artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
六本木アートナイト2016
会期:2016/10/21~2016/10/23
昨年まで春に行なわれていたのに、今年は秋に開催。なにか深謀遠慮があるのか、単に準備が遅れただけなのか。調べてみたら、2020年の東京オリパラ関連の「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」に絡めるためらしい。文科省の主催なのできっとお金も出るのだろう。どうでもいいけど。さて、六本木ヒルズでは久保ガエタンの《Smoothie》が注目を集めていた。映像と回転する大きな箱からなる作品で、まず映像だけ見ると、ごく普通の室内風景が映し出されているが、いきなり服や日用品がポルターガイストみたいに舞い踊り始める。そのとき隣の箱は回転しているので、箱の内部が室内のように設定され、そこに固定したカメラが回転し始めた室内を撮影していることがわかる。アイデアとしては珍しくないけど、わかりやすくておもしろいので人気だ。回転ものでは、六本木駅前に設置された若木くるみの《車輪の人》も、場所が場所だけに注目を集めていた。ハムスターなどが遊ぶ回し車を拡大し、若木本人が走り続けるというパフォーマンスで、本当に昼間も夜中も走っていた。ごくろうさんだ。街なかでは、ビルの空き部屋を使ったイェッペ・ハインの《Continuity Inbetween》がすごい。直径10センチほどの穴をあけたふたつの壁を2、3メートル離して向かい合わせに立て、片方の穴からもう一方の穴へ水を飛ばすという作品で、水は放物線を描いて穴に吸い込まれていく。これはどこかで見たことあるけど、見事。屋外では、フィッシュリ&ヴァイスの映像作品《事の次第》をビルの壁に映し出し、駐車場でそれを見るというのもあった。夜中に見に行ったら大勢集まっていた。人気があるというより、みんな終電が終わってほかに行くとこないんじゃないか?
2016/10/22(土)(村田真)
THE PLAY since 1967 まだ見ぬ流れの彼方へ
会期:2016/10/22~2017/01/15
国立国際美術館[大阪府]
1967年に結成され、関西を拠点に活動している美術家集団「プレイ(THE PLAY)」。彼らの特徴は、パーマネントな作品をつくることではなく、一時的なプロジェクトの計画、準備、実行、報告を作品とすることだ。例えば《現代美術の流れ》という作品は、発泡スチロールで矢印型のいかだをつくり、京都から大阪まで川を下った。また《雷》では、山頂に丸太で約20メートルの塔を立て、避雷針を設置して、雷が落ちるのを10年間待ち続けた。中心メンバーは池水慶一をはじめとする5人だが、これまでの活動にかかわった人数は100人を超えるという。彼らの作品は形として残らないため、展覧会では、印刷物、記録写真、映像などの資料をプロジェクトごとに紹介する形式がとられた。ただし、《雷》《現代美術の流れ》《IE:THE PLAY HAVE A HOUSE》など一部の作品は復元されていた。資料展示なので地味な展覧会かと思いきや、彼らの独創性や破天荒な活動ぶりがリアルに伝わってきて、めっぽう面白かった。プレイの活動のベースにあるのは「DO IT YOURSELF」の精神と「自由」への憧れではないだろうか。時代背景が異なる今、彼らの真似をしてもしようがないが、その精神のあり方には憧れを禁じ得ない。
2016/10/21(金)(小吹隆文)
明治のクール・ジャパン 横浜芝山漆器の世界 ─金子皓彦コレクションを中心に─
会期:2016/07/22~2016/10/23
横浜開港資料館[神奈川県]
安政6年(1859年)の開港以来、横浜港からは漆器、陶器、木製品などさまざまな工芸品が輸出され、来日した外国人がお土産品として購入した。輸出港である横浜には各地から工芸職人が移り住み、これら輸出向け商品の生産を行なった(京都から横浜に移り住んだ陶芸の宮川香山(真葛焼)もそのひとりだ)。芝山漆器(芝山細工)は、江戸時代の後期、上総国武射郡芝山村の芝山専蔵によって考案されたといわれる。平面的な螺鈿細工と異なり、芝山細工は美石、象牙、珊瑚、貝殻などを材料に、人物、花鳥を大胆なレリーフで表現している。当初は江戸向けの商品であったが、開港後に横浜で生産が始まり、その盛期には50軒100を数える職人がいたという。花鳥の他、外国人好みの富士山や人力車の意匠が小箱や宝石箱、横浜写真と呼ばれる着色写真アルバムの表紙に施された。本展に出品されている芝山漆器の多くは、日本輸出工芸研究会会長・金子皓彦氏のコレクション。このほか、昭和52年(1977年)まで横浜で代々漆器を製造していた村田家の資料、現在横浜芝山漆器を製造している宮崎輝生氏による作品、下絵、工程品、工具が展示された。
近年明治の輸出工芸に人々の関心が集まっている。ただし、都心の美術館で見ることができるのは、海外での万国博覧会に出品された優品や、帝室技芸員となった工芸家たちの作品が中心で、地場の職人が手がけ、外国人のお土産になったような工芸品が美術館に並ぶことは稀だ。「超絶技巧」ともてはやされている明治工芸を見知った人には、同時期につくられた芝山細工のような輸出工芸品の意匠はとても奇異に見えると思う。しかしながら、以前金子コレクションについて書いた言葉を繰り返せば、これらの製品に用いられた技術は必ずしも一流ではないかもしれないが、ここに見られる品々は優品として遺されてきたものよりもずっと普遍的な日本の工芸品生産の結果であり、明治以降、否、それよりもはるか以前から、マーケットを志向せずしては存立し得ない工芸の本来の姿を伝える貴重な史料なのだ。[新川徳彦]
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2016/10/16(日)(SYNK)
オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ/ADO
会期:2016/09/17~2016/11/23
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
なぜ、建築、グラフィック、玩具というジャンルが異なるこの3名の組み合わせなのかと訝しがったが、展示を見て納得させられた。なるほど、シンプルな幾何学や基本的な原色を使うという共通点がある。リートフェルトの展示は国内各地から多くの家具を集めているが、知らないものがいろいろあって楽しむことができた。ちなみに、この会場なら、そう大きくはない《シュローダー邸》の部分再現もできたかもしれない。
2016/10/13(木)(五十嵐太郎)
人づくりプロジェクト展2016 「あたらしいケシキ」
会期:2016/10/13~2016/10/18
AXISギャラリー[東京都]
商業施設、博物館、展示会などの空間のデザインと施工を手がける丹青社では、毎年、デザイン専門職以外も含むすべての新入社員が外部のクリエイターや職人たちと協働してひとつのプロダクトをつくりあげる課題を課しているという。本展はこの新入社員育成プログラム「人づくりプロジェクト」の成果展。最初にクリエイターが新入社員に対してプロダクトのコンセプトをプレゼンするところからはじまり、それをふまえて新入社員2、3人ずつのチームに分かれ、クリエイターと協働する。制作期間や制作費などの制約のなかでクリエイターたちのコンセプトを具体化し、協力会社の助けを得てひとつのプロダクトに仕上げる。会場に並んだプロダクトはいずれも非常に完成度が高い。個人的には鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)と協働した「DOZO BENCHI(ベンチ)」、橋本潤(フーニオデザイン)の「Swinging String(テーブル)」に魅力を感じた。完成度が高い理由は、これが教育目的のプロトタイプにとどまらず、市販も視野に入れた本気のものづくりだからだ。とはいえ、これは「ものづくりプロジェクト」ではなく、あくまでも「人づくりプロジェクト」。この場合、新入社員は「クライアント」でもあるクリエイターたちがつくりたいと思うモノ、譲れる部分、譲れない部分を理解してものづくりの現場に橋渡しし、限られた予算と制作期間で可能な限りクオリティを高めたものをつくる、そのプロセスそのものが成果だ。社長、全役員へのプレゼンを経てプロジェクトは完了し、新入社員はそれぞれの部署に配属される。プロダクトの諸権利はクリエイターが持ち、製品化のためのメーカー、職人とのコネクションもできる。新入社員にとっても、参加クリエイターたちにとても魅力あるプロジェクトだ。[新川徳彦]
2016/10/13(木)(SYNK)