artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
クヴィエタ・パツォウスカーとチェコの絵本展
会期:2013/12/06~2013/12/27
美術館「えき」KYOTO[京都府]
チェコの女性絵本作家、クヴィエタ・パツォウスカー(1928- )とチェコ絵本の世界を紹介する展覧会。「絵本」というと、ふんわりと優しく、穏やかな気持ちになれる本(絵)を想像する人が多いはずだが、彼女の作品は強烈な色彩と幾何学的造形といった、絵本の概念を超える斬新なものが多い。時にはフォーヴィスムを、時には構成主義を連想させる。パツォウスカーは「(絵本の)絵は文章の説明ではない。それ自体、視覚表現である」と言っているが、まさにそのとおりで、子どものためというより、大人のための絵本という気がした。本展ではパツォウスカーの代表作とともに、チャペック兄弟やヨゼフ・ラダなどの作品によって、パツォウスカーを育んだチェコ絵本の歴史を知ることもできる。[金相美]
2013/12/17(火)(SYNK)
カタログ&ブックス│2013年12月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
「夏の家」についての覚書
東京国立近代美術館は、2012年、開館60周年記念事業の一環として、美術館前庭の芝生にあずまやを設置し、憩いの場として約8カ月間開放する建築プロジェクト「夏の家」を企画・実施しました。設計・施工を依頼したのは、世界の注目を集めるインドの建築集団スタジオ・ムンバイ。本書は、2012年8月26日-2013年5月26日まで9カ月間公開された「夏の家」が生まれた背景から、つくられる過程、そして、どのように使われたのかを記録・報告するものです。(番外編として2013年7月に石巻へ移設された様子も収録)
[東京国立近代美術館「夏の家(仮)ブログ」より]
ブルーノ・タウトの工芸──ニッポンに遺したデザイン
2013年12月6日(金)〜2014年2月18日(火)の期間、大阪・梅田のLIXILギャラリー大阪会場にて開催される「ブルーノ・タウトの工芸〜ニッポンに遺したデザイン〜展」のカタログ。
本書では、まずタウトデザインの工芸品を、益永研司氏の撮りおろしの図版でたっぷりと紹介。タウトの建築になぞらえて、鮮やかな色彩空間で捉えた工芸品の数々は、これまでとは違う新たな表情を醸し出す。また、日本で唯一の弟子とも呼ばれた故水原徳言氏が記した文章を、当時の記録写真や解説を交え掲載、タウトの日本滞在時の素顔や実情を細かく伝える。また、タウトの日記や記録などもひも解きながら、尊重していた日本文化とは何かも探る。さらに論考では、彼のベースとなる建築作品と貫かれた思想を紹介し、そこから見える工芸の世界観を詳らかにする。当時の日本の工芸やデザインに一石を投じたタウトの視点に迫る一冊。
[LIXIL出版サイトより]
食と建築土木──たべものをつくる建築土木(しかけ)
食べものの生産・加工のために用いられてきた農山漁村の23の建築土木を、多くの写真とともに紹介します。
たとえば宇治の茶農家が冬期に柿を干すために組み立てる巨大な柿屋、遠州灘沿いの砂丘地帯に畑地を確保するべく作られる砂防のための仮設物、長崎県西海町の海岸沿いの崖に連続して突き出す棚状の大根櫓など。これらの不思議な構築物は出自も定かでなく、永続的なかたちを持たないため、これまであまり注目されることがありませんでした。しかし一方で人々の暮らしの営みと一体になったこれらの建築土木(しかけ)は、地域の風土や人間の知恵を伝え、魅力的な固有の風景を形づくり、私たちに今日の建築や食、そして文化のあり方について問いかけてくるのです。
[LIXIL出版サイトより]
藤森照信、島村菜津の対談や大江正章、松野勉によるコラムも収録。
超域文化科学紀要 第18号 2013
超域文化科学専攻所属教員と学生による研究論文集。比較文学比較文化、表象文化論、文化人類学という3つのコースが、それぞれのアプローチの特徴を生かし、様々な文化的・社会的現象を分析する場である。掲載される論文は、本専攻所属の教員による厳格な審査を経ている。
[東京大学大学院総合文化研究科サイトより]
ファッションは魔法
ファッションの魔法を取り戻す。1秒でも着られれば服になり、最大瞬間風速で見る人を魅了し世界を動かす。物語を主人公に巨大な熊手のコスチュームで秘境の祭りを出現させる山縣。ファッションショーと音楽ライブを合体させ、アニメやアイドルを題材に日本の可能性を探る坂部。「絶命展」でファッションの生と死を展示して大反響を呼び、自らのやり方でクリエイションの常識を覆してきた2人の若き旗手が、未来の新しい人間像を提示する。「これからのアイデア」をコンパクトに提供するブックシリーズ第9弾。画期的なブックデザインはグルーヴィジョンズ。
[朝日出版社サイトより]
新しい広場をつくる──市民芸術概論綱要
ある種の芸術になぜ助成金を出すのか。経済政策では解決しきれない停滞のなかでどう生きていくのか。被災地が復興し、疲弊した地方が自立するためには何が必要か。社会的弱者、文化資本の地域間格差など、諸問題に芸術・文化が果たす役割を深く問い、社会的包摂を生み出す「新しい広場」の青写真を描く文化論的エッセイ。
[岩波書店サイトより]
2013/12/16(月)(artscape編集部)
匠の技に学ぶ──日本の大工と絵図・道具 in 大阪
会期:2013/11/30~2013/12/23
大阪市立住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」[大阪府]
鑿(のみ)、鉋(かんな)、鋸(のこ)など、日本各地の職人たちが愛用した大工道具を紹介する展覧会。あわせて建築絵図や技術書、模型なども展示している。職人たちの技が光る名品(完成品)を作品として展示・鑑賞するのが通常であると言えるなら、その制作過程を支えた道具の展示はやはり珍しい。もちろん、道具そのものを作品として見ることもできるが、同展を珍しいと言ったのは道具そのものではなく、道具をとおしてその使い手である大工の仕事に焦点を当てているからだ。また、よく手入れされた古い道具を見ていると大工の魂が感じられる。[金相美]
2013/12/13(金)(SYNK)
現代のプロダクトデザイン──Made in Japanを生む
会期:2013/11/01~2014/01/13
東京国立近代美術館[東京都]
「現代のプロダクトデザイン」というタイトルから最初は家電や自動車などのいわゆる「工業デザイン」を想像したが、そうではなかった。木や金属、陶磁器、布を素材とした日用品。展示品を見ただけでは工芸の展覧会と言われてもわからない。工芸との違いは、形を決める人とつくる人が異なること。デザイナーがデザインし、製造業者がつくる。一般的なデザインのプロセスである。他方でこれらは一般的な工業デザインとも異なる。すなわち、いずれも形以上に、素材と極めて密に関わる仕事なのである。なぜなのかと言えば、伝統工芸あるいは地場産業の振興とデザイナーとが深くかかわっている事例だからだ。伝統工芸・地場産業振興のためにデザインを活用するという試みは、新しいものではない。しかし、諸山正則・東京国立近代美術館主任研究員が指摘しているように、1990年代のそれはうまくいったとは言えない。なにが問題であったかという点は、その後も持続している喜多俊之の仕事と対比すればわかりやすい。喜多が使い手=市場を徹底的に分析したうえで地場産業の技術を援用するという手法を用いたのに対して、外部から投入されたデザインの多くは表面的・一過性に終わり、つくり手と使い手を結びつけるものにならなかったのである。大メーカーとの仕事であれば、マーケティング、製造、流通・販売は専門の部署に任せることができる。デザイナーは形だけをデザインすれば済んでしまうかもしれない。しかし、小規模な製造業者ではそうはいかない。デザイナーに求められる領域はずっと広い。今回の展覧会で紹介されているデザイナーたちの仕事の特徴は、つくり手と使い手を結びつける媒介としてのデザインの役割を強く意識している点にある。[新川徳彦]
2013/12/12(木)(SYNK)
ブルーノ・タウトの工芸──ニッポンに遺したデザイン
会期:2013/12/06~2014/02/18
LIXILギャラリー(大阪)[大阪府]
ドイツの建築家ブルーノ・タウト(1880-1938)が日本でデザインした工芸品、家具、デッサン画など約60点を展観している。タウトは、1933年から約3年半にわたって日本に滞在した期間を「建築家の休日」と呼び、日本の芸術文化について広く見聞、熟考した。この間、『ニッポン』『日本美の再発見』『日本文化私観』等に代表される著述活動に励んだだけでなく、工芸品の製作に取り組んだ。まず仙台の商工省工芸指導所でデザイン指導を行ない、次に大倉陶園のアドバイザーに従事した。そして、群馬県高崎市郊外にある少林山達磨寺の「洗心亭」を居住の場に定め、井上房一郎の招きによって井上工芸研究所の工芸デザインを担当するようになる。彼のデザインした工芸品は、東京・銀座の工芸店「ミラテス」で実際に販売された。本展で中心をなすのは、これら漆器、木工、竹製品の工芸品である。木工品は木を素地のまま用い、木目が見えるよう透明なラッカーをかけてある。木製のパイプ掛付煙草入れなどを見ると、職人の確かな手技が細部まで発揮され、美しい曲線を描いた形に魅了される。そのとおり、タウトのものづくりへのこだわりは職人泣かせであったという。また漆塗りの筆入れには、黒地に鮮やかな縞の彩色が映え、カラリストであるタウトの本領を垣間見ることもできる。彼は出展品の《竹の電気スタンド》のように、日本の伝統的な素材である「竹」を使ったデザインを多く残している。素材の特性をいかすことに配慮され、形や色においてはタウトの繊細でいて鋭い感覚が見て取れる。日本工芸の未来に対するタウトの真摯な思いが伝わってくる展覧会である。[竹内有子]
2013/12/08(日)(SYNK)