artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス│2014年6月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
世界のデザインミュージアム
美術評論家・暮沢剛巳が現地取材した世界9カ国25館のデザインミュージアム。コレクションにとどまらず、その由来や展示空間、建築、そして19世紀以降のデザイン展開の歴史についても徹底解説。この1冊でデザインミュージアムのすべてがわかる! [本書カバーより]
Rhetorica#02 特集:DreamingDesign
レトリカ新刊の特集は、技術と未来を考える方法としてのデザインです。人工物と人間の絡み合いを解きほぐし、再構成する。そのことを通じて、現実に対するイメージを変容させる。そんな技法としてのデザインについて考えています。目次=巻頭言:「人工物に夢を見せる」論考:太田知也「Fitter Happier? ──〈人間?人工物〉共生系の都市論」論考:松本友也「ヴァーチャル化とディスポジション──DreamingDesignについてのノート」勉強会:中村健太郎+松本友也+瀬下翔太「逡巡するアルゴリズム」往復書簡:成上友織+松本友也「いま再び、キャラクターについて」[本書特設ウェブサイトより]【http://rheto2.rhetorica.jp/】
現代建築家コンセプトシリーズ17 大西麻貴+百田有希/o+h
2008年から活動をはじめ、コンペ案や展覧会、住宅作品を発表してきた「大西麻貴+百田有希/o+h」による、国内初の単著。生活空間に物語を与え、生活時間を豊かにし、生活のすべてを尊ぶという、建築の本来の姿をどのように現在の世界にうみだすことができるだろうか。そう問い続けながら大西と百田は、建築におけるあらゆる物事のあるべき関係やディテールを考えなおし、建築が新しく輝き、もっとも愛される瞬間を探している。本書では、大西麻貴+百田有希/o+h の8つの作品が、どのような物事の関係性からうみだされたかを綴る。阿部勤氏との往復書簡、西沢立衛氏との対話も掲載。バイリンガル[本書「かたちをこえる──AIRの枠組みそのものをtrans×formする試み」より]
アトリエ・ワン コナモリティーズーーふるまいの生産
アトリエ・ワンにとって、共同体と都市空間、小さなスケールの住宅と大きなスケールの街をつなぐものは何か。30年におよぶ活動の上に、いま彼らは「コモナリティ」(共有性)のデザインの重要性を位置づけます。「コモナリティ」のデザインとは、建築や場所のデザインをとおして、人々がスキルを伴って共有するさまざまなふるまいを積極的に引き出し、それに満たされる空間をつくりだすことです。 本書では、アトリエ・ワンの「コモナリティ」をめぐるさまざまな思考と作品を紹介します。 世界各地で出会ったコモナリティ・スペースの収集と分析、建築・思想書の再読、また芸術創造、歴史、社会哲学論の観点から「コモナリティ」を考える3つの対話も収録。アトリエ・ワンによる都市的ふるまいや文化的コンテクストを空間に反映させる実験的なインターフェイスである《みやしたこうえん》、《北本駅西口駅前広場改修計画》、《BMWグッゲンハイム・ラボ・ニューヨーク》、《同・ベルリン》、《同・ムンバイ》、《カカアコ・アゴラ》も解説とともに掲載。」[LIXIL出版社サイトより]
αMプロジェクト2013 楽園創造[パラダイス]—芸術と日常の新地平—
武蔵野美術大学創立80周年にあたる2009年、かねてより待望されていた恒常的なギャラリースペースが、千代田区東神田に「gallery αM」として新たにオープン。2013年度には、中井康之氏をゲストキュレーターに迎え、連続展「楽園創造—芸術と日常の新地平—」を開催いたしました。本カタログには、現在活躍中の作家6名と1組による7回の展覧会のそれぞれについての論考と作家趣旨文、会場風景の写真とアーティストトークの記録がまとめられております。[本書より]
東京国立近代美術館 研究紀要 第18号
東京国立近代美術館が一年度に一回刊行している研究紀要。今号では、論文「アジアからの美術書誌情報の発信」、「吉澤商店主・河浦謙一の足跡(1)」、資料紹介「メディア連携を企図する館史としての『東京国立近代美術館60年史』」などを収録している。
2014/06/16(月)(artscape編集部)
野のなななのか
大林宣彦監督の『野のなななのか』を鑑賞した。数百億をかけて、ありえないことをいかにもリアルに映像化するハリウッドとは対極的に、映画のリアリズムの文法を破壊し、大林流に再構築して提示することにより、観者は目眩のような「体験」を経て、その世界に没入する。が、それはむしろ本当に歴史という現実と私たちを深くつなげるのだ。『野のなななのか』は、北海道芦別市のある老人の死を契機に、人のつながりが連鎖し、東日本大震災や太平洋戦争で8月15日以降も戦争が続いた樺太の悲劇から芦別の地方史まで、物語が展開する。『永遠の0』と出だしこそ似ているが、その奥行きの広がりは、生死、あるいは過去と現在が同時存在する宗教的なレベル(輪廻転生?)にまで昇華していく。確かに『野のなななのか』は、同じ大林によるポスト3.11の映画『この空の花──長岡花火物語』やAKB48『So long ! 』のMV(64分版)と連なる共通した手法をもつが、この作品はとくにモノの記憶、古い建物の空間、絵画や文学の意味にも焦点を当てるところが、個人的に好みだ。これまで常磐貴子や安達祐実はあまり作品に恵まれない印象だったが、本作は素晴らしい。
2014/06/14(土)(五十嵐太郎)
プレビュー:ローマ環状線、めぐりゆく人生たち
8月公開のジャンフランコ・ロージ監督の『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』を一足先に見る。世界中が知っている都市ローマの、観光客には知られていない環状線沿いに住む人たちの群像ドキュメンタリーだ。事故に対応する救急隊員、車上生活者、集合住宅の各世帯、虫の音を調査する植物学者らが登場する。まず基本的に映像がどれも美しいのだが、『ローマ環状線』は、人々の生活の断片を織物として再編集し、都市の物語=テクストをつくりあげる。すべてがノンフィクションの映像ながら、巧みな配置と組み合わせによって、それぞれが別のことを意味する隠喩として機能する手腕はお見事。何気ないシーンも意味をもって立ち現れる。この映画は、高速という都市の大動脈、すなわち人工的な川沿いの生態系から物語をつむぐが、現代の土木構築物から切り取られることで、ローマという特殊性よりもむしろどこの都市にでも起きうる普遍性をもつ。本作は、ヴェネツィア国際映画祭でドキュメンタリーとして初の金獅子賞を受賞したらしい。
2014/06/13(金)(五十嵐太郎)
映画をめぐる美術──マルセル・ブロータースから始める
会期:2014/04/22~2014/06/01
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー[東京都]
国立近代美術館の「映画をめぐる美術──マルセル・ブロータースから始める」展を見る。以前、同館で開催された「ヴィデオを待ちながら」展が、1960年代から新しい表現手段として登場したヴィデオ・アートの基本的な作品を一同に集めた入門編だとすれば、今回はマルセル・ブロータースの試みを共通の入り口にして、6つのテーマにもとづき、個別の部屋に誘い、他の作家を紹介するというハイブロウな内容だった。アメリカの銀行強盗事件を再現するピエール・ユイグや、音声が失われた母の過去の映像を調査するアンリ・サラの作品が興味深い。同館の展示によく関わる、建築家の西澤徹夫による会場構成も秀逸である。
2014/06/01(日)(五十嵐太郎)
プレビュー:林勇気 展「光の庭ともうひとつの家」
会期:2014/06/21~2014/07/13
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
自身で撮影した画像やインターネットを検索して集めた膨大な量の画像データを、切り抜き重ね合わせるなどしたアニメーション作品で知られる林勇気。本展で発表される新作《光の庭ともうひとつの家》では、一般から募集したアンケートをもとに林と建築家のNO ARCHITECTSが回答者(=施主)の理想の家を設計。林が画像データを用いて「光の庭」に小さな「もうひとつの家」を建築する。施主には500円で「もうひとつの家」を購入してもらい、「光の庭」の住人になってもらう。これはインターネットゲームでアイテムやコスチュームを購入する行為と同じであり、仮想空間と現実社会の関係性を問うことが本展のテーマである。
2014/05/20(火)(小吹隆文)