artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
美の競演──京都画壇と神坂雪佳
会期:2013/03/06~2013/03/18
大阪高島屋グランドホール[大阪府]
竹内栖鳳(1864-1942)や上村松園(1875-1949)など、明治から昭和にかけて京都画壇で活躍した代表的な画家たちと、ほぼ同時代に同じく京都で活動した神坂雪佳(1866-1942)の名作を紹介する展覧会。雪佳は京都にありながら江戸時代の琳派の継承者として、また近代デザインの先駆者として知られる人物。琳派の華麗な装飾性を踏まえながらも、近代的な感覚を加えた絵画や工芸品を多く手かげた。同展は京都画壇の作品を多く所蔵する京都市美術館と、琳派コレクションで有名な細見美術館(京都)のコラボにより初めて実現したという。雪佳の作品はもちろん、京都画壇の出品作家や作品も充実しており、見ていて楽しい。またそれぞれの作品の色彩や技法、画題やデザイン性などが比較できて興味深い。[金相美]
2013/03/06(水)(SYNK)
川床優『漱石のデザイン論──建築家を夢見た文豪からのメッセージ』
夏目漱石の講演録や手紙などをもとに著者自身のデザイン論を著した一冊。武蔵野美術大学で建築を学んだ著者はインテリア出版「ジャパン・インテリア・デザイン」編集部などを経て、現在は株式会社メディアフロント代表を務めている。漱石のデザイン論を期待する人なら、物足りなさを感じるかもしれない。ただ、もともと著者が学生向けの教科書を自費出版したものに加筆し出版したということなので、「文化・歴史的背景 漱石の発言 著者の持論」の構成や内容には十分納得がいく。漱石は文学の道に進む前に建築家を志していた。「自分は元来変人だから、このままでは世の中に容れられない(…中略…)こちらが変人でも是非やって貰わなければならない仕事さえ居れば、自然と人が頭を下げて頼みに来るに違いない。そうすれば飯のくいはぐれはないから安心だというのが、建築科を択んだ一つの理由。それと元来僕は美術的なことが好きであるから、実用と共に建築を美術的にしてみようと思ったのが、もう一つの理由であった」★1と漱石はいう。親友の忠告によって建築家への道は断念するが、本書の随所に見られる漱石の芸術・文明批判は興味深い。[金相美]
2013/03/01(金)(SYNK)
永井一正『つくることば いきることば』
発行日:2012年3月
永井一正の銅版画に、彼自身の覚え書きとポエムをひとつにした詩画集。永井一正といえば、1960年に日本デザインセンターの創設に参加し、札幌冬季オリンピックをはじめ、数々の企業のCIやマーク、ポスターを手がけてきた、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である。1980年代後半から動植物をモチーフとした「LIFE」シリーズのポスターを展開し、2003年から銅版画へと発展する。本書は命をテーマにした銅版画集『生命のうた』(2007)をベースに新作版画とことばを大幅に加えたものだという。とても短いことばなのに、その深さと力強さには心を打たれる。創作者としての長い経験と命の尊さへの思いが凝縮されているからだろう。さらに不思議な鳥や魚、花たちに話しかけられているような独特な雰囲気も魅力的な一冊である。
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わたしが描く動物が人間みたいな目をしているのは、
人間と対等なものとして存在するからということ。
生きものを描くことで
わたし自身が生きる勇気をもらっている。
(永井一正『つくることば いきることば』26-28頁)
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[金相美]
2013/03/01(金)(SYNK)
原研哉『デザインのめざめ』
グラフィックデザイナー・原研哉(1958- )のエッセイ集。周知のとおり、原研哉は、株式会社日本デザインセンターの代表取締役、原デザイン研究所の所長、武蔵野美術大学の教授であり、2002年からは無印良品のアートディレクションを担当したり、2004年には著書『デザインのデザイン』でサントリー学芸賞を受賞するなど、日本のデザイン界のみならず、時代を牽引してきた人物である。同書は、2001年に刊行された『マカロニの穴のなぞ』(朝日新聞社)に5篇のエッセイを増補したうえ、文庫化したもの。ドイツで見つけた目盛り付きのビアグラスや、トイレの便器に描かれたハエの絵、マヨネーズのノズルの穴の形など、日常のなかの何気ないものや瞬間を、デザイナーならではの視点で語っている。[金相美]
2013/02/28(金)(SYNK)
渋谷区立松濤美術館改修
松濤美術館[東京都]
渋谷区立松濤美術館が、改修工事のために来年初め(予定)まで休館する。休館中は渋谷区文化総合センター大和田で収蔵品展を開催する予定である。
松濤美術館は静岡市の芹沢銈介美術館(石水館、1981)とともに建築家白井晟一(1905-1983)が最晩年に手がけた作品であり、1981年に開館した地下2階、地上2階の建物である。外側には窓がほとんどなく、内側には噴水のある円形の吹き抜けがある。地下2階は講演会や映画上映に使われるホール、地下1階の主陳列室は1階まで吹き抜けの大きな空間となっている。2階展示室は「サロンミューゼ」と名付けられ、かつてはここでお茶を飲みながら美術品を鑑賞することができた。建物は堅牢で耐震性には問題がないということであるが、開館から32年を経過し内部設備の大規模な改修が必要になった。これまで開館当初の姿がほぼそのままの状態で保たれてきたが、今回の改修でも照明設備の更新とLED化、摩耗した床材の張り替えを除くと、外観、内装の変更はともに最低限に留めるとのこと。白井がヨーロッパで買い付けてきたソファなどの調度類や、彼がデザインした照明具や案内パネルなどは引き続き使用されるようだ。
3月10日(日)まで「渋谷区小中学生絵画展」「渋谷区立小・中学校特別支援学級連合展覧会」(入場無料)が開催されており、展示終了後から休館となる。なお、開館中は受付で申請すると建物の見学と撮影が可能である。[新川徳彦]
2013/02/26(火)(SYNK)