artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

建築倉庫

[東京都]

新しくオープンした建築倉庫@天王洲アイルは、建築模型専用の収蔵庫を開放する試みである。実際、展示空間として歩くルートの幅や鑑賞のための引きがゆったり確保されているわけではなく、保存棚の隙間を歩くような感じで、コンセプトどおりの場だった。坂茂、隈研吾、名和晃平のSANDWICHらの模型を収蔵しており、これからも量は増えていく予定だ。僕の世代だと、香山壽夫らの模型に80年代の懐かしさを感じるなど、各時代の変遷を楽しんだり、学生だと模型制作のネタとして鑑賞できるだろう。

2016/07/02(土)(五十嵐太郎)

文字の博覧会 旅して集めた“みんぱく"中西コレクション

会期:2016/06/02~2016/08/27

LIXILギャラリー[東京都]

京都の中西印刷の6代目、中西亮(1928-94)が世界100カ国以上を旅して集め、現在は国立民族学博物館に収蔵されている3千点近くの文字資料コレクションから、約80点を公開。言語自体は世界中に数千あるといわれるが、文字の種類は使われなくなったものも含めて300種ほどで、それらはエジプト文字、楔形文字、漢字の3つを起源として発達してきたという。しかも3つが生まれた時期はそれほど変わらないのに、体系はまったく異なるというから、いかに文字の発明が奇跡的なものであったかがわかる。今回展示されているのは、アジアから中東、ヨーロッパにかけて収集した本や紙片、粘土板、竹筒、樹皮、動物の皮革など。あらためて驚くのは、エジプトから派生した文字がヨーロッパや中東だけでなく東南アジア、モンゴル、満州まで広がっているのに、漢字は世界的に見れば辺境の東アジアだけしか使われてないこと。これは使い勝手の悪さゆえかもしれないけど、ここはひとつ日中韓が協力してユネスコ記憶遺産にでも登録しとかなきゃ、漢字は滅びてしまう。

2016/07/01(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00035392.json s 10126031

ダリ展

会期:2016/07/01~2016/09/04

京都市美術館[京都府]

20世紀のシュルレアリスムを代表する芸術家サルバドール・ダリ。本展は、日本では2006年以来の大規模展であり、ガラ=サルバドール・ダリ財団(フィゲラス)、ダリ美術館(フロリダ)、国立ソフィア王妃芸術センター(マドリッド)の全面協力を得て、初期から晩年に至る約200点が集結している。いわば決定版というべき機会だ。なのに、展覧会を心から楽しめない自分がいる。どうしてだろう。ダリがいつの時代も器用に話題作をつくり続けてきたからか、タレントばりのセルフ・プロモーションが気に食わないのか、すでに何度も作品を見てきたので既視感があるのか。いずれにせよ、問題の本質はダリではなく、自分の思い込みにある。ピカソや岡本太郎などもそうだけど、メディアの露出が多い芸術家を、その影響抜きに評価するのは難しい。そんな筆者が本展で気に入ったのは、初期作品が並んだ第1章。そこには印象派や未来派の影響を受けた作品が並んでおり、若きダリが時代の流行を一生懸命学んだ形跡がうかがえる。「この人、本当はとても生真面目な人なのかな」。そんな気がしてダリを身近に感じたのだ。

2016/06/30(木)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00035822.json s 10125696

「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」企画発表会

会期:2016/06/28

上野精養軒[東京都]

この秋、茨城県北部で開催される芸術祭「KENPOKU ART 2016」の記者発表。これだけ国際展や芸術祭が増えてくると、よっぽど大金かけて海外の大物アーティストを呼ぶとか、ケガ人続出みたいな気の狂った企画を立てないと注目を集めないが、「KENPOKU ART」はどちらでもない。裏返せばとても真っ当な、もっといえば優等生的な芸術祭になりそうだ。まずテーマだが、「海か、山か、芸術か?」。テーマになってないが、田舎でやるんだという意気込みというか開き直りは伝わってくる。場所は日立市や高萩市など5市1町、のべ1,652平方キロ(越後妻有の2倍強)におよぶ広大な地域だが、そこにまんべんなく作品を点在させるのではなく、見に行きやすいように「日立駅周辺」「五浦・高萩海浜」「常陸太田鯨ヶ丘」「奥久慈清流」の4つのエリアに分け、作品を集中させるという。よくも悪くも越後妻有ほど非常識ではないのだ。総合ディレクターは森美術館館長の南條史生、キュレーターには札幌国際芸術祭にも関わった四方幸子の名前も。出品作家はミヒャエル・ボイトラー、藤浩志、日比野克彦、石田尚志、イリヤ&エミリア・カバコフ、妹島和世、須田悦弘、チームラボなど約20カ国から100組近く。地域の人たちとの対話を通して作品プランを組み立てるアートハッカソンを実施して選出したり、県南部のアーティスト・イン・レジデンス「アーカス」の経験者や、伊藤公象、國安孝昌、田中信太郎といった地元作家も入れ込んでバランスをとっている。海あり山あり芸術もあり、ちゃっかり各地の芸術祭の「いいとこどり」をしているような印象もある。後出しだからなあ。でもひとつ感心したのは、県知事で実行委員会会長の橋本昌がとても熱心なこと。会場からの質問も人任せにせず、みずから積極的に答えていた。トップが引っぱっている。出しゃばりすぎなければ最強だ。

2016/06/28(火)(村田真)

ロベール・ルパージュ「887」(日本初演)

会期:2016/06/23~2016/06/26

東京芸術劇場プレイハウス[東京都]

現代詩の困難な暗唱を経験したことを契機に、逆に忘れがたい個人の記憶を辿り始める。劇中、記憶の宮殿に言及したように、映像を駆使しつつ、舞台装置が回転・変形しながら、過去のアパート、部屋、風景が次々と現われ、場所とともにそれぞれの思い出が蘇る。ギミックたっぷりの技巧にも驚かされるが、圧巻のひとり芝居だった。

2016/06/26(日)(五十嵐太郎)