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映像に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:森村泰昌:自画像の美術史 「私」と「わたし」が出会うとき

会期:2016/04/05~2016/06/19

国立国際美術館[大阪府]

大阪出身・在住ながら、地元の美術館で大規模個展を行なったことがなかった森村泰昌。待望の機会となる本展は、彼の「自画像シリーズ」の集大成と位置づけられており、ゴッホに扮した出世作から、レンブラント、ベラスケス、フリーダ・カーロ、シンディ・シャーマンといった過去の代表作と、今展のために制作された新作、未発表作品が一堂に会する。また、1985年に京都のギャラリー16で行なわれた伝説的展覧会「ラデカルな意志のスマイル」が再現され、上映時間60分以上の新作映像作品が発表されるなど、大変充実した内容となっている(作品総数134点)。そして、「森村泰昌アナザーミュージアム」と題した関連展覧会が名村造船所跡地(大阪市住之江区北加賀屋)で同時開催され、NPO法人ココルーム(大阪市西成区釜ヶ崎)でもイベントが行なわれるなど、美術館にとどまらない地域的な広がりを持っているのも見逃せないところだ。

2016/03/20(日)(小吹隆文)

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笹岡敬展 TIMES2016

会期:2016/03/12~2016/03/26

CAS[大阪府]

笹岡敬の作品といえば、光を駆使したインスタレーションが思い浮かぶ。しかし本展の作品は映像だ。疾走する自動車から撮影した風景がパノラマサイズで上映され、景色が次々に移り変わっていく。上映には2台の映写機が用いられていたが、それは画面が極端に横長なためだろうと勝手に思い込んでいた。あとで本人に、「じつは同一映像を時間差をつけて横並びで流している」と聞き、とても驚いた。あらためて作品を見直すと、確かに同じ映像だ。そこには二つのずれた時間があり、我々が普段感じているのとは違う時間認識が顔を覗かせていた。笹岡は2015年に「timelake─時間の湖─」という企画展に参加し、時間を一直線の流れではなく、過去と未来を行きつ戻りつして認識するものと思うようになった。本作はその考えに基づくものである。習作的なラフさもあるが、今後の展開次第では笹岡の新たな起点と見なされるかもしれない。

2016/03/16(水)(小吹隆文)

WE ARE Perfume──WORLD TOUR 3rd DOCUMENTほか

映画『WE ARE Perfume』とBABYMETALの海外公演映像は興味深かった。ともに英詞をつくらず、そのまま日本語で歌い、自動人形の身振りだが、海外で一定の反響を得ているのは、昔だったら考えにくかった状況である。しかも前者は一応、海外の観客の好みやコミュニケーションを考えるのに対し、後者は去年のオズ・フェストで見たのとそのまま同じパフォーマンスであり、演出を国内外で変えていないことに驚かされた。

2016/03/12(土)(五十嵐太郎)

ブリッジ・オブ・スパイほか

行き帰りの飛行機で幾つかの映画を見る。スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』は一見地味だが、とてもよい。敵側の出方を考える冷戦時代の駆け引きが、緊張感のあるドラマをつくり上げている。現在、世界の敵は理解不能なテロリストということになっているので、これが失われているのではないか。『悪のクロニクル』は脚本と演技がお見事である。また韓国映画らしく、業が深い内容だった。一方、機内で見ることができた最新の邦画は、『orange』や『俺物語』である。漫画ぽいというか、そもそも漫画が原作だからそうなのだけど、もっと緊張感のある映画が見たい。『図書館戦争 THE LAST MISSION』も、それほどのアクションでないし、政治・社会の掘り下げが浅い。

2016/03/12(土)(五十嵐太郎)

第2回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2016

会期:2016/03/06~2016/04/01

京都市美術館[京都府]

2013年に第1回展が行なわれ、好評を博した「京都版画トリエンナーレ」。その特徴は、作家の選出にあたりコミッショナーの推薦制をとっていること、一作家あたりの展示面積を広く取っていること(10m以上の壁面または50平方メートルの床面)、表現の幅を広く取っていることだ。今回は、小野耕石、加納俊輔、金光男、鈴木智恵、中田有華、林勇気、増田将大など20名の作家を選出。「刷る」ことに重きを置いた版画ならではの表現、美術館と版画の歴史に言及したコンセプチュアルな表現、服飾や文章など別分野の創作をフィードバックさせる表現、映像や立体のインスタレーションといった具合に、多様な作品を揃えることに成功した。作品の質が高いことに加えて、展示スタイルもバラエティに富んでおり、この手の美術イベントとしては上々の部類に入るのではないか。今後も継続して、日本の版画分野のなかで独自の地位を築いてほしい。

2016/03/05(土)(小吹隆文)

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