artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

バーナード・リーチ展

会期:2012/10/31~2012/11/11

京都高島屋7階グランドホール[京都府]

英国の陶芸家バーナード・リーチ(1887-1979)の生誕125年を記念して開催された回顧展。日本の美術館や個人収集家が所蔵する代表作約120点が出品された。東と西の陶器の融合を試みたとされるリーチらしく、絵付けから黒釉、緑釉、白磁に至るまでありとあらゆる技法へのあくなき関心が出品作から伝わってくる。しかし、出来上がった陶器は技法や形状の点で東と西の伝統を踏まえつつも、どことなく同時代的な雰囲気を帯びているのだ。
 《楽焼葡萄文蓋付壺》(1913)の渦巻状のブドウの葉を大胆にあしらった赤絵は、20世紀初頭の英国のブルームズベリー・グループの絵画や工芸を彷彿させる。《楽焼走兎図大皿》(1919)では、伝統的なスリップウェアの技法が用いられ、ウサギは中国の龍文のごとくデフォルメされているが、同時にアール・ヌーヴォーの感覚も携える。このようにみると、リーチの陶器が濱田庄司らの日本の陶芸家の心をとらえたのは、それが雑器の美の再発見を呼び起こしただけでなく、むしろそこからモダンな表現を生み出そうとするリーチの心意気に触れたからではないかと思えてくる。戦後の作《緑釉櫛描水注》(1954)のオブジェのような表現は、彼の意図が伝統の再発見とその融合のみに留まらなかったことを強く感じさせる。
 会場の最後には、1934年に東京・日本橋の高島屋で展示された、リーチの考案した書斎が復元されており、白木の柱と塗り壁の部屋に戸棚と文机を作り付け、カーペット敷きの床に洋風の挽物家具を配した書斎はまさに東西のインテリアの融合というにふさわしい。この書斎は1934年の発表当時、どのような反響があったのだろうか。本展の多彩な作品をみているとこのような疑問が次々と浮かんでくるが、展覧会にはあまり解説らしきものはなかった。多数の来場者はリーチの人気の高さを物語っており、そのような作家の大回顧展であれば、もう少し教育普及的な側面が欲しかった。[橋本啓子]

2012/11/10(土)(SYNK)

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スイス・デザイン賞 展

会期:2012/11/06~2012/11/18

スパイラルガーデン[東京都]

「スイス・デザイン賞」は、1991年に創設され、隔年で開催されているスイス現代デザインのコンペティション。日本での海外巡回展は2010年に次いで2回目で、今回は2011年度の受賞作が紹介された。LED電球の新しい形、テキスタイルデザイン、組み立て式の椅子、ダイビング器材や自転車などのスポーツ用品、調理器具、トラック幌をリサイクルしたメッセンジャー・バッグで知られているフライターグの展示用什器や製品プロジェクトなどを見ることができた。実体のあるプロダクトが展示の中心となるなかで、マーケット部門賞を受賞したNPO団体のプロジェクト《シニア・デザイン・ファクトリー》がとても興味深い。活動の趣旨は、高齢者と若者とのあいだのジェネレーションギャップをデザインという行為を通じて埋めていこうというもの。高齢者との関わりというと、ボランティア的な活動をイメージしてしまうが、《シニア・デザイン・ファクトリー》はワークショップを通じて相互にものづくりを学び、その結果を正当な対価を得られる製品へと仕上げる。たとえば高齢者が料理のレシピや手描きのイラストをつくり、編み物の技術を教える。若者は高齢者にコンピュータの使いかたを教えたり、新しいデザインによって、彼らの技術から売れるプロダクトをつくる。当初オンラインで販売されていた製品は、その後開設されたショップでも販売されるようになり、2011年10月にはカフェもオープン。今後彼らはこのプロジェクトをヨーロッパ各国でフランチャイズ展開することも考えているという★1。ただ古い技術にデザインを持ち込むだけではないく、つくり手のしあわせと製品の使い手との関係、製品の販路までをも視野に入れたこの優れたプロジェクトは、世代間をつなぐばかりではなく、地場産業とデザイン、伝統工芸とデザインとの関係にも示唆を与えるものではないだろうか。[新川徳彦]
★1──「高齢者と若者が集う場、チューリッヒに生まれたシニアデザインファクトリー」(『AXIS』Vol. 157、2012年5月、74~77頁)。

2012/11/07(水)(SYNK)

D&AD賞2012展

会期:2012/10/18~2012/11/18

アド・ミュージアム東京[東京都]

1962年に創設され、今年50周年を迎えたイギリスのデザイナー、クリエーターの団体D&ADが主催する国際的なクリエイティブ賞であるD&AD賞の日本での展示会。日本からは、本田技研工業の交通情報サービス「インターナビ」による東日本大震災での「通行実績情報マップ」と、同じくインターナビを利用した双方向コミュニケーションをビジュアライズするプロジェクト「dots」、NHK教育テレビ「2355」、大黒大悟氏の作品「人体百図」がイエロー・ペンシルを受賞している。最高賞であるブラック・ペンシルは、コロンビア防衛省がゲリラに投降をうながすために行なったプロジェクト「Rivers of Light」。クリスマスの時期、LEDライトが入った透明なカプセルに、ゲリラの家族からの手紙、クリスマス・メッセージなどを封入し、ゲリラ基地近くの川に浮かべる。集まったメッセージの数は6,823通にのぼり、メッセージを手にした多くのゲリラが基地を離れて家族と再会したという。「『ターゲットに望ましい行動を起こさせる』というダイレクトメール本来の目的を見事に達成しており、これほど優れたDMは目にしたことがないと称賛した」との審査員評であった。「メッセージを届けること」が評価されたとはいえ、軍事作戦の一環であるプロジェクトに権威あるデザイン賞がコミットしているという点がとても興味深い。[新川徳彦]

D&AD 2012 - Gold pencil Direct - Ministry of Defence "Rivers of light"

2012/11/07(水)(SYNK)

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Design──江戸デザインの“巧・妙”

会期:2012/10/06~2012/11/25

伊勢半本店 紅ミュージアム[東京都]

江戸時代後期、文政8(1825)年に紅屋として創業した伊勢半の企業博物館である紅ミュージアムでは、毎年1回その歴史にちなんだ展覧会を開催している。今回のテーマは、伊勢半が創業した江戸後期の庶民文化をデザインという視点から紹介する。展示は4つのパートに分かれている。第1は「メディア化されたデザイン」。木版印刷技術の向上は、錦絵や黄表紙などの新たなメディアを支えたばかりではなく、雛形本や絵手本など、職人たちがものづくりの際に参考にする見本帖(パターンブック)を生む。職人たちは古絵古物の意匠を写したこれらの書籍の意匠を写したり、新たな文様を生み出していった。第2は「装いのデザイン」。ここでは型染の型紙や、職人たちの装いが紹介される。第3は「技巧・見巧(みごう)のプロダクトデザイン」。煙草入れ、紙入れといった袋物の細部に現われた職人の技を見せる。第4は「江戸趣味全開 グラフィックデザイン」は、「千社札」の世界である。もともと神社仏閣にお参りした際に貼る千社札であるが、その様式を借りて仲間同士での交換を楽しむ「交換納札」が生まれる。愛好者の集まりは「連」と呼ばれ、互いに札の趣向を競い合ったという。千社札の規格は、14.4cm×4.8cm。本来は自分の名前と家紋が刷られていたものが、次第に意匠や色彩が多様化する。規格のサイズはそのままに、2枚分4枚分と連続したデザインの千社札も現われる。最大では16枚分の枠を使用した千社札もあったという。こうした時代の文化を貫くのは、「洒落」「粋」の精神である。表面的な奢侈が禁じられ絢爛豪華な装飾が抑制されるなかで、型染の文様や袋物の細工、あるいは金具の彫刻など、職人の技巧は細部へと向かう。幕府の出版統制下にあった錦絵に対して、その規格さえ守れば自由な表現が可能であった千社札は、発注者、絵師、書家、彫師、刷師らの協業による総合芸術作品でもあった。意匠の選択には雛形本などが用いられつつも、制作者の創意は多様な表現を生み出した。さまざまな制約、不自由は、他方で新たな技巧と表現の源泉であり、それが「洒落」や「粋」という感覚を生み出していったことに気づかされる。[新川徳彦]

2012/10/25(木)(SYNK)

Designer Show House 2012

会期:2012/10/13~2012/11/04

Osaka Hommachi OSK-Building[大阪府]

「Designer Show House」とは、老朽化した建物にインテリアデザイナーや建築家などが独創的な内装等を施し、一定期間公開するイベント。米国では40年以上前から行なわれており、入場料などの収益金は慈善団体に寄付される。日本では、1947年に米国で創設されたインテリアの職能団体「IFDA(International Furnishings and Design Association)」の日本支部が同イベントを主催しており、今回の大阪・OSKビルでの開催は、2009年のベーリック・ホール(横浜)、2010年のホテルシーガルてんぽーざん大阪(大阪)に続き、3度目となる。
 築約40年のOSKビル(大阪繊維共同ビル)は、繊維街として知られる大阪・船場の丼池筋にあり、かつては生地の卸問屋に販売場所を提供する「共販所」だった建物だ。最上階のフロアとペントハウスの2カ所がデザイナーたちの手で新たな空間に生まれ変わった。紙幅に限りがあるため、ここでは、フロアの空間デザインのうち印象に残ったものについて触れておきたい。
 9つの小部屋を有するフロアでは、「シゴトを遊ぼう」をテーマに、11組のデザイナーらによって多種多様なオフィス空間が生み出されている。石川安江が手がけたパーティ・プランナーのためのオフィスは、白い壁にコリント式円柱などのクラシックなモティーフが黒でドローイングされ、ピンクやシルバーグレーのドレープ布が垂れ下がる可愛らしい空間だ。豪奢さと可愛らしさの絶妙なバランスは現代のゴスロリ・ファッションにも通じるものかもしれない。
 対照的に、宮地敦子らが手がけたバーのような空間は、トリックアートのインテリアへの変換というべきだろうか。床一面が鏡となっており、ストライプの壁が床に映りこむことで、小さな空間が垂直方向に拡大される。床には、サイドテーブルに置かれたシャンパングラスやケーキが映り込んでいるが、現実のサイドテーブルの上にはなにもない。グラスやケーキはテーブル天板の下に接着されているのだ。
 アート的な要素は中田眞城子らが手がけたオフィス空間にも見出される。白一色で塗装された薄暗い空間に置かれた白い机。この机にはセンサーが付いており、天板に触れるとカラフルな光がプロジェクターから投影されて、グラム数が出る。これはひょっとして私の手の重さなのだろうか。試しにカバンを置くとやはりグラム数が出た。その数字は、毎日、重いカバンを肩にかけ、くたくたになって仕事場に帰り着き、デスクの上にカバンをおろしてほっとする自分への褒め言葉のようだ。独創的なアイディアの根底には、たんに参加型アートのインテリアへの応用といった意図を超えた、優しさの感情があるように思える。それは、あらゆるデザインの原点なのかもしれない。[橋本啓子]


石川安江「Party Planner Office "RISA BRAIRE"」



宮地敦子・鳥居佳則・加藤千明「アツコ イン トリッキーランド」



中田眞城子ほか「Multi-touch display table」
以上すべて撮影=土田尚子

2012/10/16(火)(SYNK)