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artscapeレビュー

ボストン美術館『In the Wake 震災以後:日本の写真家がとらえた3.11』

2015年09月15日号

発行所:青幻舎

発行日:2015年5月15日

「震災以後」の写真表現については、これまでさまざまな形で紹介され、論じられてきた。当然、日本の美術館においても、展覧会が企画されていい時期にきている。だが、今のところ畠山直哉(東京都写真美術館)や志賀理江子(せんだいメディアテーク)らの単発の企画以外では、畠山直哉と宮下マキが出品した「3・11とアーティスト:進行形の記録」(水戸芸術館現代美術センター、2012年10月13日~12月9日)くらいしか思いつかない。よくありがちなことだが、日本の美術館関係者が足踏みしている間に、アメリカのボストン美術館が「In the Wake 震災以後:日本の写真家がとらえた3.11」展(2015年4月5日~7月12日)を企画し、カタログを刊行した。本書はその日本語版である。
出品作家は新井卓、荒木経惟、川内倫子、川田喜久治、北島敬三、志賀理江子、瀬戸正人、武田慎平、田附勝、畠山直哉、潘逸舟、ホンマタカシ、三好耕三、横田大輔、米田知子の15名。「写真というメディアで作品を制作する日本の芸術家」たちをフィーチャーする展覧会の人選としては、ほぼ過不足のない顔ぶれといえるだろう。震災を間近で撮影し、作品化している者だけではなく、荒木経惟や横田大輔のように、被災地から遠く離れた場所で「変わってしまったであろう私の意識」(横田)を取り込もうとしている作家にまで、よく目配りが利いている。日本の現代写真家たちの仕事が、グローバルなアート・ネットワークの中にしっかりと流通しはじめていることのあらわれといえそうだ。
作家たちの多くは、直接の被害の状況だけではなく、「見えない」放射線の恐怖や被災者のメンタリティをいかに可視化するのかというむずかしい課題に取り組んでいる。そのことも、写真表現の新たな領域を切り開くものとして評価できる。ただ、いかにも美術館の展覧会という枠組みの中に作品がおさまってしまうと、何かが抜け落ちてしまうような気がしないでもない。もし、日本の美術館で同じような展覧会がおこなわれるとしたら、もっと地域性や個人性にこだわった、偏りのあるものになってもいいと思う。バランスのとれた展示は、むしろ震災の体験を均質化してしまうのではないかと思うからだ。
一つ気になったのは「震災以後」という日本語版のタイトルである。「In the Wake」という原題は、「震災の最中」つまり震災がまだ続いているというニュアンスを含むのではないかと思うが、「震災以後」だと既に終わってしまったというふうに受け取られかねない。

2015/08/01(土)(飯沢耕太郎)

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