artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

コングレス未来学会議

6月公開のアリ・フォルマン監督『コングレス未来学会議』を見る。前作の『戦場でワルツを』における記憶をめぐるアニメの使い方も斬新だったが、本作はハリウッドが俳優の完全デジタルデータ化によって本人不在で映画を制作する状況を描き、2034年に設定された未来の場面からめくるめくサイケデリックなアニメの世界に突入する。フィッシャー兄弟、あるいはピンク・フロイドやビートルズの映画におけるアニメなどが想起される。

2015/04/23(木)(五十嵐太郎)

さよなら、人類

8月公開のロイ・アンダーソン監督の『さよなら、人類』を見る。徹底的につくり込んだスタジオのセットは、現実の空間を1/1の紙模型で再現して写真で撮影するトーマス・デマンドの作品のなかで、映画を撮影しているような不思議な雰囲気をかもし出す。そして斜めの角度からの室内描写や、開口のポジションも面白い。独特な間合いとシュールな設定による笑いが絶えない、短編の集積のような作品である。

2015/04/23(木)(五十嵐太郎)

佐藤雅晴「1×1=1」

会期:2015/04/18~2015/05/23

imura art gallery[京都府]

椅子に座ってショートケーキを食べる双子の姉妹、同じ姉妹の立ち姿、2個のショートケーキなど、2人(つ)尽くしの作品が並んでいる。それらは写真画像を元にコンピューター上で描いた絵画をプリントしたものだ。1人(つ)のモデルをダブルにしたのは違和感の演出であろう。作品のディテールを凝視すると、それが絵画だと分かる部分もある。しかし説明を受けなければ、多くの人が写真だと思い込むに違いない。この写真ともCGとも絵画とも言い切れないビジュアルの薄気味悪さは何だろう。来るべき世界を先取りしているから? 美しい外見とは裏腹に、モヤモヤが募る作品であった。なお本展には、漫画のコマ割りを流用したマルチ画面の映像作品もあった。画面に映る時計の時刻から、東日本大震災に言及したものと思われる。

2015/04/21(火)(小吹隆文)

プレビュー:palla/河原和彦「断面 SECTION」

会期:2015/05/02~2015/05/17

COHJU contemporary art[京都府]

写真や映像を折り返し重ね合わせ、それらを規則的にずらしていくことにより、現実の風景から思いもよらぬ時空間を取り出すpalla/河原和彦の作品世界。大阪を中心に活動していた彼が、初めて京都で個展を開催する。本展では、折り重ねられた空間をずらして行く過程に現れる瞬間に着目した映像作品2点を出品。我々の日常世界に隠された不可視の時空、それが現れる瞬間のクールなダイナミズムを味わいたい。
ウェブサイト:http://www.pallalink.net/modx/weblog/?p=2050

2015/04/20(月)(小吹隆文)

試写『沖縄 うりずんの雨』

会期:2015/06/20よりロードショー

「うりずん」とは琉球語で冬が終わって大地が潤い、草木が芽吹く時期を指すらしい。ちょうど70年前、米軍が沖縄に上陸した季節がそうだった。この映画は、日米のあいだで翻弄され、抑圧されてきた(それは意外にも160年以上も前のペリー来航時に始まり、そしていまでも続いている)沖縄の姿をさまざまな立場の人たちの証言によって浮き彫りにしていく。沖縄で戦った元米軍兵士や元日本軍兵士、元県知事の太田昌秀をはじめ地上戦で生き残った住民たち、辺野古への基地移転賛成派および反対派、そして戦後、沖縄駐留中にレイプ事件を起こして“珍しく”日本で裁かれた元米兵もインタビューに応えている(ただし3人のうち1人だけだが)。もちろんインタビュー映像だけでなく、アメリカ国立公文書館所蔵の記録映像も交え、また現在の米軍内の女性兵士に対するセクハラ問題にまで撮影対象を広げている。これほど視野が広くフトコロが深いのは、監督が『チョムスキー9.11』『映画 日本国憲法』などを撮ってきたアメリカ人ジャン・ユンカーマンだからだ。2時間28分はいささか欲ばりすぎという気がしないでもないが、ものたりないよりはるかにいい。ちなみに今日はたまたま安倍首相と翁長知事の初会談の日……。

2015/04/17(金)(村田真)