artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

大阪市立東洋陶磁美術館「森と湖の国──フィンランド・デザイン」展

会期:2013/04/20~2013/07/28

国立国際美術館[大阪府]

本展は、フィンランドの18世紀後半から現代にかけてのガラス・陶磁器約150点を展示したもの。フィンランドはアイスランドと並んで、世界でもっとも北に位置する国のひとつ。南部と西部の海域には多くの島々が点在し、大小6万を超える湖があり、森林全体の面積は国土の7割を超える。厳しいながらも豊かな自然環境は、人々のあいだに自然に対する畏敬の念と親近性を育んできた。これは、本展の出展作の多くに自然のモチーフが用いられていることからも首肯されよう。フィンランド・デザインの特徴とは、ひとつに「手仕事を基礎とするものづくり」の伝統、もうひとつが「機能性」。アルヴァ・アールト(1898-1976)のデザインで現在も生産されている、湖の形状の花瓶《アールトの花瓶 9750/3030》や、入れ子状に配置することで花のように見える《アールト・フラワー 3034A-D》のように、芸術性と機能性を兼ね備えたプロダクト・デザインが1930年代以降伝統となっていく。ガラスのみならず陶芸、銀細工、木工、またグラフィック等の多くの分野で活躍、47年からはカルフラ・イッタラ社に所属したタピオ・ヴィルッカラ(1915-85)のデザイン、《カンタレッリ(アンズタケ)3280》。フィンランドの深い森のイメージを強く喚起するこの花瓶には、有機的な形態に繊細な彫りが入ることで、生き生きとした生命感を感じさせる。また、「フィンランド・デザインの良心」と呼ばれた、カイ・フランク(1911-89)の食器シリーズ《キルタ》などは、盛り付けや保存、器同士の組合せや片付けの用にまで配慮がなされた好例。こうした機能追及の背景には、デザイナーたちが伝統を踏まえつつ、使用者の視点を重視する進取の気質が感じられる。初夏の季節にガラスの涼やかさが目に心地良く、フィンランドの豊かな生活文化を感じ取れる展覧会である。[竹内有子]

2013/06/05(水)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00021038.json s 10088801

若林剛之『伝統の続きをデザインする──SOU・SOUの仕事』

著者:若林剛之
出版社:学芸出版社
発行日:2013年5月
価格:1,890円(税込)
判型:B6判/192頁


「SOU・SOU(そうそう)」は、京都を中心に地下足袋など和装を製造販売するデザインユニット。本書はその代表を務める若林剛之がSOU・SOUというオリジナルブランドを立ち上げるまでの経緯と、日本の伝統文化や技術について語ったものである。SOU・SOUの公式サイトに書かれていた「SOU・SOUへの道」という文章を加筆したもののようで非常に読みやすい。日本の伝統文化と技術にこだわりながらも、ポップなスタイルで国内外において根強い人気を得ているSOU・SOUの話と、著者・若林剛之のブランディング経験が内容の中心となっているが、読み進めていると日本の伝統文化の良さや真のグローバル化とはなにかについて考えさせられるところも多い。[金相美]

2013/05/31(金)(SYNK)

幸之助と伝統工芸

会期:2013/04/13~2013/08/25

パナソニック汐留ミュージアム[東京都]

「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助(1894-1989)は、伝統工芸の支援者でもあった。1960年には日本工芸会近畿支部支部長に就任。1977年には日本工芸会の名誉会長に就任している。個人としてばかりではなく、企業としても松下電器産業(現・パナソニック)は日本伝統工芸展において1992年より「パナソニック賞」(2007年度までは「松下賞」)を提供してきた。インターネット上の「伝統工芸ミュージアム」づくりにも協力してきたという。パナソニック汐留ミュージアムの開館10周年を記念して開催されている本展は、松下幸之助と伝統工芸との知られざる関わりを、彼のことばや蒐集品、関わりのあった工芸家の作品を通じて振り返る展覧会である。
 幸之助は40歳を過ぎたころから茶道に関心を持つようになった。そして茶道に携わるなかで、茶道具を制作する工芸家たちにも関心を寄せるようになり、工芸家の団体である日本工芸会を知るようになったという。展覧会第1章は「素直な心」と題して、幸之助と茶道との関わりを見る。彼は楽一入(1640-96)、楽宗入(1664-1716)の黒楽茶碗を好んで用いたというが、三輪休和(1895-1981)、荒川豊蔵(1894-1985)ら、同時代の作家たちの作品も蒐集していた。そして茶道具からはじまった工芸家との関わりは、その他の伝統工芸品に拡大する。第2章「ものづくりの心」では、陶芸、染織、漆芸、金工など、幸之助と関わりの深い工芸家たちの作品が紹介される。1979年に当時の松下電器産業本社で撮影された写真には、森口華弘(友禅作家、1909-2008)、黒田辰秋(木工・漆芸作家、1904-1982)、角谷一圭(金工作家、1904-1999)、羽田登喜男(友禅作家、1911-2008)の姿を見ることができる。展覧会のコピーに「伝統工芸は日本のものづくりの原点である」というあるように、彼は電球ソケットから始まった自身のものづくりと、伝統工芸の精神を重ねてみていたに違いない。だからこそ、彼はただ美を愛で作品を求めるばかりではなく、ものをつくる人との関わりを大切にし、ものづくりの精神を支援してきたのであろう。[新川徳彦]


左=三輪休和《萩茶碗(十代休雪)》1967-74年頃、パナソニック株式会社蔵
右=黒田辰秋《金鎌倉四稜茶器》1965-72年頃、パナソニック株式会社蔵(後期展示)


左=番浦省吾《双蛸図漆貴重品筥》1956年、パナソニック株式会社蔵(中期展示)
右=《萬暦赤絵方尊式花瓶》1573-1619年、パナソニック株式会社蔵(中期から追加展示)

*会期中展示替えあり
前期:2013年4月13日(土)~5月28日(火)[終了]
中期:2013年5月30日(木)~7月9日(火)
後期:2013年7月11日(木)~8月25日(日)


開館10周年記念特別展「幸之助と伝統工芸」/汐留ミュージアム

2013/05/24(金)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00020870.json s 10087533

ヨーロピアン・モード2013/特集:華やかな人々

会期:2013/04/12~2013/06/08

文化学園服飾博物館[東京都]

2階は毎年恒例のファッション通史。18世紀ロココの時代から1970年代の若者たちによる多様なスタイルの出現まで、200年にわたるモードの変遷を追う。同時代の社会的経済的背景や風俗などを解説するパネルもわかりやすく、ファッションが個々人の好みではなく、政治的、経済的、社会的な要因と密接に関わり合って変化してきたことが示されている。1階展示では「華やかな人々」が特集されている。オードリー・ヘプバーンが「ローマの休日」(1953)で着用したドレス、ロシア・ロマノフ家のマリア・ニコラエヴナのイヴニング・ドレス(1840頃)、ダイアナ元英国皇太子妃のイヴニング・ドレス(1988)、越路吹雪の舞台衣裳など、女優、歌手、王室、セレブらの衣裳を、誰がどのような場面で着用したのかという解説とともに示している。ファッションはつねに時代や社会とともにありながらも、個々人のアイデンティティの発露でもあるというふたつの側面が奇しくも現われた構成になっている。[新川徳彦]

2013/05/22(水)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00021211.json s 10087531

暮らしと美術と高島屋──世田美が、百貨店のフタを開けてみた。

会期:2013/04/20~2013/06/23

世田谷美術館[東京都]

世田谷美術館は2007年に「福原信三と美術と資生堂」と題して、企業と美術をテーマにした展覧会を開催している。「暮らしと美術と高島屋」展はその第2弾にあたる企画である。化粧品の資生堂と百貨店の高島屋とでは取り扱う商品やビジネスの性格が異なるが、両者に共通する部分もある。それは、社会のなかで企業の文化が育ち、そしてその企業自体が文化を発信し、社会に大きな影響を与えてきたことである。もうひとつ両社に共通しているのは、ともに自社の歴史的資産を大切に守り、それを一般に公開してきたことにあろう。資生堂は静岡に「資生堂企業資料館」を開設している。高島屋は大阪に「高島屋史料館」を持っている。本展でも映像での出品も含めると750点にも上る出展品の大部分が高島屋史料館の所蔵品である。
 展示は四つの章から構成されている。第1章「美術との出会い」は、万博との関わりを軸に、高島屋と作家たちとのつながりに焦点を当てたもの。呉服商として創業した高島屋は明治21(1888)年にはスペイン・バルセロナ博覧会に出品している。博覧会への出品と受賞を高島屋は広告宣伝の手段として重視していたという。ここではさまざまな博覧会に出品された織物の下絵や、賞状、広告のほか、明治44(1911)年に設置された美術部が扱ってきた画家たちの作品が展示されている。第2章「暮らしとの出会い」では、百貨店の建築や装飾、ウィンドウディスプレイ、広告ポスター、出版物など百貨店と大衆との関わりが紹介されている。第3章「継承と創生の出会い」では、名匠が染織の技を競い合う「上品会」、モダンなデザインを生み出した「百選会」の作品が紹介され、呉服商をルーツとする百貨店が、商品を販売するばかりではなく伝統的な技術の保存と継承、そして新しい柄の創出にも力を注いでいることが示されている。第4章「明日との出会い」は、鈴木弘治氏(現・高島屋取締役社長)と辻井喬氏(セゾン文化財団理事長)との百貨店文化についての対談映像である。
 「百貨」の名が示すとおり、本展示の内容は多岐にわたるが、百貨店としての高島屋が、呉服と美術、博覧会や催事、広告宣伝の発達と複雑に絡み合って形成されてきたことがよくわかる。織物の下絵の制作は、美術家たちとの繋がりを形成する。明治42年の「現代名家百幅画会」の開催は美術部の設置につながる一方で、染織品の意匠にも影響を与えた。すなわち、呉服部門にせよ美術部門にせよ、つくり手/売り手といった独立した存在ではなく、染織家、画家、百貨店は互いにビジネスパートナーといえるような関係にあった。また、店内で開催される美術展・博覧会は独立したイベントではなく集客のための装置でもあった。百貨店を訪れた人々はモダンな建物の中で新しい美術、新しい文化に触れ、レストランで食事をし、当時は珍しかったエスカレーターやエレベーターに乗る。百貨店が「文化装置」といわれるのは、ものを売るだけではなく、人々に新しい体験を提供する場でもあったからにほかならない。創業180周年を迎えた高島屋を取り上げた本展は、ひとつの百貨店の企業史であるばかりでなく、日本の美術、文化形成の歴史的証言でもある。[新川徳彦]

2013/05/15(金)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00021219.json s 10087534