artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
マスダさんちの昭和レトロ家電
会期:2012/12/01~2013/02/15
昭和30年代の家電やその面白さを紹介する展覧会。昭和30年代といえば、戦後の混乱がひと段落し日本の経済と生活環境が整っていった時代であった。白黒テレビ・冷蔵庫・洗濯機など、いわゆる「三種の神器」をはじめとする、さまざまな家電製品が誕生し、人々の暮らしを大きく変えていった。アメリカデザインの影響からだろう、当時の家電は丸みを帯びた、いわば流線型デザインが多く、その形態から時代性(昭和の空気)が感じ取れる。会場には家電だけでなく、石鹸や歯ブラシなどの日常用品から、雑誌やチラシ、ポスターなどの印刷物も展示されており、当時の暮らしぶりを深く理解することができる。本展は増田健一氏の20年にわたるコレクションを紹介するものだというが、コレクションの素晴らしい保存状態と、なによりその数(500点余)や多彩さに敬意を払いたい。[金相美]
2013/01/17(木)(SYNK)
プレビュー:生誕130年 魯山人の宇宙
会期:2013/01/05~2013/02/03
明石市立文化博物館[兵庫県]
自ら料理長を務めた料亭「星岡茶寮」を開くなど、食を極めた芸術家として知られる北大路魯山人の個展。彼の作品は、書、篆刻、陶芸、漆芸、絵画など多岐にわたるが、今回は笠間日動美術館が所蔵する陶芸、絵画等の作品約80点が展示される。注目すべきは、アメリカ、サンディエゴから里帰りした「カワシマ・コレクション」が出品されることだ。同コレクションは、魯山人と交流し、彼の名をアメリカに知らしめたジャーナリスト、シドニー・カドーソ氏が収集した魯山人作品をもとに、収集家であるモーリス・河島氏が作り上げたコレクションで、知られざる名品を多数含む。「食器は料理のきもの」という魯山人自身の言葉が示すように、彼にとって、陶器とは料理が盛り付けられることを念頭につくられるものだった。独特の形態や図柄は、どのような料理を想定したものなのか、そんなことを想像しつつ、楽しみたい展覧会だ。[橋本啓子]
2013/01/15(火)(SYNK)
大阪市立デザイン教育研究所「紙技展2013」
会期:2013/01/05~2013/01/12
ATC10F デザインギャラリー[大阪府]
大阪市立デザイン教育研究所(OMCD)の在学生による、紙を用いたアート・デザイン作品の展示会が大阪南港にあるATCで開催された。大阪市立デザイン教育研究所は公立では全国唯一のデザイン専修学校。大阪市立工芸高校(大阪市指定有形文化財に指定)に隣接しており、その姉妹校でもある。「紙」は身近で扱いやすい材料であるため、よく試作や練習に用いられるが、それゆえに扱いにくい、難しい材料でもある。というのは、数あるもののなかから個性や特色のある作品に仕上げる、つまり他の作品との差別化をはかるためにはさらなる工夫を凝らさなければならないからだ。会場では紙粘土の置物から商品パッケージ、ライト、インストレーション作品まで、若い感覚や工夫が光る作品が多く見受けられた。「素材とはなにか」「デザインとはなにか」についてあらためて考えさせられる機会であった。[金相美]
2013/01/12(土)(SYNK)
北澤憲昭『美術のポリティクス──「工芸」の成り立ちを焦点として』
美術の「政治/政治学」と書名にある通り、〈文化の政治学〉を視角として、近代日本における芸術ジャンルの形成・成立とそこに存在したヒエラルキーをめぐる思索が展開された書。同書は北澤が述べるように、自身の「工芸論の決定版」という構想のもと構成された。第1章「『美術』の形成と諸ジャンルの成り立ち」は『境界の美術史』(2000)から、第2章「美術とナショナリズム/ナショナリズムの美術」と第3章「工芸とアヴァンギャルド」も既刊テキストからの再出である。明治期のウィーン万国博覧会を契機として、「美術」という言葉が日本にもたらされる。以来、当初は諸芸術を意味していたものが視覚芸術(なかでも絵画)に限定されていく経過が、「工芸」等の類語の概念と形成、美術制度の検討を絡めて記されている。旧来の「美術」概念を現代的視野から問い直す、工芸・デザインを学ぶ人には必読の書。[竹内有子]
2013/01/11(土)(SYNK)
柴田文江『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ──柴田文江のプロダクトデザイン』
インダストリアル・デザイナー柴田文江氏の作品集。
体温計、女性用のカミソリ、炊飯器、自動販売機……。ものに形があるのは当然で、誰かがそれをデザインしているはずなのだけれども、それがデザインされているとか、デザインの差異で購入しているとはほとんど意識されないものたち。意識されないのは、なによりもそれが「フツウ」だから。使い手にとって、あるべきかたちをしている。収まるべきところに収まっている。自然に接することができる。なにも特別なことはない。暮らしのなかでリアリティのあるかたち。しかし、あらためて周囲を見回してみると、ほかに似たものがない。少なくとも、そのデザイン以前には。製品の購入者・利用者のほとんどはデザイナーの名前を知らないだろう。とはいえ、アノニマスなデザインとも異なる。それは淘汰されて残ったものではなく、その時点でのスタンダードでもない。使いやすく必然性のあるかたちをしているが、それはエルゴノミックなデザインというよりも、人とものとの間に自然な関係を生み出すプロダクト。柴田氏の仕事にはそのような印象がある。
本書はプロダクトの写真に加えて、デザインの方法論、素材に対する考え、個々の製品の解説、クライアントの反応など、柴田氏自身によるテキストが付されている。カプセルホテル《9h》が発表されたとき、筆者は発表会場のAXISで製品を見ている。このプロジェクトはさまざまメディアに取り上げられ、注目を浴びていたと記憶しているが、柴田氏がショックを受けるほどの批判もあったとは知らなかった。
ブック・デザインは葛西薫氏。写真を含めて本文はすべてモノクローム。このモノクロームの写真が、柴田氏のプロダクトの柔らかな曲面──柴田氏が「ピチピチプクプク」「トゥルットゥル」と好んで擬音で表現する「湿度のある」かたちと質感──を際立たせている。プロダクトの色彩を見たければ柴田氏の事務所「デザンスタジオエス」のウェブサイトを訪れればよい。ただ、その前に「カタチの内側にある、もうひとつのカタチ」をしっかりと見つめておきたい。[新川徳彦]
2013/01/08(火)(SYNK)