artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
瀬戸内国際芸術祭 2010
会期:2010/07/19~2010/10/31
瀬戸内海の7つの島と高松港[香川県、岡山県]
注目のアートイベントにさっそく足を運んだ。2日間フル稼働で取材したが、女木島、男木島、小豆島、豊島と高松港を回るのが精一杯。直島、犬島、大島は後日に持ち越しとなった。すべての会場を巡るには1週間ぐらい必要だろう。真夏の瀬戸内は高温多湿で日差しがきついため体力的にはハードだったが、精神的にはとても充実した2日間だった。瀬戸内と聞くとつい海ばかりを連想してしまうが、実際は海岸部だけでなく、内陸部でも数多くの展示が行われていた。地域の自然、生活、文化、習俗とアートが密接に交流し、美術館やギャラリーでは味わえない広がりのあるアート体験ができた。1回目から完成度の高いイベントに仕上げてきた関係者に賛辞を送りたい。今後もさらに充実を図り、越後妻有と並んで日本を代表する地域密着型アートイベントとなることを期待する。なお、筆者のおすすめは、小豆島の王文志と岸本真之、女木島のロルフ・ユリアス、男木島の中西中井、豊島のキャメロン・ロビンスとジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーだ。
2010/07/18(日)・19(月)(小吹隆文)
ロトチェンコ+ステパーノワ─ロシア構成主義のまなざし
会期:2010/07/03~2010/08/29
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
ロシア構成主義の巨匠ロトチェンコは知っていたが、彼の妻ステパーノワも優秀な作家だったとは、恥ずかしながら知らなかった。2人の代表作が見られた本展は、絵画、立体、舞台美術、書籍、ポスター、プロダクト、建築、写真など170点が並び、質・量ともに大いに充実。良い意味で予想を裏切ってくれた。作品はロシアのプーシキン美術館及び遺族の所蔵品で、前者もほとんどが遺族から寄贈されたものだ。前衛美術はソビエト時代に弾圧されたはずだが、遺族はどうやって作品を守ってきたのだろう。公にしなければ当局も黙認してくれたのか、それともレジスタンス的に密かに守り続けたのか。ロシアから来日した学芸員に質問したのだが、こちらの真意がうまく伝わらなかったのが残念だ。
2010/07/02(金)(小吹隆文)
黒河兼吉 陶磁器デザイン展
会期:2010/06/01~2010/06/13
アートライフみつはし[京都府]
シャープで洗練された造形性が際立つ陶芸展だった。作品は、花瓶、一輪挿し、ランプシェードなど。すべて型により制作されており、工芸品というよりはプロダクト・デザインと呼ぶべきエッジの効いた仕上がりだった。筆者が見る限り、陶芸家には手びねりの不規則な歪みや風合いを重視する人が多いようだ。そんななか、一貫して硬質な楷書の美を追求し続ける黒河の存在は貴重だと思う。
2010/06/01(火)(小吹隆文)
木村恒久「キムラ・グラフィック《ルビ》展」
会期:2010/03/29~2010/04/10
ヴァニラ画廊[東京都]
普段はフェティッシュ/エロティシズム系の写真やイラストを中心に展示している東京・銀座6丁目のヴァニラ画廊で、やや珍しい展覧会が開催された。木村恒久は1960~64年に日本デザインセンターに所属するなど、戦後の日本のグラフィック・デザインの高揚期を担ったひとりだが、同時に「国家」「戦争」「イデオロギー」「都市」などをテーマにした、近代文明を痛烈に批判するフォト・コラージュ作品でも知られていた。今回の「キムラ・グラフィック《ルビ》展」では、まさに1930年代のジョン・ハートフィールドらの政治的、批評的なコラージュの流れを汲む、70~80年代の切り貼りによるフォト・コラージュ作品に加えて、60年代のクールでポップなグラフィック、ポスターなども展示されており、2008年に亡くなったこの過激なデザイナーの全体像が浮かび上がってくるように構成されていた。
だが、木村の真骨頂といえるのは、理知的な文明批判というだけではなく、どこか土俗的、魔術的な「情念」の世界にもきちんと目配りしていたことではないだろうか。1984年の舞踏集団「白虎社」のポスターの、どろどろとした百鬼夜行的なイメージの乱舞から見えてくるのは、彼が地の底から湧き上がってくるような土着の神々(俗神)のエネルギーの噴出に、大きな共感を寄せていたということだ。木村のユニークな仕事は、日本の写真・デザインの沈滞ムードを吹き払うひとつの手がかりになっていくかもしれない。
2010/04/09(金)(飯沢耕太郎)
聖地チベット ポタラ宮と天空の至宝
会期:2010/01/23~2010/03/31
大阪歴史博物館[大阪府]
チベット仏教の仏像、仏具、経典を中心に、ポタラ宮を飾った調度、楽器、さらには伝統医学の資料まで、123件が紹介された(うち36件は日本の国宝に当たる国家一級文物)。筆者はチベット仏教の知識を持たないが、そのエキゾチックな造形にはたちまち魅了された。特に仏像のポーズは妖艶で、ヒンドゥー教の流れを汲む見知らぬ仏様や、男神と女神が重なり合った交合仏など、インパクトの強いものばかりだ。全体的に質が高く、非常に楽しめる展覧会だった。ただ一点、記者発表時に不可解な出来事があった。民族衣装をまとったチベット人男女の学芸員と、スーツ姿の中国人学芸員が出席していたのだが、何故か彼らが一言も発しないのだ。ひょっとしたら中国人学芸員はお目付け役で、チベット人学芸員を威圧していたのだろうのか。これはあくまで筆者の邪推に過ぎないが、そう思わせるぐらい彼らの無言は不自然だった。
2010/01/22(金)(小吹隆文)