artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

刺繍(ぬい)と天鵞絨(ビロード)

会期:2016/08/20~2016/11/13

清水三年坂美術館[京都府]

絵筆の代わりに絹糸や金糸を用いて絵画のように表現する刺繍絵画と、ビロード地に友禅染を施した天鵞絨友禅の優品の数々。花鳥、風景、動物の刺繍絵画は、図案のなかの光や立体感を色面ばかりでなく、糸の種類、縫いの方向、厚みによって巧みに表しており、その職人の技倆と生み出された表現の繊細さに息を呑む。こうしたいわゆる「超絶技巧」の作品の他に興味を惹かれたのは、明治30年から大正期に作られたという「刺繍織」と呼ばれるもの。刺繍織は白い無地の織物で太めの糸を浮かせるように織ってある。絵柄に合わせて生地に色を差し、部分的に色糸で刺繍を施す。技法的には染めと刺繍の組み合わせではあるが、遠目には総刺繍のように見えなくもない。つまり安価に刺繍絵画をつくるための手抜き、省力化の技術だ。手を抜きたい、楽をしたいというモチベーションはしばしば技術進歩の原動力であり、その当時は多いに可能性のある発明だったと思われるが、いかんせん、生活必需品ではない他の輸出工芸と同様に刺繍絵画は産業のメインストリームになることはなく、汎用性のある技術として発展することはなかったようだ。[新川徳彦]

2016/08/26(金)(SYNK)

男女共学化の時代 ─戦後京都の公立高・女子高・男子高─

会期:2016/07/02~2016/09/25

京都市学校歴史博物館[京都府]

第二次世界大戦後、GHQの意向を受けた教育改革によって、中等教育の男女共学化が進められた。なかでも京都の公立高等学校では1948年10月の地域制(小学区制)・総合制と同時に共学化が実施された。この展覧会は、1970年頃までを対象に、学校新聞、写真、教科書などを資料として、男女共学の導入とその後の様相とを見せる興味深い内容になっている。
進駐軍主導の改革には旧制中学校・高等女学校に通う生徒や保護者たちからの反対があったが、教育改革を担った京都府軍政部民間情報教育課長E・ケーズの指導により改革が断行され、1947年5月に始まった新制中学校で男女共学化が実施された。新制高等学校の誕生は1948年4月だが、その時点では男女別学で、同年10月の再編により男女共学化が行なわれたという。当初は反対運動があったとはいえ、男女共学化が受け入れられたのは、男女別学を希望する者にとって、京都では多くの私立高等学校がその受け皿となったからと説明されている。1950年の全国における高校の私学在籍者は男子13%、女子23%。それに対して京都市内では男子31%、女子49%と、比率が非常に高かった。その後その比率は高まり、1960年には女子の3分の2は私立の女子高に通っていたという。ということは、京都市では男女共学が受け入れられたというよりも、男女別学を望む層が私学に流れたということになろうか(経済的事情で私学を選択できない層が共学の公立高校に進んだ、ということだろうか)。また京都市では1963年から、府立高校では1973年から順次、家庭科の男女共修が始まってたという。全国の高校で家庭科が男女共修となるのは1994年度からだそうで、京都では教員たちによる自主編纂教材が用いられていたそうだ。
男女共学の様相を資料でどのように見せるか。展示品のなかでは特に運動会の写真が事例として分かりやすい。教室での勉強姿は共学でも別学でもさほど違いはないが、運動会は男女が共同しなければならない場面が多数ある。フォークダンスはその最たるものだろう。手を繋がずに指先だけを結ぶ姿には、この世代でなくても覚えがあるのではないだろうか。公立私立を問わず、京都の高等学校の運動会のトリは仮装行列が定番だったという。1950年、鴨沂高校の仮装行列では、男女の生徒のみならず、教師も仮装させられている。酒飲みという理由で大きな一升瓶に乗せられた先生、源氏物語の登場人物に扮しているのは古文の先生、磔にされたキリストやクレオパトラに扮するは世界史の先生、屋台の親爺の恰好をしているのは「出店」という名前の先生だそうだ。普段の真面目な授業姿の写真と合わせてこれらが展示されているので、余計に可笑しい。私立高校の運動会でも仮装行列は行なわれていた。カトリック系の洛星高校では仏教のお坊さんの仮装、仏教系女子高の光華高校では全員が男装だ。写真からうかがわれる自由な雰囲気は、戦後に生まれたものなのか、京都独特のものなのか、運動会という場だからなのか、本展の主題とは少しずれるが、もう少し知りたいところだ。[新川徳彦]

2016/08/26(金)(SYNK)

ふくいの婚礼

会期:2016/07/22~2016/08/31

福井県立歴史博物館[福井県]

福井県、とくに嶺北地方の婚礼の姿を紹介する展覧会。博物館の入口に設置された印象的なパネルは、マンジュマキ(万寿まき、饅頭まき)と呼ばれるイベントの写真(写真1)。花嫁を家に迎えると花婿の親戚男性たちが、集まった近所の人たちに屋根や二階の窓から饅頭を播く。お菓子や即席麺が播かれる例もあるという。祝い事で餅をまくことはよく聞くが、婚礼において饅頭をまくのは福井・嶺北地方にユニークな風習なのだという。
福井は婚礼が「派手」な地域のひとつで、現在でも婚礼費用は全国のトップクラスなのだという。 展示では、そうした福井の婚礼について、昭和30年代から40年代を中心に、明治から現代にいたるまでの歴史的な変化も考察しながら紹介している。第1章は出会いから結納まで。福井に特徴的なこととして、結納品を飾る水引細工が、結納返しのときに再利用されることがある。時には兄弟の結納の際に同じ水引が使用されることもあるという。妙なところが合理的なのだ。第2章は婚礼の日とその前後。婚礼の派手さを象徴するのは嫁入り道具の数々。その中でも最初に家に運び入れるのは着物を掛ける二つ折りの「衣桁(いこう)」。必ず仲人が持つことになっており、そこには「さあ、行こう」、「良い子を連れてきた」という意味が掛けられているそうだ。嫁入り道具を運ぶトラックの側面には紅白幕が張られ、フロントに翁と媼の人形が飾られているものがある。家具店の幌付きトラックには中の家具が見えるよう側面に窓が付いているものがある。運び込まれた道具や着物は近所の人たちが見に来るのだが、数を多く見せるために呉服屋から空箱を借りることもあったという。なにかと見栄を張りたがるのはどこでもいっしょだ。昭和40年のとある家の嫁入り道具の目録をもとに洗濯機やテレビ、冷蔵庫、掃除機など、当時の家電製品、生活用品を集めたコーナーは圧巻(写真2)。マンジュマキの光景を再現した等身大のイラストパネル(天井から饅頭が吊られている)や、祝言の座敷の再現も分かりやすくてよい(写真3)。
祝儀のかたち、場は地域や階層によって異なるとともに、時代とともにも変化する。第2章後半では新しい婚礼スタイルの登場が取り上げられている。現在も見られる神前結婚式の形式が確立したのは明治33年。これが各地に広まったという。福井では「神前の結婚式」と題する記事が明治44年4月13日の福井新聞にでている。そこには「神前に於て結婚式を挙ぐるとは冗費を省く上に於ても又新夫婦に夫婦なりとの観念を与うる上に於ても遙かに有益なり」とあり、大正期にはじまる生活改善運動に先立って、このスタイルが経費節約の点でも注目されていたことが分かる。戦後推し進められたのは公民館結婚式。展示されている写真を見ると、会議テーブルにクロス掛け、椅子は折りたたみ式、低い天井にモールが飾り付けられていたりする。簡素というよりも質素に見えるが、公民館結婚式を挙げたカップルのなかには後に農協の組合長や議員になるような人物もいたそうで、 先進的な理念を取り入れた結婚式としてのステータスもそこにはあったという。たしかに、そのように考えなければ婚礼費用全国トップクラスという現状との整合性がとれない(ただし、結婚式全体における比率は大きくなかったという。簡素な結婚式は、主流である豪華な婚礼へのカウンターとして存在したと考えるのが妥当かも知れない)。展覧会の主題は福井の結婚式なので多くは触れられていないが、家族のあり方の変化と婚礼のスタイルの変化との関係も興味深い。また、こんにちの福井の婚礼に福井らしさはどれほど見られるのか、知りたいところだ。[新川徳彦]


左:博物館エントランスパネル 右:昭和40年代の嫁入り道具

会場風景

★1──本展図録p74。

2016/08/24(水)(SYNK)

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プレビュー:UNKOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA

会期:2016/10/01~2016/10/02

ハービスホール[大阪府]

昨年に第1回展が開かれ、大きな成果を上げた「UNKOWNASIA」。その特徴は、日本、中国、台湾、タイ、インドネシア、フィリピンなど東南アジア各国から参加者を募ること、各国の第一線で活躍するアートディレクター、ギャラリスト、プロデューサーらを審査員として招いていること、賞の授与だけでなく、国内外での発表の機会や仕事のマッチングを行なうことだ。2回目となる今回は、会場を中之島の大阪市中央公会堂から梅田のハービスホールへと変更。会場が広くなったことにより、参加枠が180ブースへと拡大した(昨年は115ブース)。受賞後の活動やビジネスの機会までフォローするイベントは珍しく、昨年の会場は参加アーティストたちの熱気が渦巻いていた。そんな祝祭的な盛り上がりを今年もぜひ体験したい。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016

会期:2016/09/14~2016/11/23

六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、六甲有馬ロープウェー(六甲山頂駅)、グランドホテル 六甲スカイヴィラ、他[兵庫県]

「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」ほど大規模ではないが、関西を代表する同種のアートイベントとして知られているのが「六甲ミーツ・アート芸術散歩」だ。そのテーマは、六甲山上のさまざまな施設を散歩感覚で巡って現代アート作品を楽しみ、同時に六甲山の豊かな自然環境を再発見すること。普段は滅多に美術館に行かない人でも、家族で、友人同士で和気あいあいと現代アートに触れられるのが魅力である。今年は、岡本光博、開発好明、さわひらき、トーチカ、三沢厚彦など、招待と公募合わせて39組のアーティストが出品。会場は前回とほぼ同様だが、初期の安藤忠雄建築を代表する旧六甲山オリエンタルホテル・風の教会は今年の会場から外れている(残念)。山の天気は変化しやすく、夕方以降は気温が一気に下がる。雨と防寒の準備を忘れずにイベントを楽しんでほしい。

2016/08/20(土)(小吹隆文)