artscapeレビュー
幸之助と伝統工芸
2013年06月01日号
会期:2013/04/13~2013/08/25
パナソニック汐留ミュージアム[東京都]
「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助(1894-1989)は、伝統工芸の支援者でもあった。1960年には日本工芸会近畿支部支部長に就任。1977年には日本工芸会の名誉会長に就任している。個人としてばかりではなく、企業としても松下電器産業(現・パナソニック)は日本伝統工芸展において1992年より「パナソニック賞」(2007年度までは「松下賞」)を提供してきた。インターネット上の「伝統工芸ミュージアム」づくりにも協力してきたという。パナソニック汐留ミュージアムの開館10周年を記念して開催されている本展は、松下幸之助と伝統工芸との知られざる関わりを、彼のことばや蒐集品、関わりのあった工芸家の作品を通じて振り返る展覧会である。
幸之助は40歳を過ぎたころから茶道に関心を持つようになった。そして茶道に携わるなかで、茶道具を制作する工芸家たちにも関心を寄せるようになり、工芸家の団体である日本工芸会を知るようになったという。展覧会第1章は「素直な心」と題して、幸之助と茶道との関わりを見る。彼は楽一入(1640-96)、楽宗入(1664-1716)の黒楽茶碗を好んで用いたというが、三輪休和(1895-1981)、荒川豊蔵(1894-1985)ら、同時代の作家たちの作品も蒐集していた。そして茶道具からはじまった工芸家との関わりは、その他の伝統工芸品に拡大する。第2章「ものづくりの心」では、陶芸、染織、漆芸、金工など、幸之助と関わりの深い工芸家たちの作品が紹介される。1979年に当時の松下電器産業本社で撮影された写真には、森口華弘(友禅作家、1909-2008)、黒田辰秋(木工・漆芸作家、1904-1982)、角谷一圭(金工作家、1904-1999)、羽田登喜男(友禅作家、1911-2008)の姿を見ることができる。展覧会のコピーに「伝統工芸は日本のものづくりの原点である」というあるように、彼は電球ソケットから始まった自身のものづくりと、伝統工芸の精神を重ねてみていたに違いない。だからこそ、彼はただ美を愛で作品を求めるばかりではなく、ものをつくる人との関わりを大切にし、ものづくりの精神を支援してきたのであろう。[新川徳彦]
2013/05/24(金)(SYNK)