artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

「OBI KONBU」展 MIYAKE DESIGN STUDIO 新作シリーズ①

会期:2019/01/19~2019/02/18

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[東京都]

三宅一生の仕事が近年ますます注目されている。三宅がつくるものはファッションではなくプロダクトだと、多くの人々が口をそろえて言う。ゆえにファッション業界以外のデザイナーやクリエイターからも熱い視線が注がれるのだ。特に結成から10年以上が経つ「Reality Lab.(リアリティ・ラボ)」は、新たな素材の研究と開発で、未来の社会に一石を投ずる活動で知られている。本展で紹介された「OBI」と「KONBU」もリアリティ・ラボが開発した新作バッグだった。

ギャラリーで紹介されるのだから、ただの新作発表というわけではない。まずネーミングのもととなった帯と利尻昆布が展示され、コンセプトが打ち出される。「OBI」は平面に畳まれたときの形状がまさに帯のように細長く、広げるとトートバッグやバックパックとなる製品だ。熱を加えると硬化する特殊な糸で編んだ布を使うことで、リアリティ・ラボがこれまで築き上げてきた平面から立体への展開を可能にし、またハリや光沢の強弱を生かすことで独特の佇まいをつくり出した。本展がユニークなのは、「デザインの解剖展」を彷彿とさせる手法で、「OBI」の全パーツが標本のようにパネル展示されていたことである。これを見ると、いかにシンプルな構造でありながら、しかし魅力的な造形となるようデザインされているのかがわかる。あわせて、その構造を伝えるイメージ映像や布そのものの展示もあった。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[撮影:吉村昌也]

一方、「KONBU」は特殊な複数の細い糸で袋状に編み上げてから、4分の1サイズにまで圧縮し、染色するという独特の製法でつくられたバッグだ。圧縮することで立体的な形状となり、自立するほどの適度な硬さを持ちつつ、滑らかで肌触りが良いのが特徴で、ショルダーバッグやハンドバッグにもなり、二つ折りにすればクラッチにもなる。これの製造工程映像も興味深かったが、何より編み上げたばかりの状態と、4分の1サイズにまで圧縮した状態、染色した状態の実物が並べて展示されていたので、その製造工程がリアルに伝わった。簡略的ではあるが、デザインとは何かということをトップデザイナーが改めて示してくれた機会であった。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[撮影:吉村昌也]

公式サイト:http://www.2121designsight.jp/gallery3/obi_konbu/

2019/01/31(杉江あこ)

第751回デザインギャラリー1953企画展「鈴木康広 近所の地球 旅の道具」

会期:2019/01/23~2019/02/17

松屋銀座7階デザインギャラリー1953[東京都]

アーティストの鈴木康広は周囲の人々にとても愛されている人ではないかと思う。私も鈴木に何度か会ったり取材をしたりしたことがあるが、彼はいつも目をキラキラと輝かせて熱く語ることが多く、子どものように純粋な人という印象を受けた。鈴木は作品を構想するときに、いつもノートにペンでスケッチを描き溜める。そのスケッチが何とも素朴でありながら、しかしそこに「鈴木ワールド」とでも言うべく別次元の宇宙が果てしなく広がっている。そのスケッチ群を壁面いっぱいに展開した本展は、まさに「鈴木ワールド」を堪能できる内容であった。

鈴木は日常の風景や現象を独自の視点で観察し、それを「見立て」によってとらえ直し、作品へ昇華させることで知られている。代表作のひとつ《ファスナーの船》は船をファスナーに見立てた作品だ。「海を進む船と航跡がファスナーのように見えた」という、子どものように純粋な視点が作品を生むきっかけとなった。すごいのは、そんな気づきだけに終わらせず、本気で船をつくってしまったことである。まずはラジコン式の小さな船を公園の池で走らせ、次に「瀬戸内国際芸術祭」で人が乗れる船を海に走らせた。もうひとつ《りんごのけん玉》は、けん玉の赤い玉をりんごに見立てた作品だ。けん玉は地球の引力を利用した遊びである。つまりこれを「ニュートンが木からりんごが落ちるのを見て万有引力の法則を発見した」というエピソードに見立てたのだ。鈴木は中学生の頃に担任教師の勧めで始めて以来、けん玉に対しては並々ならぬ思い入れがあるようだ。

そうした鈴木の過去20年分のさまざまな作品が実物とスケッチと映像で紹介されていた。鈴木の発想の原点であるスケッチを観ていると、思わずクスッと笑ってしまうものが多い。鈴木の見立ては、まったく別物の何かと何かとに共通性を見出す心である。それは既成概念にとらわれない、子どものように純粋無垢な心でなければ得られない。案外と深いなと思ったのが、「現在/過去」という判子である。天面に「現在」と書かれた判子を捺すと、紙に写るのは「過去」という文字である。現在であったはずの時間は、判子を捺した瞬間に、すでに過去となっている。そんな当たり前の時間の概念についても、まるで子どもに率直な質問を投げかけられたときのように、ハッと考えさせられるのである。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

公式サイト:http://designcommittee.jp/2019/01/20190123.html

2019/01/31(杉江あこ)

子どものための建築と空間展

会期:2019/01/12~2019/03/24

パナソニック汐留ミュージアム[東京都]

歩き始めた赤ん坊が初めて履く靴を「ファーストシューズ」と呼ぶが、これに倣うなら、子どもが初めて通う保育園や幼稚園、小学校は「ファーストパブリックスペース」と言うべきか。本展はそんな子どもの「ファーストパブリックスペース」を明治時代から現代にわたって紹介する内容だった。

日本での初等教育機関は江戸時代の寺子屋が始まりとされるが、すべての子どもが小学校に通うことが法で定められ、近代的な一斉教育が始まるのは明治時代からである。また、それと同時に幼児教育も始まった。本展ではまずその象徴である「旧開智学校」が紹介される。これは日本建築に西洋建築の要素を取り入れた擬洋風建築で、重要文化財にも指定されている。大正時代になると大正デモクラシーを背景に、大正自由教育運動が起こる。かの有名なフランク・ロイド・ライトと遠藤新設計の「自由学園」はそうしたなかで生まれた学校だ。昭和初期になると重工業化が進み、西欧の影響を受けたモダンデザインが流行する。谷口吉郎設計の「慶應義塾幼稚舎」はその代表のひとつ。戦後の復興期には科学的な見地を取り入れた、鉄筋コンクリート造の標準設計校舎が普及する。いわゆる一律的な校舎が圧倒的に増えていくのは、この頃からの流れである。その一方で、校舎の真ん中に光庭を取り入れた建築、円形建築、クラスター型建築など、さまざまな新しい試みも生まれていった。


「旧開智学校(重要文化財)」(1876)立石清重[写真提供:旧開智学校]
※画像写真の無断転載を禁じます。


「自由学園明日館食堂」(1921)フランク・ロイド・ライト+遠藤新[写真提供:自由学園明日館]
※画像写真の無断転載を禁じます。

このように時代背景に合わせて校舎も柔軟に変化していった様子が展示写真を通してよくわかり、初等教育機関が近代建築を俯瞰するうえで切り口のひとつになることに興味を持った。展示内容は校舎だけでなく、教育玩具や児童文学、児童遊園や遊具といった子どもの周辺環境にまで及んでいる。もちろん紹介されているのは当時の先駆的かつ独創的な建築ばかりなので、こうした保育園や幼稚園、小学校に通えた人は日本中にごくひと握りしかいない。私も縁がなかった大多数派なわけで、展示写真を眺めながらつくづく羨ましい思いに駆られた。子どもの頃に過ごした場所や見たものは、自身を振り返ってもうそうだが、原風景として長く記憶に留まる。なかには、その人の人生に大きく影響を与える場合もある。だから、もし私がここに通っていたら……とありもしない想像をつい膨らませてしまうが、いやいや、それでも結局は今のような平凡な人生を送っていたんだろうなと思い直す。

公式サイト:https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/19/190112/

2019/01/11(杉江あこ)

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LONG LIFE DESIGN 1 〜47都道府県の健やかなデザイン展〜

会期:2018/12/07~2019/03/04

d47 MUSEUM[東京都]

デザインの概念とは何であるかを、このd47 MUSEUMの展覧会を観るたびに考えさせられる。本展は47都道府県の各ロングライフデザインを紹介するという極めてセオリーどおりの内容だ。本会場を運営し、展覧会を企画するD&DEPARTMENT PROJECTが考えるデザインの概念とは、結局、ロングライフデザインに尽きるのだろう。だから、私は少々戸惑うのである。なぜならデザインの概念とはそれだけではないからだ。彼らがアンチテーゼとするデザインは、本展のコンセプトでも触れられている「海外の影響を強く受けて語られてきた『デザイン』が……」や、「流行とデザイナーの名前を借りて生まれていた『デザイン』が……」といった類いのものだ。ここで言うデザインとは、実に表面的でしかない。いや、デザインとも言えないかもしれない。もしわかりやすく言い換えるとしたら、それは「かっこいいもの」や「美しいもの」であり、「ブランド」である。世の中の多くの人々がデザインの意味を真に理解しないまま、こうした意味に転換してしまったのである。

だから、この現象にアンチテーゼを唱えることについては共感できる。とはいえ、デザイン≒ロングライフデザインに共感できる部分もあるが、それがすべてではないとも思う。その理由のひとつに、ロングライフデザインにはイノベーションがないからだ。「何十年と変わらない製法でつくり続けられている」と聞くと、ちょっと本格感や老舗感があり、良さそうな気がする。しかしそれは何十年前に「最先端」もしくは「一般的」だった素材や技術、造形でつくっているにすぎず、現代において本当に最適な製法なのかという点を疑わなければならない。もちろん、その商品がそのメーカーにとっての原点であるのなら否定はしない。ただし、現代に即したマイナーチェンジは必要であろう。

本展に展示されたものは、天童木工「低座イス」やタカタレムノス「RIKI CLOCK」、カリモク家具「カリモク60Kチェア」など見慣れた商品も多い。展示品を眺めながら、ロングライフデザインにイノベーションをひとつ起こせるとしたら、それはロベルト・ベルガンティ氏が提唱する「意味のイノベーション」ではないかと思った。これは既存の商品やサービスに対して、新しい使い方や存在意義を見出し、新たな価値をもたらすことである。D&DEPARTMENT PROJECTが行なってきた活動はこれに近いのではないか。「カリモク60Kチェア」はその代表商品だろう。その商品が生まれた時代を知らない若い世代に「あら、素敵」と思わせるマジックによって、ロングライフデザインは生き続ける。

展示風景 d47 MUSEUM[写真提供:D&DEPARTMENT PROJECT]

公式サイト:http://www.hikarie8.com/d47museum/2018/11/long-life-design-1-47.shtml

2019/01/07(杉江あこ)

明治150年記念 日本を変えた千の技術博

会期:2018/10/30~2019/03/03

国立科学博物館[東京都]

明治150年を記念した「日本を変えた千の技術博」展を見る。以前、同じ上野の東京都立美術館で「大英博物館展──100のモノが語る世界の歴史」を開催していたが、国立科学博物館のこの企画もキリが良い数字をタイトルに入れた企画だ。意外にこうした切り口は、一般の来場者を引きつけるのかもしれない。さて、展示の導入部は、基本的に日本における近代以降の教育史になっていた。各分野の技術展示では、東北大の所蔵も散見されたように、コレクションだけでなく、さまざまな研究機関や大学からも貴重な資料を借りている。上野の美術館群では基本的に建築を紹介しないが、科学博物館は建築を専門とする学芸員も抱え、科学史の立場から建築を扱う。

では、「日本を変えた千の技術博」展において建築はどのようにとり上げられていたか。結論から言うと、その数はけっして多くない。例えば、明治時代に登場した擬洋風や煉瓦造の建築、日本初のエレベータ、耐震の技術、そして霞が関ビルが登場するくらいだ。なるほど、開国した明治政府は、まず最初に工学として西洋から「建築」を受容したが、その後の最新技術の歴史をたどると、どうしても建築の存在感は薄くなる。実際、モダニズムやポストモダンといったデザインの潮流は、技術よりも意匠の範疇に含まれる。また数々の歴史的建築が証明しているように、建築は新しさというよりも、美学的な価値を有するからこそ、長い時間のスパンの評価にたえることがありうる。

久しぶりに国立科学博物館の常設展示もまわったが、増改築によって、かなり大規模になっており、展示デザインも工夫されていた。なお、建築の関係では、アナログ器械の地震計がいくつか紹介されており、ユニークな造形に目を奪われた。そして個人的に最大の収穫は、マンモスの骨でつくった1万8千年前の住居の復元である。これは最新どころか最古に属する建築だが、大きな骨を組み合わせたど迫力のブリコラージュの技術による産物だ。

《第一国立銀行》(1872)の模型


「日本で3番目に設置された乗用エレベーター」


「最古の地震振動装置」


「《霞が関ビルディング》模型」


「大森式地震計」


「地震動軌跡模型」


「マンモスの骨を利用した住居」


2018/12/16(水)(五十嵐太郎)

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