artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
『なぜデザインが必要なのか──世界を変えるイノベーションの最前線』
本書は、2010年にニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザインミュージアムで開催された「なぜ今デザインなのか?(Why Design Now?)」展をもとに刊行されたもの。同館は2000年にデザイン・トリエンナーレを開始し、当該展は第4弾にあたる。この回は初めて、アメリカのみならず、全世界44カ国から集めた134の先進的なデザインを紹介している。テーマは、「エネルギー、移動性、コミュニティ、素材、豊かさ、健康、コミュニケーション、シンプリシティ」の八つに設定される。これらの主題を貫く思想は、デザインはいかにしてよりよき社会の形成に貢献をしていけるかという問いである。例えば、「エネルギー」の章では、自給自足型の未来都市のデザインから海の波力で電力をつくるシステムまで、環境における持続可能性を追求するデザイン・プロジェクトの数々をみることができる。「移動性」では、人とモノの移動が扱われるが、リサイクルできる軽量素材を用いつつ高速・高エネルギー効率に配慮した次世代高速鉄道AGVなど、都市の交通・輸送システムの問題解決をするデザインが提示される。「コミュニティ」では、地元住民だけでなく弱者のためになにができるかについて問うた建築、「素材」では〈リデュース、リユース、リサイクル〉を志向する新素材が紹介されている。個人と社会の健やかさに資する「豊かさ」と「健康」と「コミュニケーション」、そしてモノの外観についてだけでなくデザイン・プロセスの簡素化までをも含む「シンプリシティ」を実現するデザイン。「デザイン」とは、たんに製品の完成形やモノの外観だけを指すのではない。同書は、社会文化、政治経済、技術、倫理、美的価値すべてに関わる「デザイン思考」をつまびらかにしようとする。本展が端的に示すとおり、デザインとは本来的に「未来」を志向するものなのだ。[竹内有子]
2013/04/12(金)(SYNK)
中谷宇吉郎の森羅万象帖 展
会期:2013/03/07~2013/05/30
LIXILギャラリー大阪[大阪府]
科学者また随筆家としても知られる中谷宇吉郎(1900-62)の、雪氷研究を中心とする業績を、写真、スケッチ、科学映画等の資料を通じて紹介する展覧会。会場の随所にちりばめられた宇吉郎の言葉から、生涯の師・寺田寅彦から学び得た科学研究に対する姿勢、自然への対峙のしかたについても看取できる。なかでも必見なのは、天然および人工雪の結晶の写真アルバムである。宇吉郎は、「観察の武器」として写真を多く用い、3,000枚にもおよぶ結晶の写真を撮影したという。どれひとつとして同じものがない、雪の結晶の美しさに目を見張る。一人の科学者が自然美を理解しようと積み重ねてきた真摯な営為は、私たちに科学と芸術の合流点を想起させる。科学者と芸術家が創造的な仕事をするプロセスは、よく似ているからだ。前者は自然の法則を解き明かそうと、雪の結晶のようなごく小さな部分を調べ尽くして、一般的な規則性を導き出す。また、後者も同様に自然をお手本としながら、作品の細部ではなくて、全体的な構造を問題とする。さらに、自然にみられる美的秩序・プロポーションは芸術家たちの造形の源泉となってきた。宇吉郎は形の「うつくしくない」結晶をも愛したという。それは、科学者が自然のなかから対称性や法則性を引き出そうとするとき、不完全/非定形なものに着目する態度をよく表わしている。造形における美の原理と今日的な「形の科学」についての示唆に富む展覧会だ。[竹内有子]
2013/04/12(金)(SYNK)
『三宅一生──未来のデザインを語る』
「プリーツ・プリーズ」「A-POC」などで知られるファッション・デザイナー、三宅一生が自分の仕事やデザインについて語った言葉をまとめた一冊。本書のベースとなったのは2007年にNHK教育テレビで放送された同名の番組「三宅一生──未来のデザインを語る」だという。つまり当時行なったロングインタビューを軸に構成されたもの。そのためか特別DVDが付録としてついている。デザインへの思いや出会い、作品(ファッションショーの風景)、三宅が設立に関わったデザインミュージアム「21_21 DESIGN SIGHT」の誕生から三宅自身がディレクションした展覧会のことなど、本とDVDはほぼ同様の内容となっている。ただ、やはり映像のもつインパクトは大きく、DVD映像は三宅の言葉(活字)をよりリアルなものに感じさせてくれる。
「ぼくは人間と服の関係を考えていました。そして「一枚の布」の発想にいたったのです。着物は、ゆるみがあって、空間が大切で、そこから学んだことはあります。しかし日本の着物だけがそうなのかと思ったら、インドを見ても、アフリカを見ても、一枚の布地を羽織っていて、それがものすごく美しい。これは世界共通なのではないか、と思ったのです。肉体と布の間に自分自身がつくる空間というのがあるはずなんだ、と。これをぜひ自分の仕事のしかたにしようと考えました。」(本書、44頁)[金相美]
2013/04/12(金)(SYNK)
カリフォルニア・デザイン 1930-1965──モダン・リヴィングの起源
会期:2013/03/20~2013/06/03
国立新美術館[東京都]
ミッド・センチュリーを中心に、1930年から1965年までのカリフォルニアで展開したデザインを紹介する展覧会。ロサンゼルス・カウンティ美術館で開催された「California Design, 1930–1965: "Living in a Modern Way"」展」(2011/10/1~2013/6/3)の日本展である。展示は四つの章から構成されている。第1章「カリフォルニア・モダンの誕生」では、1920年代の人口増とともに住宅や家具への需要増加のなかから生まれたカリフォルニア独自のデザインの誕生。第2章「カリフォルニア・モダンの形成」では、第二次大戦を経て民生品に転用されるようになった新たな素材や技術とデザインとの関わりが取り上げられている。チャールズ&レイ・イームズのFRPや成形合板を使用した仕事はそのひとつの典型であろう。また、復員兵は無償で教育を受けることができたそうで、もともと美術や工芸、デザインに関わりのなかった人々が、デザイン教育を受ける機会をえることができたのも、戦後のカリフォルニア・デザインの興隆に影響している。第3章「カリフォルニア・モダンの生活」では、人々の暮らしを中心として、住宅建築や家具、玩具や水着などのデザインが取り上げられている。東海岸と比べて温和な気候のカリフォルニアでは、屋内と屋外の境界が曖昧な住宅、プール付きの住宅が建てられ、海水浴やサーフィンはスポーツウェアに独自のデザインを生み出してきた。第4章「カリフォルニア・モダンの普及」は、雑誌、新聞、映画などのメディアを通じて世界に発信されていったカリフォルニアのデザインを紹介する。
アメリカで企画された展覧会なので、日本人には文脈が分かりにくい部分もある。これを補うのが、入口で配られている小冊子である。展示は実物資料ばかりではなく、工芸家などへのインタビュー映像、同時代のCMやニュース映画を見ることができる。陶芸などの量産製品ではないオブジェを、デザインの文脈でどのように評価するのか難しい部分もあるが、展示品がいわゆるグッドデザインに偏っていない点もとてもよい。既存の可動壁を利用した会場構成は面白いが、その壁を背にした展示品も多い。広い会場なのだから、立体的なプロダクトはどの場でどの面からも見られるようにしてほしかった。
アメリカの文化はさまざまな側面から戦後日本の生活に影響を与えてきた。それにもかかわらず、日本のデザイン史においては、ヨーロッパのデザインに比べてアメリカのデザインはこれまで重視されてこなかったように思う。手元にあるデザイン史のテキストをみても、アメリカに関する記述は限定的である。まして、イームズ夫妻や一部の建築家の業績を除いては、カリフォルニアのデザインに焦点があてられることは稀であった。その意味で、今回の展覧会はとても刺激的な試みなのである。[新川徳彦]
2013/04/10(水)(SYNK)
東京オリンピック1964 デザインプロジェクト
会期:2013/02/13~2013/05/26
東京国立近代美術館 ギャラリー4[東京都]
ベーコン展と同時に開催されていた東京国立近代美術館の「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」展も面白い。昨年、40年分の六耀社のデザイン年鑑をめくりながら、初期の頃にオリンピックや大阪万博などがデザインのシステムを向上させるきっかけになったと座談会などで述べられていたが、まさにそれを資料で見せてくれる展示だった。
2013/03/31(日)(五十嵐太郎)