artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
プレビュー:SHOES DESIGNER 高田喜佐──ザ・シューズ展
会期:2013/04/18~2013/07/02
神戸ファッション美術館[兵庫県]
女性靴のデザイナーの草分け的存在、高田喜佐(1941-2006)の個展。1980年代に大学生活を送った筆者にとって、高田が設立したブランド「KISSA」の靴は憧れの的だった。『an・an』などのデザイン・コンシャスな雑誌に掲載されるKISSAの靴に、通常の靴商品にはない魅力を感じたものだ。事実、本展チラシによれば、高田は日本の女性靴に初めてデザインの概念を持ち込んだ人物として評価されているという。今回の個展は、神戸ファッション美術館に寄贈された膨大な数の靴やデザイン画、写真、映像等をもとに彼女の活動の軌跡をたどる。公立美術館で靴デザイナーの展覧会が開催されるのはきわめて稀だ。ましてや日本ではめずらしく、つねにアカデミックな視点からデザインを展示する神戸ファッション美術館の展覧会である。ぜひ内容に期待したい。[橋本啓子]
2013/03/31(日)(SYNK)
東京オリンピック1964 デザインプロジェクト
会期:2013/02/13~2013/05/26
東京国立近代美術館[東京都]
亀倉雄策が手がけた東京オリンピックのシンボルマークや公式ポスターは多くの人が知っているだろう。オリンピックの寄付金付切手を覚えている人も多いに違いない。原弘がデザインした入場券も有名である。バッジやワッペンは河野鷹思のデザインである。こうした東京オリンピックに関わるデザインが断片的に紹介されることはこれまでにもあった。しかし、本展覧会のように多様なグラフィックが一堂に会する機会はなかなかないのではないか。
本展はオリンピックとデザインの関わりを、準備・実施・記録の三つの段階に分け、デザインによる問題解決のプロセスを丁寧に紹介する。「第I章 東京オリンピックの準備」では、シンボルマーク案や決定案の版下、第2号から第4号までのポスターに用いられた写真のポジフィルムが見所であろう。また、募金活動に関わる記念切手やシール、記念たばこのパッケージは、人々のオリンピックに対する関心を高めるためにデザインが重要な役割をはたしたことを示している。「第II章 東京オリンピックの開幕」は、聖火リレーのトーチや入場券、競技や施設を表わすピクトグラムなど、オリンピックの会場で活躍したデザインのみならず、オリンピックと同時に都内の美術館・博物館で開催された「芸術展示」のポスターやチケットも出品されている。「第II章 東京オリンピックの記録」では、映画『東京オリンピック』の映像やポスター、記念グッズが取り上げられている。
東京オリンピックのデザインがその後に与えた影響はいくつか挙げることができる。ひとつは、シンボルマークの制定である。「僕の功績はシンボルマークをデザインしたことではない。作ろうと提案したことだ」と亀倉雄策が語った通り、それまでの大会では五輪マークはあるものの、大会独自のシンボルはなかった。もうひとつは、ピクトグラムである。世界中の人々が集う場には、特定の言語に依存しないコミュニケーション手段が必要となる。それが具体化されたのが東京オリンピックのピクトグラムである。そしてもうひとつ挙げられるのは、チームワークによるデザインである。シンボルマークをデザインし、ポスターのディレクションを担当したのは亀倉雄策である。そのほかのデザインも、関わった人々は皆その後の活躍で名前を知られるデザイナーばかりである。個々のデザインワークを拾い上げれば、担当したデザイナーの名前がわかるものもある。しかし、実際には東京オリンピックのデザインは、勝見勝をトップに置いたチームワークによる成果であり、誰が何をデザインしたのかよりも、何がどのようにデザインされたのかが、より重要な視点であろう。図録に収録されたデザイン関係者の証言に加え、野地秩嘉『TOKYOオリンピック物語』(小学館、2011)を読むとその実像がよく理解できよう。1964年の国家的イベントにおいてデザインが成し遂げた成功は、1970年の大阪万博、1972年の札幌オリンピックへと引き継がれてゆくのである。[新川徳彦]
2013/03/24(日)(SYNK)
カリフォルニア・デザイン1930-1965──モダン・リヴィングの起源
会期:2013/03/20~2013/06/03
国立新美術館[東京都]
今日は無料だからつい入っちゃったけど、デザインに興味はないんで足早にグルッと一周する。あ、おもしろいじゃん。作品はほとんど見なかったんでなにもいえませんが、会場構成がおもしろい。観客はまず展示室の壁に沿って大きく一周し、次いで内側にしつらえた仮設壁に沿ってもう一周するという動線。肝腎の作品は仮設壁にのみ展示され、部屋の内壁には1点も飾られていない。おまけに中央部分が広場のように空き、そこから全体が見渡せるという会場構成なのだ。これは展覧会場(エキジビション)というより展示場(エクスポジション)に近い。
2013/03/23(土)(村田真)
明治の海外輸出と港
会期:2013/02/26~2013/04/07
フェルケール博物館[静岡県]
静岡の特産品である茶の輸出に焦点を当て、清水港発展の歴史を紹介する展覧会である。おもな展示品は「蘭字(ランジ)」。蘭字とは茶を輸出するときにパッケージや箱に貼られた多色木版画によるラベルである。開港以来、明治期日本の主要輸出品は、生糸と茶であった。このうち、輸出品の商標としては生糸のラベルが知られているが、デザイナー・井手暢子氏の研究により茶のラベルも注目されてきている。蘭字には茶のブランドや品質、輸出商の名前などを示す英字に、芸者や福助、牡丹などの日本的なイメージが添えられ、折しもジャポニスムのブームに乗って、輸出先で人気を博したという。
清水港は最初から茶輸出の拠点であったわけではない。静岡の茶はいったん清水港に集められ、そこから船で横浜に送られ、風味を損なわないための再製加工が行なわれてから海外へと輸出された。ところが明治22(1889)年に東海道本線が開通すると、茶の輸送は鉄道に取って代わられ、中継基地としての清水港の役割は低下した。この危機にあたって地元の有力者たちが尽力し、明治32年に清水港は開港場に指定され、輸出貿易が可能になった。茶葉の再製工場も設立され、明治39(1906)年に念願の茶の直輸出がはじまる。輸出量はすぐに増加し、明治42年には横浜からの茶輸出を凌駕するようになった。静岡の中心部の茶町や鷹匠町には外国人商館が建ち並び、清水港まで茶の輸送のための鉄道も敷設され、大正6(1917)年には清水港は日本の茶輸出の77%を占めるに到った。茶ラベルの需要も高まり、新茶の時期が近づくと静岡の蘭字製作所には全国の浮世絵職人が集まってきたという。
今回の特別展には蘭字のほかに輸出用茶箱、静岡鉄道のレールや時刻表、生糸の商標やパッケージ、輸出工芸でもあった静岡の漆器類も出品されている。清水港発展の歴史に関わる数々の資料が展示されている常設展と合わせてみると、「蘭字」の興隆は明治期から昭和初期にかけてのデザイン、ブランディングの優れた事例であるばかりではなく、地域史、産業史とも密接に関わっていることがよくわかる。[新川徳彦]
2013/03/23(土)(SYNK)
[デーデーデージー]グルーヴィジョンズ展
会期:2013/03/12~2013/04/26
dddギャラリー[大阪府]
デザインスタジオのグルーヴィジョンズ(GROOVISIONS)のデザインワーク637点が集結した展覧会。1993年の設立以来の作品が時代順に展示されるディスプレイを想像していたのだが、実際の会場構成はまったく違っていた。dddギャラリーの四角いスペースに置かれているのは、白く細長い展示台ひとつと輸送用木箱ひとつのみ。白い展示台は部屋全体を斜めに横切るように配置され、それはギャラリーのガラスのファサードを越えて建物の外側にまで延びている。シンプルだが、インパクトのある展示だ。
展示台の上には無数の作品が整然と配置されている。そこにはグルーヴィジョンズのトレードマークともいえる人物モティーフ「chappie」がフィーチャーされたデザインもあれば、東京・京橋の「100%ChocolateCafe.」の商品パッケージや雑誌『Casa Brutus』の表紙、影絵のようなグラフィックデザインなど、これもあれもグルーヴィジョンズだったのかと思うような作例もある。商品の数も多いが、種類の多さも半端ではない。本やパッケージのグラフィックは無論のこと、ヘルメットやスケートボード、扇子のデザインまであるのだ。一つひとつをじっくり見ていくと半日はかかるだろうが、その作業はきっと楽しい。来場者は必ずや展示台の上に自分の所有品を見つけるだろう。
ランダムに見える商品の配置には、じつは大きな仕掛けがある。ギャラリーの外側に突き出た部分の端から部屋の奥の端に至るまで、展示台を埋め尽くす商品はマンセル表色系(色の物差しの一種)のごとくピンクから赤、オレンジ、黄、グレー、緑、青へと変化する色のグラデーションをつくっているのだ。個々の商品は必ずしも単色で構成されているわけではないから、商品の群れがつくるグラデーションは、印象派の筆触分割がもたらす効果と同様、綿密な計算のもとに生じている。思い起こせば、chappieが世に出たとき、誰もがその造形はもとより、繊細な色彩にも衝撃を受けた。カラフルでありながら、どこかしら日本の伝統色を想わせる落ち着きをもったその色は、輪郭線を欠いた人物像を彩ることでいっそう際立っていたのだ。そうしたグルーヴィジョンズの色へのこだわりがじつにうまいやり方で表現されたこの個展には脱帽するしかない。[橋本啓子]
2013/03/23(土)(SYNK)