artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

月─夜を彩る清けき光

会期:2016/10/08~2016/11/20

渋谷区立松濤美術館[東京都]

いきものにとって太陽が不可欠なことはいうまでもないが、視覚的には太陽よりも月のかたちが意識に上りやすく思うのはそれが満ち欠けによって日ごとに姿を変える存在だからだろうか。明治時代に太陽暦が採用されるまで、日本ではながらく太陰暦が用いられ、月の満ち欠けによって生活のサイクルが決まっていたことも、月の姿に意識的になる理由であろうか。本展はそうした日本人の生活と深い関わりを持つ月をモチーフとした絵画、工芸品を7つの章に分けて紹介するテーマ展。第1章は「名所の月」。中国湖南省の洞庭湖の上空に浮かぶ秋月を描いた《洞庭秋月図》から始まり、浮世絵に描かれた近江八景《石山秋月》、名所江戸百景など広重が描いた月へと至る。「月」に注目すると橋の下に満月を配した広重《甲陽猿橋之図》の構図がひときわすばらしい。第2章は文学。月に関わる詩歌や物語を絵画化した作品のなかで注目すべきは竹取物語であろうか。第3章は月にまつわる信仰で、月天像が紹介されている。第4章は「月と組む」。月と山水、月と美人、月と鳥獣など、月と組み合わせることで作品には季節や時間帯が含意される。広重《月に雁》のように季節は秋が多いが、中には朝顔や桜花との組み合わせもある。第5章は月岡芳年が月を主題として描いた「月百姿」。第6章は武具と工芸。月はしばしば刀の鐔のモチーフに用いられているが、出品作品のなかでは棚田に映る三日月を意匠化した西垣永久《田毎の月図鐔》が興味深い。第7章「時のあゆみと月」には暦や十二カ月を主題にした作品が並ぶ。なお、会期中の11月14日には満月が地球に近づく「スーパームーン」を見ることができるそう。それも今回は68年ぶりに月が地球に最接近するとのことだ。[新川徳彦]

2016/10/07(金)(SYNK)

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アジア・アートウィーク フォーラム「波紋─日本、マレーシア、インドネシア美術の20世紀」第2部

会期:2016/10/02

高架下スタジオ・サイトD集会場[神奈川県]

アジア・アートウィークの「波紋─日本、マレーシア、インドネシア美術の20世紀」と題するフォーラムの第2部には、インドネシアの歴史家アンタリクサと評論家の小野耕世が出演。どういう組み合わせかと思ったら、「小野佐世男と1940年代のインドネシア美術」というテーマを聞いて納得。アンタリクサは日本植民地時代におけるインドネシアの文化芸術の研究者で、小野耕世は戦時中インドネシアで絵を教えた佐世男の息子なのだ。第2次大戦で旧宗主国オランダを追い出してジャワ入りした日本人は、現地で歓迎され、「ジャワは天国、ビルマは地獄、ニューギニアは生きて帰れない」と言われたそうだ。そのジャワで佐世男は美術教育に携わり、壁画やアニメの技法も伝達、インドネシアに近代美術を根づかせた。戦後は多忙のためインドネシアでの話をすることもなく、耕世氏が中2のときに死去。耕世氏は涙ぐみながら「父が最良の仕事をしたのは戦中だったのではないか」と振り返る。表現の自由を規制され、多かれ少なかれ戦争協力を余儀なくされた画家たちのなかで、ほとんど唯一ハツラツと仕事ができたのは小野佐世男だけかもしれない。もうひとりいるとすれば、ぜんぜん違う意味で藤田嗣治だろう。

2016/10/02(日)(村田真)

プレビュー:THE PLAY since 1967 まだ見ぬ流れの彼方へ

会期:2016/10/22~2017/01/15

国立国際美術館[大阪府]

1967年に結成され、関西を中心に約50年間も活動してきたアーティスト集団「プレイ」。何かをつくるのではなく、行為そのものを表現としてきた彼らの活動を振り返る。発泡スチロールの筏で川を下る、京都から大阪まで羊を連れて旅をする、山頂に約20メートルの三角塔を立てて雷が落ちるのを待ち続けるなど、彼らの活動はつねに美術の制度からはみ出てきた。本展では、そんなプレイの全貌を、印刷物、記録写真、記録映像、音声記録、原寸大資料、未公開資料などで明らかにする。なかでも原寸大資料が持つリアリティー、本展のための調査で見つかった未公開資料の数々は要注目だ。過去の活動を知る人はもちろん、プレイの存在を情報でしか知らない若い世代に是非見てもらいたい。

2016/09/20(火)(小吹隆文)

星野高志郎 百過事展─記録と記憶─

会期:2016/09/13~2016/09/25

Lumen gallery、galleryMain[京都府]

本展会期中に73歳の誕生日を迎えたベテラン作家の星野高志郎。これまでの活動を振り返る回顧展を、隣接する2つのギャラリーで開催した。作品は彼が活動を開始した1970年代から最近作までのセレクトで構成され、学生時代の石膏像なども含まれていた。そして作品以上に充実していたのが資料類で、ポスター、DM、印刷物、写真、映像、記事が載った新聞や雑誌、メモ、ドローイングなど多岐にわたる。さらに私物が加わることにより、会場は1日では見尽くせないほどの物量と混沌とした雰囲気に。美術家の回顧展であるのと同時に、一個人の年代記でもある風変わりな仕上がりであった。筆者はこれまでに星野の個展を何度も見てきたが、彼がこれほどの記録魔だとは知らなかった。資料のなかには貴重なものが含まれており、作品では1974年に富士ゼロックスのコピー機を用いて制作した《ANIMATION?》などレア物も。美術館学芸員や研究者が見たら、きっと大いにそそられたであろう。

2016/09/13(火)(小吹隆文)

第6回公募 新鋭作家展二次審査(プレゼンテーション展示公開)

会期:2016/09/06~2016/09/19

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

来年の「新鋭作家展」に向けた公募の第2次審査で、1次審査通過者8組(2人の辞退者を除く)によるプレゼンテーション展示を一般公開している。ストリートアートみたいにテンポラリーなフレスコ画を目指す河田知志、日常品をセメントで固めて鋳型をつくって並べる大場さやか、自分を他人に演じさせながら本人と対話する藤井龍、世界地図を立体的につくって水没させる熊野陽平などどれも力作ぞろい。でもこの「新鋭作家展」、いい作品をつくればおしまいというのではなく、市民とともに展覧会をつくりあげていくことを目標とする注文の多い公募展なので、市民が介入する余地のあるプランを選んだ。入選したのは、川口の夜のネオンを背景に影絵をつくって撮影する佐藤史治+原口寛子、新聞紙を鉛筆で塗りつぶし星雲を浮かび上がらせる金沢寿美の2組。これから1年かけて市民も交えて作品=展覧会をつくっていくというから、アーティストもキュレーターも楽じゃない。

2016/09/12(月)(村田真)