artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
土岐謙次 漆器展 捨てられないかたち
会期:2009/09/05~2009/09/19
GALLERY GALLERY[京都府]
スーパーマーケットなどで使われている包装用トレイを、脱活乾漆技法で漆作品として提示した。卵、納豆、豚バラ肉、なかには英国で見つけたマンゴー用のトレイという珍品も。漆黒の漆器に生まれ変わったそれらはいずれも美しく、高級感さえ漂わせている。日頃リサイクルごみとして消費されている物とはとても思えないほどだ。よくよく考えれば、トレイは厳密に設計されたプロダクト製品であり、美しくても何ら不思議ではない。土岐はその事実を改めて明らかにすると同時に、実用品という意味では伝統工芸とプラスチック製品が同列にあることをも示したのだ。
2009/09/08(火)(小吹隆文)
『震災のためにデザインは何が可能か』
発行所:NTT出版
発行日:2009年5月29日
震災は日本にとっていつも重要なテーマである。一秒でも早く予知するためのシステムづくりにも大量の研究費が投じられる。だが、本書はカタストロフィーとしての地震に悲壮感をもって立ち向かうものではない。デザインという知的な営為を通じて、いかに震災がもたらす具体的な場面とつきあうのかを考えさせる。デザインとは視覚的なカッコよさを追求するだけではない。むしろ、生活と全般的に関わることを改めて教えてくれるだろう。ランドスケープ・デザイナーの山崎亮が関わるStudio-Lと、Hakuhodo+designがワークショップを行ない、その成果をもとに本書が執筆された。
詳細:http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001978
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
村山秀紀「ぎゃまんを遊ぶ」展
会期:2009/06/16~2009/06/28
アートスペース感[京都府]
表具師の村山秀紀が、現代のライフスタイルに適応した掛軸や屏風、表装の技術を生かした平面作品などを展覧。作品に多用されているガラスのオブジェは、ガラス作家の神田正之が制作した。展示はホワイトキューブと和室からなるギャラリー空間を生かしたもので、ホワイトキューブではどちらかといえば洋間向き、和室では伝統を重んじつつもフレキシブルに対応可能な作品が見られた。洋間でも床に敷物(今回は鉄板だった)を置けば簡易な床の間空間が作れるとか、屏風を表裏リバーシブルにして、TPOに応じて使い分けられるようにするなど、アイデア満載なので見ていて楽しい。また、表具師としての技術も堪能できる作品だったので、アイデア倒れに終わらず説得力十分だった。日本で美術作品の普及がはかどらない理由のひとつに住宅環境の貧しさがあると思うが、工夫次第でその短所をカバーできることを示した村山の提案に大いに賛同する。
2009/06/16(火)(小吹隆文)
『震災のためにデザインは何が可能か』
発行所:NTT出版
発行日:2009年6月5日
博報堂の筧裕介氏とstudio-Lの山崎亮氏らが中心となって「震災+designプロジェクト」を組織した。首都圏で震災が起こったという前提のもと、避難所でデザインに何ができるのか、学生が二人一組となってワークショップを行ない、そのデザイン案を競ったものを展示発表した。本書はその成果をまとめたものであり、社会とデザインの関係性についての提言にもなっている。
課題(イシュー)を発見し、それを解決すること。ごく当然のことのように思えるが、ここで注目されているのは単に問題を解くことではない。デザインによって問題を解くことである。既存のものにデザインをプラスし、デザインの力によって課題を解くことによって、単なる問題解決(ソリューション)から一歩前進する。見たいという欲望を喚起させ、共感を生み出す。またここでは震災という課題に対してデザインが適用されているが、デザインという行為を通じて、別の社会的問題の解決にも示唆を与える。
山崎氏はデザインと社会との関係性を問うている。震災は課題の一つであり、きっかけとなっているが、むしろそこからデザインとは何なのかという根源性について思考する。フランスのデザイナー、フィリップ・スタルクが「デザインの仕事に嫌気がさし、2年以内に引退する」と2008年に語ったことを引き合いに出しつつ、商業的なデザインと社会的なデザインを橋渡しする可能性に触れている。スタルクは商業主義的なデザインの限界を認識したのかもしれない。しかし、社会的なデザインはその限界を超える可能性もある。本書の大きな目的は、そうしてデザインと社会を架構していくことにあるのだろう。山崎氏らは、この後さらに別の課題に触れながら、デザインの力を試そうとしているようで、今後の展開が注目される。
2009/06/15(月)(松田達)
ラグジュアリー:ファッションの欲望
会期:2009/04/11~2009/05/24
京都国立近代美術館[京都府]
「ラグジュアリー」を切り口に服飾史をたどるとともに、ラグジュアリー観の変遷をも考察する。端的に言うと、物質的ラグジュアリーから精神的ラグジュアリーへと価値観が抽象化していく過程を見せていた。展覧会の後半は川久保玲とメゾン・マルタン・マルジェラに割かれていたが、両者が服飾史において特別な地位を占めるのか、それともキュレーターの強い思い入れによるものかは、ファッションに疎い私には分からない。折からの不況時にラグジュアリー(贅沢)と銘打つのはいかにもKYだが、企画自体は約3年前から進められてきたものであり、その点は不運であった。「むしろこういう時期だからこそ前向きに」というキュレーターの言葉(記者発表時)は、後付けの理屈だが正しいと思う。
2009/04/10(金)(小吹隆文)