artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

山城知佳子+砂川敦志(水上の人プロダクション)「PACIFIKMELTINGPOT / In Situ Osaka 2013」映画上映

会期:2015/09/22~2015/09/23

神戸映画資料館[兵庫県]

フランス人振付家、レジーヌ・ショピノのカンパニーをハブにして、太平洋諸地域のアーティストや研究者が展開する《PACIFIKMELTINGPOT》。これまで、ニューカレドニアやニュージーランドの先住民であるカナックやマオリなど、口承文化をまだ受け継ぐ地域の人々とワークショップを行ない、リサーチを積み上げてきた。2013年には大阪で「PACIFIKMELTINGPOT / In Situ Osaka」ライブパフォーマンス&ディスカッションが開催され、日本、ニューカレドニア、ニュージーランドという3つの地域のアーティストが参加した。この映画は、大阪でのリサーチワークとその成果発表の上演を記録したドキュメンタリーである。監督は、沖縄を拠点に活躍する映像作家・山城知佳子と映画監督・砂川敦志。《PACIFIKMELTINGPOT》の完結編となる神戸での公演に合わせて上映された。
このドキュメンタリー映画の特徴は、振付家やダンサーたちが交わす言葉に対して、字幕が一切付けられていない点にある。フランス語、英語、日本語。3つの地域の3つの言語が入り乱れてやり取りされるリサーチワークの現場。ダンスは身体言語の芸術だが、創作現場ではたくさんの言葉が発せられ、身体への探究が言語化を通してフィードバックされる。加えて、《PACIFIKMELTINGPOT》の場合、身体から発せられる音や声、つまり口承文化の豊かな語りや歌唱も作品を構成する素材となる。映画では、観客が「字幕を読む」ことを封じることで、身体の動きへの注視に加え、聴こえてくるさまざまな歌や音そのものが際立っていた。アカペラ歌唱、その力強さやハーモニックな調和、手拍子や足踏みで集団的に刻むリズム……。さらに木琴の即興演奏が加わる。ここでは常に絶えず声と音が流れ、多声的な場を醸成している。その意味で、これはダンス映画であると同時に、音楽映画と言えるだろう。
字幕がないことで、(日本の観客にとって)もうひとつ際立つ部分が、通訳を兼ねた日本人ダンサーと振付家とのやり取りだ。3地域それぞれのグループ毎に、動きや声を通して身体の共同体的質を探っていくのだが、日本の子守唄やわらべ唄を歌いながら踊ってみせたダンサーたちに対して、ショピノは「私にはそれは何のバイブレーションも起こさなかった」と厳しい判断を下す。共同体的身体や「起源」の捏造や再生産は、とりわけそれが「国家」という仮構されたシステムと結びつくとき、同化と排除の論理の強化につながる危険性を大いに孕んでいる。あるいは、グローバリゼーションと消費資本主義が覆っていくなか、多文化主義への回収や観光資源化されていくだろう。しかし、口承文化が生活のなかにまだ残っているカナックやマオリの出演者たちとは異なり、われわれの身体にはそうした共同体的質がどの程度まで宿っているのだろうか。筆者のインタビューにおいて、ショピノは「2年前の大阪でのクリエーションは互いの差異を知る段階として必要だった」と語っていたが、ここでの「差異」とは所作やリズム感、体格の違いといった表面的なもの以前に、歌や踊りとして身体化された共同体のルーツの有無という、より根源的な差異ではなかったか。

2015/09/22(火)(高嶋慈)

プレビュー:鉄道芸術祭 vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車~alternative train~

会期:2015/10/24~2015/12/26

アートエリアB1[大阪府]

京阪電車「なにわ橋駅」構内という独特のロケーションを生かし、鉄道と芸術をテーマにした「鉄道芸術祭」を毎年開催しているアートエリアB1。今年は写真家のホンマタカシをプロデューサーに迎え、駅、ホーム、車両などの鉄道環境や、京阪電車沿線を独自の視点でリサーチした作品展示を行う。出品作家はホンマの他、黒田益朗(グラフィックデザイナー)、小山友也(アーティスト)、NAZE(アーティスト)、PUGMENT(ファッションブランド)、蓮沼執太(音楽家)、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ(アーティスト)の計7組。ホンマは6月から断続的に大阪に滞在し、京阪沿線でカメラオブスキュラの手法で作品を制作、それらのうち光善寺駅のカメラオブスキュラを限定公開する他、小津安二郎へのオマージュ、リュミエール兄弟の作品上映などを行う。他のゲストアーティストたちは、写真、模型、映像、ドローイング、音響作品を出品する予定だ。

2015/09/20(日)(小吹隆文)

ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展

会期:2015/09/19~2015/11/23

兵庫県立美術館 ギャラリー棟3F[兵庫県]

近年、日本の美術館では、マンガやアニメをテーマにした企画展が増えている。その理由は、日本の文化シーンにおいて、マンガ、アニメの存在が無視し難いほど巨大になったことが挙げられる。また、これまで美術館に来なかった客層を取り込む、美術館の動員実績を上積みするためにマンガ、アニメを利用するなどの思惑もあるだろう。その理由がいずれにせよ、これまでのマンガ、アニメ展は人気作家・作品の個展がほとんどだった。その点で本展は、1989年(手塚治虫の没年)以降の日本のマンガ、アニメ、ゲーム史を概観している点で画期的だ。展示構成はマンガが少なめで、アニメとゲームに多くを割いていた。特にゲームにここまで注力した企画は極めてレアで、それだけでも開催の価値が感じられる。この神戸展は先に行われた東京展よりも会場が狭かったため、縮小版になってしまったのが残念だ。それでも本展が関西で行われた事実は、今後重要な意味を持つだろう。

2015/09/18(金)(小吹隆文)

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六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015

会期:2015/09/12~2015/11/23

六甲山カンツリーハウス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ガーデンテラス、六甲有馬ロープウェー、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、グランドホテル六甲スカイヴィラ、旧六甲オリエンタルホテル・風の教会、プラス会場[TENRAN CAFE][兵庫県]

六甲山上のさまざまな施設を舞台に現代アート作品の展示を行い、アートと六甲山の魅力を同時に満喫できるイベント。6回目を迎える今年は約30組のアーティストが出品し、会期中にはパフォーマンスやワークショップなど多彩な催しも行われている。筆者が毎年楽しみにしているのは、六甲高山植物園から六甲オルゴールミュージアムに至るルート。ここでは、貝殻のような陶の小ピースを森の中に散りばめた月原麻友美の《海、山へ行く》と、旧六甲山ホテルの電気スタンドを組み合わせて光と音がコール&レスポンスする久門剛史の《Fuzz》がお気に入りだった。また、六甲有馬ロープウェーで大規模なインスタレーションを行っている林和音の《あみつなぎ六甲》と、六甲ガーデンテラスで光とオルゴールを駆使した作品を夜間に展示している高橋匡太の《star wheel simfonia》もおすすめしたい。そして、今年にはじめて会場となった旧六甲オリエンタルホテル・風の教会では八木良太が音の作品《Echo of Wind》を出品しており、安藤忠雄建築との充実したコラボレーションが体験できる。作品、展示、環境、ホスピタリティが高いレベルで安定しているのが「六甲ミーツ・アート」の良い所。関西を代表するアートイベントとして、胸を張っておすすめできる。

2015/09/11(金)(小吹隆文)

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野火 Fires on the Plain

「野火」は大岡昇平の原作だが、まさに塚本晋也の映画だった。もはや誰が敵なのか不明な日本軍の混乱、極限下に置かれた人間、そして、残酷な自然環境が執拗に描かれる。改めて、なぜいままで日本にこういう「戦争」映画がなかったのか?極限下における人間の行為を描く小林よしのりの新作『卑怯者の島』にも近い態度だが、むしろ塚本は喰うことをめぐる本能的な生存の闘いと人間性の境界に焦点をあてる。

2015/09/06(日)(五十嵐太郎)