artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
グラフィック・デザインの鬼才、木村恒久、他界(享年80歳)
フォトモンタージュの技法を駆使した作品で知られるグラフィック・デザイナー、木村恒久氏が、昨年12月27日、逝去された。60年、日本デザインセンターの設立に参加(後に独立)。65年、戦後第2世代のグラフィック・デザイナー、粟津潔、福田繁雄、宇野亜喜良、永井一正、和田誠ら11人が集まって開催したグループ展「ペルソナ」に参加するなど、戦後の高度経済成長期に頭角を現わしたデザイナーのひとりであった。60年代末から70年代の日本社会の転換期には、デザインの仕事と並行して、雑誌『デザイン批評』等で粟津潔たちとともに、舌鋒鋭いデザイン・社会批評を展開。1979年、現代社会を鋭く批評するフォト・モンタージュ作品を集成した『キムラカメラ─木村恒久のヴィジュアル・スキャンダル─』(パルコ出版)を出版。79年度の毎日デザイン賞を受賞。81年に開催された『ボードリヤール・フォーラム'81』の討論会では、来日したフランスの哲学者ジャン・ボードリヤールと文明論を闘わせた。ご冥福を祈りたい。
2009/01/14
デザインのリサイクル スウォッチの復刻プロジェクト
スウォッチ社は、近年、しばしば過去のモデルの復刻版をリリースしている。昨年の復刻版のひとつに、1999年に発表された時計で、日本では関西空港や銀座エルメスビルを手がけたイタリア人建築家、レンゾ・ピアノがデザインしたモデルがある。スケルトン・ボディで時計のムーブメントがむき出しに見える。そのムーブメントの各部が丁寧に、ビビッドに色分けされた時計である。その名は「ジェリー・ピアノ」。機械的な構造をそのままデザインとして見せるという考え方は、リチャード・ロジャースと共同で設計に関わったポンピドゥーセンターの建築の理念に通じる。昨年末には日本のショップでも見られるようになった。時計は、機能的には成熟した製品であるがゆえに、デザイン的な差別化がより重要になっている。スウォッチ社設立来、膨大な種類の時計がリリースされてきた。そのなかで、デザイナーの意志が貫かれた際立った時計がいくつも存在する。デザインを復刻すること、言い換えれば、デザインをリサイクルすることは、今後のデザインのあり方の一端を示している。優れたデザインであれば、リサイクルに耐えうるデザインの力を有しているはずである。筆者は、思わず、ジェリー・ピアノ復刻版を銀座で買い求めてしまった。
2009/01/14
Appleの異変 Macworld Expo、Apple CEO スティーブ・ジョブズ不参加
Macworld Expoとは、アップルや関連製品のユーザーやベンダー、会社などが一堂に会するビジネスショーであり、1985年来開催されている。とりわけ、正月明けに開催されてきたサンフランシスコでのエキスポは、Apple関係者 とMac愛好家にとっては、年初の重大イベントであった。ここでAppleの革新的な製品が発表されることも多く、Macユーザーは固唾をのんで開催を楽しみにしてきた。なかでも、Appleのカリスマ、創設者のスティーブ・ジョブズの基調講演は、Appleの革新的な機能とデザインを備えた新製品を話術巧みに紹介する最重要イベントであり、常に注目の的であった。Apple社の参加は今回のExpoで最後となり、さらにスティーブ・ジョブズ(近年、健康状態が良くなかった)が基調講演を行なわないというニュースは、Apple社の株価にも影響するなどさまざまな反響を呼んでいる。20世紀後半から21世紀初頭のプロダクトデザインの歴史という視点から見てみると、Apple社は間違いなく、Macintosh Plus, iMac, iPodなどでその先端を切り開いてきた。ジョブズは、Appleデザインの推進者でもあり、広くデザインの世界にインパクトを与える震源になってきた。ジョブズ不在の事態は、Appleの現在を象徴しているのかもしれない。パソコンはある意味で成熟産業になってきた。真の意味での革新を続けるのは難しい。完成度を高めているMac OSXも、次世代のバージョンについての話題を耳にすることも少なくなった。Macworld Expoで発表された新製品の少なさが如実に物語っている(17インチのMacBookのみである)。それくらいであれば、たしかに、体調の優れないジョブズがわざわざ出てくる必要はないのかもしれない。パソコンという存在自体が、すでに旧世界に属すると感じられ始めているのかもしれない。ポスト・ジョブズの時代に入り、デザインと機能面でAppleの革新は、今後、どのように進むのだろうか。AppleもChangeの時期を迎えている。
2008/12/31(水)
NB ネットブック の普及
2008年のヒット商品のひとつに通称「ネット・ブック」がある。ミニ・ノートパソコンとも言われる。主にIntel Atomプロセッサーを搭載し、価格は5万円前後で安価、また、小さいながらも携帯やスマートフォンとは比べ物にならない使いやすさのキーボードを備え、基本ソフトは最も普及しているウィンドウズXPやVistaという使い慣れた操作性。無線LANに接続でき、重量は1kg前後で持ち運びに便利。こうした手頃でバランスのとれたスペックが人気の要因である。無線LANを利用できるスペースが近年、増加してきたこともヒットの背景にある。Acerなど台湾のメーカーが火をつけたネット・ブックマーケットに、Dellなどのアメリカのメーカーだけでなく昨秋より東芝やNECなど国内メーカーも参入し、年末商戦での電化製品の目玉となった。ヘビーなアプリケーションを動かす仕事用のパソコンほどのスペックがなくても特にネットでのHPブラウジングやEメールのやりとりを主目的とするのであれば機能的には十分であるという見切りのよさが歓迎されたようである。かつてモバイル用小型ノートパソコンがあったが、小型ゆえに逆に価格は高かった。やっとモバイル用のバソコンが手頃な価格で流通し出したのである。新年に入り、さっそくソニーがVAIO type Pでこの領域に参入。今年、どれほどの浸透を見せるのか注目される。
ネットブックが市場の2割を越える。エイサーとASUSで9割占有(PC
Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1006/netbook.htm
2008/12/31(水)
生活と芸術──アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで
会期:1月24日~4月5日
東京都美術館[東京都]
東京展 東京都美術館 1/24(土)~4/5(日)
19世紀後半にイギリスで生まれたデザイン運動「アーツ&クラフツ」を、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館(V&A)の貴重なコレクションを中心にして、国内外の関連するコレクションも併せて展示する注目の企画展である。昨年の京都国立近代美術館での展示(9/13(土)~11/9(日))を経て、東京に巡回してくる。モリスの仕事を始め「アーツ&クラフツ」運動の模様を原作品と資料で総合的に見ることのできるまたとない機会である。もうひとつの見所は、このデザイン運動が、諸外国にどのように受容され展開したかを見せる部分にある。ヨーロッパ諸国での展開として、オーストリアのウィーン工房、また、ドイツ、ハンガリー、ロシア、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの諸国での連動する動きが紹介されている。アーツ&クラフツの精神に繋がりながらも、それぞれの国の文化の独自性が色濃く出ている模様が鮮明に描かれている。そして、この流れのなかで日本の民芸運動が紹介され、日本の固有性も見えてくる。民芸運動の中心人物、柳宗悦は、民芸運動はアーツ&クラフツの影響下で生まれたのではなく独自の運動であるとの言を残しているが、本展の文脈のなかでは、民芸運動が19世紀から20世紀へという大きなデザイン運動のうねりと共鳴していたことが見事に見えてくる。アメリカでの展開が紹介されていないのは残念であるが、アメリカを入れるとすると膨大な展示物が想像されるので、あえて割愛したのかもしれない。さまざまな発見に満ちた貴重な展覧会である。
公式サイト:http://www.asahi.com/ac/
2008/12/31(水)