artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
日本のポータブル・レコード・プレイヤー展
会期:2016/07/30~2016/08/28
高円寺円盤のオーナー、田口史人氏がコレクションしたポータブル・レコード・プレイヤー、約100点が所狭しと並ぶ。時代は概ね1960年代から、レコードがCDに取って代わられる80年代まで。メーカーはオーディオメーカー、電機メーカー、おもちゃメーカーまでさまざま。機能や音を重視した正統的なものもあれば、持ち運びできるかたち・サイズに最低限の機能を落とし込んだデザインもある。モダンなデザインもあれば、カラフルでポップなものもある。機能面も多様で、レコードを聴くだけのシンプルなものから、ラジオやカセットテープ、はたまたキーボードまで詰め込んだ商品がある。コレクションにはバイアスがあるかもしれないが、ポップで見た目が楽しいプレイヤーが多いのは、ポータブルという製品の特徴から、持ち運びのとき、使用するときに他人の目に触れるからなのだろう。同時に、機能的デザイン的にさまざまな冒険ができるだけのマーケットが存在していただろうということが、ここからうかがわれる。OEM製品もあるだろうが、日本のメーカーからだけでもこれほど多様なデザインのプレイヤーが製品化されていた事実は、レコードを巡るカルチャーの同時代の証言としても興味深い。田口氏のコレクションはすでに書籍になっているが
2016/08/17(水)(SYNK)
ディズニープリンセスとアナと雪の女王展
会期:2016/07/16~2016/08/15
大丸ミュージアム<梅田>[大阪府]
ウォルト・ディズニーは、1937年に初めて長編アニメーション「白雪姫」を誕生させ、王子様と結ばれ幸福を掴む、一連のプリンセス像を創出した。本展は、「白雪姫・シンデレラ・眠れる森の美女・リトル・マーメイド・美女と野獣・アラジン・塔の上のラプンツェル・アナと雪の女王」の歴代プリンセス9人を取り上げて、ディズニー・アーカイヴの所蔵するコレクションからセル画・模型・フィギュア、実写版映画の衣装等を展示するもの。
ウォルト・ディズニー・カンパニーが生み出した、原作の童話とは異なる一定の「ヒロイン」像は戦後以降、全世界に広まって、テーマパーク・実写映画・ミュージカルへの展開も通じ、不動の地位を築いたといえよう。ディズニー・プリンセスのキャラクター造形をジェンダー問題からみるならば、作り手/男性の視点のみを反映した初期作品から、時代の変遷とともに新たな諸価値も取り入れられつつあることもわかる。言うなれば、保守的な価値観や秩序に従順なヒロインから、自ら運命を切り開こうとするポジティブな意思をもった女性像への転換である。加えて「アラジン」のジャスミンは肌の色が褐色であることから、国際化の進むなかで、昨今のディズニー映画がダイバーシティにも配慮している様子も窺える。通覧中、ディズニーが再生産し続ける少女にとっての「夢」の社会的影響と普遍性について思いを馳せつつ、展示の最終部「アナ雪」の映像シアターへ突入。ここに至って、手書きのセル画から3Dコンピューターアニメーションへの技術発展に関して、時代の大きな変化を実感した。[竹内有子]
2016/08/14(日)(SYNK)
静かなる動物園~アートに棲む生きものたち~
会期:2016/07/01~2016/08/30
髙島屋資料館[大阪府]
京都の烏丸松原に呉服業者として創業後、髙島屋は明治期から貿易業に乗り出してゆく。海外向けに美術染織品(ビロード友禅・刺繍壁掛け・屏風・衝立・着物)を製作、貿易部に画室と陳列式売場を設けて輸出販売にあたった。京都を訪れる外国人が必ず店舗に立ち寄るほどの人気ぶりだったという。創業者一族である飯田家の当主は貿易部を独立させ、仲買商人を通さず直輸出を行うため、積極的に欧米へ製造業の視察を行う。1885年以降、海外の万国博覧会に美術工芸を出品し、金牌を受賞していた。
本展は、同資料館が所蔵する工芸品・染織品下絵等のなかから動物をモチーフにした作品を展示している。髙島屋が著名な京都の画家に下絵を描かせ、優秀な工芸家に刺繍を依頼のうえ美術工芸品を制作させた、その歴史的業績を目で確かめることができる。染織品下絵には、都路華香・今尾景年・谷口香 ・久保田米僊といった日本画家たちの作品のほか、セントルイス万国博覧会関連資料がある。本展示の目玉のひとつは、竹内栖鳳が即興で白縮緬地に墨で描いた≪龍長襦袢≫である。さらにデザインに興味がある人は、常設の入口にあるル・コルビュジエのタピスリー《外部に倦怠が漲る》 と、シャルロット・ペリアンの家具の展示も要チェック。いずれも、髙島屋「芸術の綜合への提案──ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展」開催に由来するものである。[竹内有子]
2016/08/13(土)(SYNK)
インドネシア ファッション ─海のシルクロードで花開いた民族服飾の世界─
会期:2016/07/09~2016/08/28
町田市立博物館[東京都]
戸津正勝氏(ハリウッド大学院大学アジア服飾文化研究所所長・ 国士舘大学名誉教授)が地域研究のために40年に渡って蒐集したインドネシアの染織品の数々を紹介する展覧会。展覧会ではこれら多様な染織を、主として地域別に展示している。インドネシアの染織には大別して蝋を防染材としたバティック( 纈染、ジャワ更紗)と、先染めの糸で織るイカット(絣織)がある。本展図録に付された地図(8頁および66頁)によれば、出品されているバティックの産地はジャワ島、イカットの産地はジャワ島を除くインドネシア各地に拡がる。すなわち、地域別展示は技術別展示でもあり、また多民族国家のインドネシアにおいて、民族別の展示でもある。地域・技術・民族の違いは、染織デザインの違いを生むが、インドネシアの染織の多様性の源泉はそれだけではない。古くから海のシルクロードとして海上交通の要所に位置したインドネシアの島々には、貿易を通じて多様な文化(インドのヒンドゥー文化や仏教文化、ペルシャやアラブのイスラム文化、中国文化、西洋のキリスト教文化など)が到来して土着の文化の上に重層的に受容され、また350年にわたるオランダの植民地支配、第二次世界大戦前の日本軍政時代もその文化に影響を与えてきたことを戸津氏は指摘している。分かりやすい例としては、オランダ人やオランダの兵士、艦船を図案化したバティックがある。日本軍政時代の影響を伝えるものには「ホーコーカイ」と呼ばれる柄のバティックがある。ホーコーカイとはジャワ奉公会から名付けられたもので、戦中から戦後にかけてつくられた柄。筆者の目には他のバティックとの違いがよく分からないが、現地の人々にとっては日本風、エキゾチックなものとして人気だったらしい(このホーコーカイ柄のバティックは、松濤美術館のサロンクバヤ展でも見ることができる)。また、オランダ統治下においても日本人商人はジャワに進出しており、彼らの店はトコ・ジャパンと呼ばれた。本展にはトコ・ジャパンのひとつ、トコ・フジという店が制作したバティックの制作プロセスを示したパネルや、イギリス製と日本製の綿布の品質を比較したバティックのサンプル(イギリス製が最上級とされていたが、日本製も遜色がないことを示している)、店の取扱品目のテキストを染めた布が出品されている。
個々の産地にとって染織品は重要な商品であり、そのデザインやクオリティにはつくり手の趣味嗜好以上に製品の消費地における民族や階層の嗜好が反映される。消費者の変遷という点においてバティックにおける変化は特徴的だ。もともと王宮文化のひとつであったバティックは、17世紀以降になると庶民の間にも普及し始め、技術を独占できなくなった王室は王宮専用の模様を制定しその使用を庶民に禁じることで自らの権威を守った。こうした特定のデザインの独占は、第二次世界大戦時まで続く。
国際貿易で繁栄したジャワ北部海岸地方の都市は多様な外国文化の影響を受け、企業家たちは技術革新にも積極的だった。ヨーロッパから化学染料を導入することで鮮やかな色彩のバティックが登場する。また銅製のスタンプを使用することで生産性が上がった(もちろんデザインもスタンプに適したものに変わった)。
戸津氏は政治的・民族的アイデンティティと染織との関わりも指摘している。第二次世界大戦後に独立したインドネシアの初代大統領スカルノは、服飾文化としてのバティックに着目。小学校・中学校・高等学校の制服にバティックを採用するように指導するとともに、公務員にもバティックの着用を義務づけた。多民族国家インドネシアには他にも多様な染織製品があるにも関わらず、ジャワ島を代表する服飾文化のバティックが国民文化と位置づけられ、内外にアピールされてきたのだ。展示のスタイルだけを見ると本展は一見したところ染織工芸の展覧会のようにも見えるが、その背景にあるものを読むと、これは確かにファッションの展覧会だ。[新川徳彦]
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2016/08/12(金)(SYNK)
こども+おとな工芸館 ナニデデキテルノ?
会期:2016/07/16~2016/09/08
東京国立近代美術館工芸館[東京都]
夏休み、こどもたちが工芸の魅力に出会うのに絶好の展覧会。もちろん大人も楽しめるが、目の前の作品が「何でできているのか」という素朴な疑問を大人たちはともすると忘れてしまい、それを通り越して、技法や用途、意味付けに性急に答えを求めてしまいがちではないだろうか。しかしそんな大人も問題なし。こども向けのパンフレットと大人向けのパンフレット、こども向けのプログラムと大人向けのプログラム、そしてこどもと大人で一緒に楽しむプログラムが用意されていて、こどものようにも、大人らしくも、鑑賞できるようになっている。
いずれも同館所蔵の展示作品は、竹久夢二の染織やクリストファー・ドレッサーのガラス作品から、喜多川俵二の織物や古伏脇司の漆工まで、20世紀から21世紀の日本の作品を中心に実に多様。会場は、繊維、陶磁、ガラス、金属、漆・木竹等にわかれ、テーマである素材を追いやすいように構成されている。およそ140点の展示作品のなかで、唯一の作者不詳の作品は1920年代から30年代の小さなコンパクトであった。その一部の微細なモザイク装飾は卵の殻でできている。工芸作品は素材と技法で成り立っているといってもいいと思うが、素材には実は限りがないのである。[平光睦子]
2016/08/12(金)(SYNK)