父さんのコレクションを知ったのは、インスタグラムという画像共有のモバイル用カメラ・アプリケーションソフト。横田さんの写真は、たまたま見つけたのだが、日々更新掲載されていくその郷土玩具の写真と解説の数々が、じつに美術館か博物館並みに多彩で詳しく、そして楽しかったのですっかりファンになってしまった。今展は横田さんのお父さんが40年あまりにわたって集めた全国各地の郷土玩具コレクションのうち、張り子の玩具(の一部)を展示、紹介するというもの。会場には全国各地の張り子玩具およそ120点が壁面や棚の上にぎっしりと並んでいた。展示されたもののなかには、後継者がなかったり、もはや制作されていない(販売されていない)ものもあるとのことで、貴重な品々を手に取ってゆっくりと見せてもらえたこともとてもありがたかった。ちなみにお父様の蒐集の始まりは会津の「赤べこ張り子」との出会いだったそう。今展ではその“きっかけ”となった赤べこ張り子も展示、紹介されていた。一つひとつの地域色やあじわい、張り子の表面からうかがえる職人の手(技)、そして横田さんがお父さんのコレクション展を開催することに至るまでの流れなど、いろいろな人々の関係と歴史を感じた素晴らしい展覧会。次の「オトンコレクション」も開催が待ち遠しい。


展示風景

2013/06/14(金)(酒井千穂)

森末由美子 展「道草ルート」

会期:2013/06/03~2013/06/22

ギャラリーほそかわ[大阪府]

これまで、本や食卓塩の瓶など、身近にあるさまざまなものに手を加えた作品を発表してきた森末由美子。近年は、刺繍を施した作品も展開している。本展では刺繍をはじめ、おもに糸を用いた新作11点が発表された。葉脈だけ残した葉っぱ(装飾用の既成品)に刺繍を施したこの6点のシリーズは、近づいて見ると色糸が何色も使われているのが確認できるのだが、葉脈に糸を絡ませながら刺繍されたそれらは絵画のような色彩の表情も美しく、離れたり近づいたり、見る位置で印象が異なるのも面白かった。ヘチマタワシに刺繍を施した作品にはさらに吃驚。聞いたところによると約20種類の色糸を用いてヘチマの繊維に縫い付けているのだそう。精緻で丁寧な仕事ぶりにも目を見張るが、白いヘチマタワシが、たくさんの糸の色によって“ヘチマらしい”青いヘチマのイメージになっていく、その過程を想像するのも楽しい。ほかに、ざるにオレンジやピンクの糸を繰り返し渡し縫い付けた作品や、金魚すくいの「金魚ポイ」という網を連ねた作品等も展示されていた。糸によってモノの隙間が少しずつ埋まり、面という要素ができていくなかで、ある時するりとイメージが変容する、その軽快な洒落っ気と繊細な作業のギャップにも惹かれる。今後の発表作品もまた楽しみになった。


展示作品《ざる》


展示作品《へちま》


展示風景

2013/06/14(金)(酒井千穂)