artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
すいこみ はきだし ひろがる 小出麻代 展
会期:2013/05/25~2013/06/09
LABORATORY[京都府]
京都市内の繁華街にある小さな路地の一角、焼肉屋のビルの3階という意外なスペースで、小出が魅力的なインスタレーションをつくり上げた。素材は、糸、ガラス、紙、樹脂、押しピン、回り灯籠など。糸をガイドに視線を泳がせていくと、素材が織りなす繊細な造形がメロディやリズムを奏で、見る者を作品世界へと没入させる。そして見終わった後には、自分が爽やかな余韻に包まれていることに気付くのだ。その感触は、美術作品というよりも詩の読後感に近い。ここまで浸り切れるインスタレーションに出会えたのは久々だ。見逃さなくてよかった。
2013/06/01(土)(小吹隆文)
金光男 個展 CONTROL
会期:2013/06/01~2013/06/30
eN arts[京都府]
金の作品は、パラフィンを塗った紙、キャンバス、パネルに日常風景の写真をシルクスクリーンでプリントし、イメージの一部を熱で溶かして歪ませたものだ。前回の個展では、床置きした作品に電球を密着させてイメージが変容する様を見せていたが、本展では複数の作品を重ねて展示したり、同一イメージの2点のうち1点を歪んだイメージで提示するなどの手法が取られた。彼の作品を見ていると、現実世界までもがいつしか歪みはじめるような不安感に襲われる。そうした精神作用を持つことが彼の作品の特徴なのだ。個展のたびに新たな展示方法の実験を繰り返すことで、作品の強度は順調に増している。
2013/06/01(土)(小吹隆文)
濱田祐史「Pulsar + Primal Mountain」
会期:2013/05/07~2013/06/29
フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]
濱田祐史は1979年大阪府生まれ。日本大学芸術学部写真学科を2003年に卒業後、出版社勤務を経てイギリスに滞在し、本格的に写真家としての活動を開始する。東京での初個展となる今回の展示には、「Pulsar」と「Primal Mountain」という2作品が出品された。
「Pulsar」は身近にある光を可視化しようとする作品。風景の一部(かなり大きなパートを占めることもある)に射し込む光が、スモークの効果で、幾筋かの光束、あるいは光のプールのような状態として見える様子が、繊細に仕上げられたカラープリントに定着されている。たまたま公園で撮影していたときに、ブランコを漕いでいた少女が「この光はどこからくるの?」と呟いたのを聞いたのが、制作のきっかけになったという。「Primal Mountain」は銀紙のようなもので架空の山の形をつくり、それらを、空を背景として撮影した連作である。こちらはある日友達から、「美しいけれど何やら嘘っぽく」感じる山のポストカードが届いたことから思いついたプロジェクトだ。
両方とも発想の妙があり、それを形にしていく手際も悪くない。だが、どこか綺麗ごとに終わってしまっているところが、なんとも歯がゆく感じてしまう。作品としてすっきりとまとめるのを優先するよりも、もう少しもがいてほしいとも思う。写真家としての潜在能力はかなり高そうなので、それは決して無い物ねだりではないはずだ。
2013/05/31(金)(飯沢耕太郎)
小沢剛 高木正勝 アフリカを行く──日本とアフリカを繋ぐ2人のアーティスト
会期:2013/05/25~2013/06/09
ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]
第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の開かれている横浜で、その「パートナー事業」として行なわれた展覧会。小沢剛と高木正勝の2人展で、どちらもアフリカをテーマにした新作を見せているが、小沢が抜群にサエている。ふだんあまり縁のないアフリカと日本をつなぐものを考えて、そこに福島の原発事故が頭をよぎり、出てきた解が野口英世。福島出身の野口は、アメリカを経てアフリカに渡り、みずからの研究対象だった黄熱病に罹ってガーナで死去した細菌学者だ。これは絶好のネタ! と小沢が叫んだかどうかは知らないが、さっそくアフリカに渡って現地の看板屋に野口の生涯を描いてもらったのが、1階に展示されている8枚の大画面《帰って来たDr. N》だ。節約のためか、横長の画面を左右2場面に分けている。描かれているのは日本人のはずだが、顔も衣装も背景も日本なのか中国なのかアフリカなのかわからず、思わず笑ってしまう。また文字を覚えたDr. Nの母からの手紙は、ひらがなっぽいけどハングルにも似た不思議な書体で書かれ、頭がクラッとする。そのかたわらには野口自身の筆になる油絵も飾られているが、本物かよ。最後はDr. Nの子孫が福島に里帰りし、放射能汚染を調査するというストーリー。TICADの主旨がいつのまにか原発問題にスリ替わっているのだ。これで日本がアフリカに原発を輸出するのは難しくなった(としたら大成功)。
2013/05/31(金)(村田真)
室井公美子「It searches」
会期:2013/05/11~2013/06/08
ギャラリーモモ六本木[東京都]
0号程度の紙に水彩が200点はあろうか。色彩は「室井カラー」ともいうべき灰色がかった紫が中心で、顔や人体、動物、花、風景を思わせる半抽象的イメージが、にじみやボカシを生かして描かれている。キノコ雲のように見えるものも2、3あったが、偶然か、気のせいか。
2013/05/31(金)(村田真)