artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
シンポジウム「札幌市資料館を再考する」~アートによる歴史的建造物の活用と展望~
札幌市資料館 2階研修室[北海道]
札幌へ。初めてテレビ塔に登る。名古屋のタワーと同様、今やそれほど高い構築物ではないのだが、東西の軸線上という都市計画的に重要な位置に置かれているので、やはり見晴らしがいい。続いて、札幌市資料館へ。1926年に誕生したかつての控訴院である。名古屋の市政資料館と同じ施設で、現在、この二都市だけに残るという。ここで札幌国際芸術祭2014プレフェスティバルのシンポジウム「資料館を再考する」の前半を聴講した。建築史家の角幸博は、この建物の意匠的な特徴や保存のあり方について。芹沢高志は、神戸のデザインセンターKIITOの試みと、横浜トリエンナーレ2005での近代建築活用の事例を紹介した。大変でも、あえて近代建築を使い続けることの意義を語る。
写真:上=札幌テレビ塔。中=テレビ塔からの眺望。下=札幌市資料館。
2014/03/23(日)(五十嵐太郎)
浅井忠の眼──パリの街角を飾ったポスター
会期:2013/12/04~2014/03/30
堂本印象美術館[京都府]
19世紀末ヨーロッパのポスター、いずれも高さ1メートルを超える大きなものばかり、およそ20点による展覧会。カラーリトグラフ特有のレトロでポップな雰囲気が世紀末の享楽と熱狂を伝える。色数5、6色程度、繊細な描写はなく、よく見ると微かな型ズレもみられる。カラーリトグラフは表現としてはけっして豊かとはいえない技術だが、だからこそ構成要素が極限まで集約されて大胆で強い印象を与える。やがてオフセット印刷が普及して、より精緻で複雑な、より早く大量の印刷が可能になるまで、モダニズムの先駆けを華やかに演出した技術である。アール・ヌーヴォー調のロゴタイプが商品名を高らかに謳い、洒落た装いの女性たちが笑ったり踊ったりと躍動し、背景や装飾が魅惑的な異空間を演出する。その多くは演劇や舞踏会、アルコール製品やお菓子のポスターだ。老若男女、パリの街角を行き交う人々を楽しく幸せな夢の世界へと誘ったのだろう。
では、日本の若者たちはこれらのポスターになにを見たのだろうか。浅井忠は、洋画家、図案家として日本近代の黎明期に活躍した人物だ。浅井は1900年から約2年6カ月間フランスに留学し、帰国後は産業デザインの専門教育機関として創立された京都高等工芸学校で指導にあたるほか陶芸家たちとの研究団体、遊陶園に参加するなど教育界や産業界に多大な影響を及ぼした。このころヨーロッパで繁栄を極めたアール・ヌーヴォーをそのまま持ち帰るのではなく、尾形光琳、光悦をはじめ過去の日本画の研究をとおして日本独自の装飾を追求したことで知られる。浅井の導きでヨーロッパと出会った日本の若者たち。彼らの眼には、ポスターに描かれた世界はどのように映ったのだろうか。京都工芸繊維大学では美術工芸資料館を中心に、近年、所蔵資料が次々に一般公開されており当時の教育内容や学生作品などが紹介されている。本展では、浅井忠の眼、そして図案を学んだ若者たちの眼に思いを馳せることができる。[平光睦子]
2014/03/20(木)(SYNK)
graf『ようこそ ようこそ はじまりのデザイン』
大阪を拠点に活動するデザイン・ユニット「graf」が、これまでのデザイン活動の軌跡とものづくりへの思いを綴った本。家具製造・販売、内装設計、プロダクト・デザイン、グラフィック・デザイン、飲食店の運営やアート・イベントまで、衣・食・住を巡って彼らの活動は幅広い。異なるメンバーたちが執筆を担当しているが、全編を通して、「集団で物をつくること」、つまり専門領域を異にする多彩な人々が集まって行なう協働/人とのコミットメントのありかたに向けて、ゆるやかに糸が紡ぎだされているのが興味深い。そこがgrafのクリエイティヴたる所以だからだ。2012年末に建物を移転し始動した「graf studio」は、彼らのアイディアが生まれる場を伝え、そのプロセスを体験できるようにと名付けられたという。本書を読めば、創設15年を経たgrafの今後の展開がますます気になるだろう。[竹内有子]
2014/03/16(日)(SYNK)
背守り──子どもの魔よけ
会期:2014/03/07~2014/05/20
LIXILギャラリー大阪[大阪府]
「背守り」とは、母が子の着物の背中に縫い付けた糸の縫い取り。子どもの無事な成長を願って、昭和初期まで日常的に使われた糸によるおまじないである。昔、「背に縫い目のない着物を着ると魔がさす」と言われた。大人の着物は二枚の布を背筋に沿ってつなぎ合わすための縫い目があるが、子どもの着物は小さいからそれがない。だから糸や布が貴重な時代に、背守りは魔除けとして用いられた。本展では、「背守り」のついた着物、端切れを集めてつくられた「百徳着物」、意匠の見本帳、現代の作例等、約110点の資料を見ることができる。母が子への思いを込めた祈りの糸の形は、背に沿って糸を縫いおろしたシンプルなものから、花や縁起物を象る工夫を凝らした文様、立体アップリケのような「押絵」までさまざま。時代が豊かになるにつれ変化した、衣文化における背守りの変遷を見ることができる。もうひとつの見どころは、写真家の石内都が撮り下ろした写真。かつて着物を着た子供たち・家族の情や温もりまでをも写し取ったような写真には、目が吸い寄せられる。[竹内有子]
2014/03/15(土)(SYNK)
my home town わたしのマチオモイ帖
会期:2014/02/28~2014/03/23
東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]
「マチオモイ帖」とは、自分が生まれた町や大切に思っている町を選びクリエイターが個人の責任編集でつくる小冊子。2011年、瀬戸内海の小さな島の町を紹介するパンフレットとして始まり、その企画に共感したクリエーターたちの参加を得てこれまでに各地で展覧会を開催してきた。今回の特別展ではさらに参加者が拡大し、800点を超える「マチオモイ帖」が展示された。クリエーター個々人の編集によるものなので、身の回りの生活から周辺に取材するものまで、関心や行動の範囲、人々との関わりによって内容はさまざま。対象が都会の街であっても、郊外の町であっても、観光地であっても、いわゆる観光ガイドのように外から来た人が外から来る人のために選ぶ視点ではなく、その町で暮らしている人の眼で見た町のガイドである点が共通する。すなわち、「マチオモイ帖」をつくることは、その町で生まれた人、その町に住む人が、ありふれた普段のくらしを新たな視点で見つめ直し、発見する行為なのである。それゆえ作品の展覧会ではあるものの、読者であるよりもつくり手になりたいと思わせる展示であった。[新川徳彦]
2014/03/14(金)(SYNK)