artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
プレビュー:《Showing》03 映像 伊藤高志 上演作品
会期:2016/01/23~2015/01/24
京都芸術劇場 春秋座[京都府]
《Showing》シリーズの企画意図は、「『公演』における各要素の中で、複製技術を持つメディア(音、写真、映像など)を取り上げ、それぞれの視点から劇場へと向かう創作を試みる」と掲げられている。過去2回の開催では、音響作家・荒木優光、写真というメディウムの特性を自覚的に扱う美術作家・加納俊輔による上演作品が発表されている。
《Showing》第3回目では、映像作家・伊藤高志による上演作品を予定。80年代以降、写真をコマ撮りした魔術的なアニメーション作品で知られる伊藤は、舞台人とのコラボレーションとして、ダンサーの伊藤キムとの『ふたりだけ』(2002年)、山田せつ子との『恋する虜─ジュネ/身体/イマージュ』(2008年)、寺田みさことの『アリア』(2013年)などを手がけるとともに、川村毅作・演出による『現代能楽集AOI/KOMACHI』(2003年)などで映像演出を行なっている。コマの連続による静止画の運動、フレーミング、フィルムの物質性など、「映像」を成立させる構造に自覚的に言及してきた伊藤だが、本公演では、そうした再帰的な思考が、「演劇」あるいは「劇場」という空間へどのように差し向けられるのだろうか。
2015/11/30(月)(高嶋慈)
A-Lab Exhibition Vol.1 まちの中の時間
会期:2015/11/29~2016/01/11
あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]
兵庫県尼崎市の、阪神尼崎駅から北東に徒歩約15分の場所にある旧公民館が、アートセンターとしてリニューアルオープンした。「あまらぶアートラボ A-Lab」と名付けられたこの施設では、今後ワークショップなどの体験型企画を中心に、美術展も織り交ぜて活動して行く。その開館を記念して開催された本展では、ヤマガミユキヒロ、小出麻代、田中健作の3作家が出品。ヤマガミは鉛筆画と映像を融合した「キャンバス・プロジェクション」なるオリジナルな表現を展開し、小出は、和室、ベランダ、倉庫という異なる3つの空間でインスタレーションを創出、田中は東日本大震災の津波被災地を取材した写真作品などを発表した。この3作家は今後1年間をかけて地域を取材し、2016年度以降に「まちの中の時間」をテーマにした新作個展を同地で行なう。こうした継続的な企画と、地元民を対象としたワークショップ等の活動を地道に続けていくことが、この施設の独自性を高めるであろう。小さくとも実りのあるアートスペースとなることを期待している。
2015/11/29(日)(小吹隆文)
川田淳 個展「終わらない過去」
会期:2015/11/13~2015/11/30
東京都中央区日本橋浜町3-31-4[東京都]
辺野古が怒りに震えている。日本政府が沖縄の民意を蔑ろにしながら米軍基地の移設工事を強行しているからだ。このような「本土」と「沖縄」のあいだの非対称性は、確かな事実であるにもかかわらず、本土の人間の無意識に封印されているように、じつに根深い。
本展で発表された川田淳の作品は、「本土」の人間であれ、「沖縄」の人間であれ、見る者にとっての「沖縄」との距離を計測させる映像である。主題は、戦没者の遺留品。沖縄で50年以上ものあいだ、それらを発掘して収集している男と川田は出会い、その作業を手伝い始める。あるとき男は川田に名前が記された「ものさし」を見せ、これを遺族に返還してほしいと依頼する。映像は、川田が主に電話によって遺族を探し出す経緯を映し出しているが、映像と音声が直接的に照応していないため、おのずと鑑賞者は聞き耳を立てながら川田と彼らとのやりとりを想像することになる。
その「ものさし」は、結局のところ遺族に返還されることはなかった。遺族と面会して直接手渡すことを望んだ川田の希望が遺族には聞き入られなかったからだ。川田がそのように強く希望したのは、遺留品に残された無念を汲みながら日々発掘に勤しむ男の気持ちを重視したからである。着払いの郵送を望む遺族に対して、川田はその「気持ち」を粘り強く伝えたが、ついにその試みは実らなかった。「面会」に期待された魂の交流と、「着払い」に隠された慇懃な敬遠。「沖縄」と「本土」、あるいは「戦争」と「平和」のあいだの絶望的なまでに大きな隔たりが、私たちの眼前にイメージとして立ちはだかるのである。
むろん重要なのは、その隔たりを埋め合わせ、できるかぎり双方を近接させることであることは疑いない。しかし、その距離感が現在の沖縄をめぐる現実的な診断結果であることもまた否定できない事実である。川田淳の映像作品は、まさしく「ものさし」の行方を想像させることによって、沖縄との距離感を見る者に内省させるのだ。それは、沖縄の問題というより、むしろ私たち自身の問題と言うべきである。
2015/11/28(土)(福住廉)
海街diary
行き帰りの飛行機では、7本の映画を見る。ベストは「海街diary」だった。こんな四姉妹はいないだろうと突っ込みたくなるが、それを上回る実在感が、細部の描写によって丁寧につくり込まれている。欠けた父の記憶を共有しつつ、味や家屋や作法を継承していく彼女たち。広瀬すずも、この瞬間にしかできない役と演技である。
2015/11/15(日)(五十嵐太郎)
METライブビューイング:ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』
会期:2015/10/31~2015/11/06
METライブビューイングのプログラムで、ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』を映画館で見る。火あぶりにされたジプシーの老女の呪い/復讐ゆえか、女性をめぐって引き起される兄弟殺しの悲劇である。闘病を感じさせないホヴォロストフスキーと、貫禄がついたネトレプコ、主役をつとめる二人の歌手が舞台を引き立てる。切り替わる回転舞台と、階段を伴う高さを生かした空間の演出である。
2015/11/03(火)(五十嵐太郎)