artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
アクト・オブ・キリング
ジョシュア・オッペンハイマー監督の『アクト・オブ・キリング』の試写会へ。異様なドキュメンタリーだった。例えば、エンディングロールにおいて、ものすごい数のanonymous(匿名)表記が続く。メイクや運転手だけでなく、共同監督すらそうだ。おそらく、実名をあかせば、被害の恐れがあるのだろう。これは1960年代のインドネシアで行われた100万人規模の大虐殺をテーマにしたドキュメンタリー映画である。狙われたのは、共産主義者、あるいはそうだとされた人たちだ。この映画でメインに登場するアンワルも、1,000人を殺害したという。しかも針金を使う効率的な方法を使ったと自慢する。『アクト・オブ・キリング』が凄まじいのは、加害者側にいかに虐殺したかを再度演じてもらうドキュメンタリーになっていること。被害者はすでに殺され、語ることができないとはいえ、あるいはそうした取材がインドネシアで困難なのかもしれないが、加害者に好きなようにドラマ化させる思い切った手法だ。虐殺の加害者は、現地の公共放送にも出演し、笑いながら殺しのシーンを語り、共産主義者を排除する美しい映画になると言う。彼らのドラマでは、殺された共産主義者が、殺してくれてありがとうと感謝するシーンすら入っている。しかし、加害者は同時にいまはよき祖父であり、よき父でもある普通の人なのだ。40年前の虐殺を再現しながら、アンワルの心情にも少しは変化が起きるのだが、フィクションが描くような勧善懲悪のカタルシスは訪れない。実際、加害者は市民に英雄として崇めるよう強要し、いまも犠牲者の記念碑はないという。だが、このグロテスクな現実は、インドネシアの60年代だけの問題ではない。アンワルと一緒にいる地元のギャングが途中で選挙に出馬するシーンにも驚かされた。彼は当選したら、あちこちから賄賂をもらえると嬉しそうに街を歩きながら語る。だが、市民の側も選挙運動で訪れた彼に、買収のお金はくれないのかと次々に要求する。ここでは形骸化された選挙の形式だけが残っている。想田和弘のドキュメンタリー映画『選挙』もびっくりの世界だ。
2014/02/27(木)(五十嵐太郎)
第6回恵比寿映像祭 トゥルーカラーズ
会期:2014/02/07~2014/02/23
東京都写真美術館[東京都]
注目したのは、カミーユ・アンロによる《偉大なる疲労》(2013)。インターネット上から博物学的ないしは宇宙論的なイメージを渉猟し、それらを再構成することで創世記の神話を物語った。
複数のウィンドウが重なるディスプレイを画面に導入したり、ヒップホップのラッパーに神話を唄わせたり、いかにも今日的な映像の質が興味深い。いかなる物語であれメディアが時代にそぐわなくなれば伝達力を急速に失ってしまうことを思うと、おそらく神話の最適化を図ったのだろう。
ただ、問題なのはその内容の大半をすでに覚えていないことだ。確かに映像というメディアにリアリティはある。けれども、その一方で氾濫する映像はたちまち忘却の彼方に消え去ってしまう。イメージは辛うじて残るかもしれないが、言葉や意味はほとんど残らない。
おそらく作者はそのことを重々承知しているのだろう。皮肉に富んだ作品のタイトルは、編集作業に費やした膨大な時間と労力に加えて、報われにくい映像の特性をも暗示しているように思われた。
2014/02/21(金)(福住廉)
スノーピアサー
ポン・ジュノ監督の映画『スノーピアサー』を見る。凍りついた世界で、一年で地球を一周するノアの箱舟としての走り続ける列車が舞台だ。徹底した動く閉鎖空間である。フランスのバンド・デシネを原作とし、それと通じる独特の美意識が全編を貫く。SFとしてはツッコミどころ満載だが、各車両がさまざまなビルディングタイプとなり、直列につながった線状都市をひたすら前に進むのは映画的に面白い。スーパースタジオのディストピア、12の理想都市を思い出す。最近、DVDで『ザ・スパイダースのゴー・ゴー・向こう見ず作戦』(1967)を見たのだが、これもただ一直線に前に前に歩いて進むというとんでもなくバカバカしい単純な設定だが、それが社会に巻き起こす騒動が意外に興味深い。
2014/02/17(月)(五十嵐太郎)
天空からの招待状
台湾の空撮シーンだけで制作された映画『天空からの招待状』(監督:チー・ポーリン)を見る。製作総指揮は、ホウ・シャオシェン。険しい自然から農業、そして都市へ。空からしか認識できない驚くべきかたちが次々にあらわれるのが楽しい。映画館ならではの視覚の体験を味わえる。建築学生も、卒計の傾向と対策みたいな流行のデザイン以外の形を見てほしい。ただし、映画は途中から、環境問題に焦点をあてるようになり、語りがやたら説教ぽくなるのが残念だった。最後まで、映像の美だけでも十分にいけた作品だと思うのだが。
2014/02/08(日)(五十嵐太郎)
バービー
大雪で外出を控え、DVDにて韓国映画の『バービー』を見る。父が障害をもつ貧しい家庭の姉妹が、養子縁組という名目でアメリカに連れられる物語だ。全編に漂う叙情的なテイストも韓国的だが、残酷すぎる予感を示すエンディングはハリウッドや日本ではできないだろう。しかも実際に姉妹だというキム・セロンとキム・アロンは、話題のテレビ・ドラマ『明日、ママがいない』の子役と比べて、レベルが違う演技力をもっている。
2014/02/08(土)(五十嵐太郎)