2020年04月01日号
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artscapeレビュー

日本の木のイス展──くつろぎのデザイン・かぞくの空間

2013年04月01日号

会期:2013/02/09~2013/04/14

横須賀美術館[神奈川県]

「椅子のデザイン」はデザイン史において必ずといってよいほど取り上げられる、デザインの王道ともいえる分野である。そうした「椅子のデザイン」のなかで、本展は「日本」の「木の椅子」に焦点を当てる。鹿鳴館で用いられた椅子など、若干の前史を経て、展示第I部では1920年代前後から60年代末までの住宅用の椅子が紹介されている。フランク・ロイド・ライト、西村伊作、ブルーノ・タウト、シャルロット・ペリアン、前川国男、吉村順三、吉阪隆正らの建築家、森谷延雄、松村勝男などのインテリア・デザイナー、秋岡芳夫、柳宗理、渡辺力など工業デザイナーの代表的な作品が会場に並ぶ。
 なぜかくも多くの建築家、デザイナーたちが椅子のデザインに魅了されてきたのであろうか。その理由はおそらく「制約」にある。身体を一定のかたちに支えるために必要な構造、機能、素材、技術は、椅子というオブジェの制作そのものに関わる制約である。これら多数の制約条件のそれぞれにどのような比重を置くかによって、デザインによる解は異なり、それゆえに多様な椅子のデザインが生まれる。本展は出品作を「木の椅子」に限定することで、これらの制約とデザイナーの挑戦とを際立たせている。しかし、身体と素材という制約は日本人に限らず、世界中のデザイナーたちが挑戦してきた課題である。日本の椅子には他の国とは異なる特徴があるのか。あるとすれば、それは何に起因しているのか。本展が提示するもうひとつの制約が「かぞくの空間」である。畳の間が中心となる日本の家屋に適した椅子とはどのようなものなのか。和洋折衷の家における椅子の役割はどうなのか。高度成長期の公団住宅で、椅子はどのように用いられたのか。住まい・家族・空間・間取りという制約は、国により、地域により、時代により異なる。展示を日本の家庭用の椅子に限定することで、本展は「かぞくの空間」における椅子の変遷、すなわち住環境と椅子のデザインが密接な関係にあり、それが日本の椅子のアイデンティティを生み出してきた様を見せてくる。展示室のキャプションは控えめだが、図録にはたくさんの資料写真、作家や作品の解説が掲載されている。ぜひ図録を片手に会場を回りたい。
 展示第II部では、横須賀で活動する3人の家具作家による椅子が展示されており、その座り心地を体験できる。どのような場所に置くのか。どのような場面で座るのか。さまざまな形、さまざまな構造の椅子を座り比べることで、家具作家たちの考えかたや、私たちの選択の基準が見えてくる。[新川徳彦]

2013/03/15(金)(SYNK)

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