artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
超・大河原邦男 展 レジェンド・オブ・メカデザイン
会期:2013/03/23~2013/05/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
ファースト・ガンダム世代にもかかわらず、ガンダムをあまり知らない筆者にとって、アニメ界における大河原邦男のステイタスなど知る由もなかった。しかし、本展を見て自分の無知を恥じた。「機動戦士ガンダム」はもちろん、「科学忍者隊ガッチャマン」や「タイムボカン」シリーズも彼の仕事だったとは。何よりも「メカニカルデザイン」という新たな職種を一代でつくり上げた事実がすごい。本展ではそんな彼の業績を、設定資料やポスター原画など約400点で紹介。アニメだからと言ってオタク仕様やエンタテインメント寄りにせず、あくまで美術館の流儀を貫くことで大河原へのリスペクトを示したのは正解だった。展示以外では、図録の出来が素晴らしかった。将来コレクターズアイテムとして高値が付くのではなかろうか。
2013/03/22(金)(小吹隆文)
[デー デー デー ジー]グルーヴィジョンズ展
会期:2013/03/12~2013/04/26
dddギャラリー[大阪府]
人気デザイン・ユニットのグルーヴィジョンズが、代表的な仕事約670点からなる大規模個展を開催中。会場には、2体のチャッピーと、作品収納用と思しき巨大な木箱、そして展示室を斜めに横切る低い台の上に一連の仕事がずらりと並べられていた。展示台の一部は会場を突き抜けており、ビルの外までも作品が並ぶ大胆なプレゼンテーションだ。しかも作品の配置が色別になっており、黒~青~白~オレンジ~赤~ピンク~紫の美しいグラデーションを描いている。こんなところにも彼らの美学と一貫性が貫かれており、改めてその実力を思い知った。
2013/03/15(金)(小吹隆文)
日本の木のイス展──くつろぎのデザイン・かぞくの空間
会期:2013/02/09~2013/04/14
横須賀美術館[神奈川県]
「椅子のデザイン」はデザイン史において必ずといってよいほど取り上げられる、デザインの王道ともいえる分野である。そうした「椅子のデザイン」のなかで、本展は「日本」の「木の椅子」に焦点を当てる。鹿鳴館で用いられた椅子など、若干の前史を経て、展示第I部では1920年代前後から60年代末までの住宅用の椅子が紹介されている。フランク・ロイド・ライト、西村伊作、ブルーノ・タウト、シャルロット・ペリアン、前川国男、吉村順三、吉阪隆正らの建築家、森谷延雄、松村勝男などのインテリア・デザイナー、秋岡芳夫、柳宗理、渡辺力など工業デザイナーの代表的な作品が会場に並ぶ。
なぜかくも多くの建築家、デザイナーたちが椅子のデザインに魅了されてきたのであろうか。その理由はおそらく「制約」にある。身体を一定のかたちに支えるために必要な構造、機能、素材、技術は、椅子というオブジェの制作そのものに関わる制約である。これら多数の制約条件のそれぞれにどのような比重を置くかによって、デザインによる解は異なり、それゆえに多様な椅子のデザインが生まれる。本展は出品作を「木の椅子」に限定することで、これらの制約とデザイナーの挑戦とを際立たせている。しかし、身体と素材という制約は日本人に限らず、世界中のデザイナーたちが挑戦してきた課題である。日本の椅子には他の国とは異なる特徴があるのか。あるとすれば、それは何に起因しているのか。本展が提示するもうひとつの制約が「かぞくの空間」である。畳の間が中心となる日本の家屋に適した椅子とはどのようなものなのか。和洋折衷の家における椅子の役割はどうなのか。高度成長期の公団住宅で、椅子はどのように用いられたのか。住まい・家族・空間・間取りという制約は、国により、地域により、時代により異なる。展示を日本の家庭用の椅子に限定することで、本展は「かぞくの空間」における椅子の変遷、すなわち住環境と椅子のデザインが密接な関係にあり、それが日本の椅子のアイデンティティを生み出してきた様を見せてくる。展示室のキャプションは控えめだが、図録にはたくさんの資料写真、作家や作品の解説が掲載されている。ぜひ図録を片手に会場を回りたい。
展示第II部では、横須賀で活動する3人の家具作家による椅子が展示されており、その座り心地を体験できる。どのような場所に置くのか。どのような場面で座るのか。さまざまな形、さまざまな構造の椅子を座り比べることで、家具作家たちの考えかたや、私たちの選択の基準が見えてくる。[新川徳彦]
2013/03/15(金)(SYNK)
知られざるミュシャ展──故国モラヴィアと栄光のパリ
会期:2013/03/01~2013/03/31
美術館「えき」KYOTO[京都府]
ポスター作家として名高いアルフォンス・ミュシャ(1860-1939)。本展はミュシャの代表的なポスター作品とともに、これまであまり目に触れることのなかった油彩画や素描作品など、約160点余りを紹介している。油彩画や素描作品はおもに「チマル・コレクション」からのもので、日本での公開は初めてだという。南モラヴィア地方(現・チェコ共和国)に生まれたミュシャは、ウィーンとミュンヘンで美術を学んだ後、パリに移り下積み時代を過ごしていた。当時、依頼を受け制作したサラ・ベルナールの公演『ジスモンダ』のポスターが大ヒットし、ミュシャは一躍スター画家となった。パリで名声や商業的成功を収めた彼は、1910年、モラヴィアに帰郷し、デザイナーとしての第二の人生を過ごした。というのは、1918年にチェコスロバキア共和国が成立すると、ほとんど無償で、国章、紙幣、切手をデザインしたり、プラハ市庁舎ホールの装飾を手がけたりするなど、商業デザインではなく、祖国のためのデザインに力を注いだ。つまりパリ時代の華やかな画題とは異なる、祖国の人たちや祖国への思いを描き続けた。「チマル・コレクション」はミュシャの故郷に住む医学者チマル博士が親の代から長年にわたって集めてきたもの。ミュシャのパリ時代のポスター作品とは一味違って、素朴で故郷や人々への暖かい眼差しが感じられる作品が多い。巨匠の二つの時代が概観できる。[金相美]
2013/03/09(土)(SYNK)
複製そして表現へ──美しさを極めるインクジェットプリントの世界
会期:2013/03/05~2013/05/12
印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]
平成25年用のお年玉付き年賀ハガキの発行総数は35億8,730万枚。このうち、無地のハガキは通常のものが4億8700万枚。他方でインクジェット紙は14億3,400万枚と約3倍である。キャラクター入りハガキなどを含めるとインクジェット用はさらに多くなる。インクジェット紙の年賀ハガキが最初に発行されたのは平成9年(平成10年用)で、そのときの発行枚数は2億枚であるから、インクジェットプリンタがこの十数年のうちに私たちの生活にとても身近な存在になってきたことがこのデータからもわかろう。デジカメの普及とも相まって、大手メーカーは写真画質の再現を目指してプリントの品質を向上させてきた。通常の印刷や版画と異なり、版をつくる必要がないインクジェットプリントは、必要なときに必要な枚数だけをプリントすることができる。このために、家庭用のみならず、印刷現場でも少部数のカラー印刷物──メニューやポスターなど──に、インクジェットプリンタが使用されるようになってきている。そればかりではない。精緻なインクジェットプリントはジークレー版画とも呼ばれ、複製画の制作に使われるほか、リトグラフやセリグラフに取って代わられることもある。データに基づいて液体を噴出するという基本的な仕組みは、3Dプリンタにも利用されている。多様な場に普及しつつあるインクジェットプリンタであるが、本展は複製と表現という二つの視点から、その可能性を見せてくれるものである。
やはり驚かされるのは複製画の再現性である。会場には、マンガ、イラスト、水彩画、アクリル画、写真等々の実物と複製画とが並べて展示されているが、キャプションがなければどちらがオリジナルなのか区別が付かないものもある。マンガやイラストなどの平面的な作品ではもちろんのことであるが、ペンやガッシュの掠れ、アクリル画や日本画のテクスチャーまで感じられるものもあるのは驚きである。インクジェットプリンタでは金や銀のプリントはできないが、東京国立博物館所蔵《洛中洛外図屏風》の複製画は金箔までも再現されているかのように見える。オリジナル表現のコーナーでは、写真家・織作峰子氏、イラストレーター・及川正通氏らの作品が紹介されている。PCでイラストを描く及川氏の作品には物理的なオリジナルは存在しないが、インクジェットプリンタで出力された鮮やかで精緻な色彩は、プロセス印刷とは明らかに異なるアウラを感じさせる。複製の手段であった版画や写真が表現に応用されるようになったように、インクジェットプリンタを表現手法として用いる作家もこれから増えていくに違いない。[新川徳彦]
2013/03/08(金)(SYNK)