artscapeレビュー
その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー
「描く!」マンガ展 ~名作を生む画技に迫る─描線・コマ・キャラ~
会期:2016/07/23~2016/09/25
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
展覧会は3章から構成されているが、タイトルにある「描く!」については主に第2章「名作の生まれるところ─マイスターたちの画技を読み解く」に集約されている。ここでは1955年にデビューしたさいとう・たかをから、2000年にデビューしたPEACH-PITまで、8名(組)のマンガ家の作品原画(デジタル出力、複製原画を含む)が展示され、作家・作品・画技の特徴が解説されている。なかでもマンガ家たちの「画技」に関しては、田中圭一(マンガ家・京都精華大学准教授)による模写、分析、解説がすばらしく、これだけでもこの展覧会には価値があるのではないかと思えるほどだ。なるほど、タッチを似せるためにはパロディの対象となるマンガ家の描き方の特徴を捉えることが必須であり、手塚治虫など時代をつくってきたマンガ家たちのパロディ作品を描いてきた田中圭一はこのような分析にうってつけの人材だ。彼にこの仕事を依頼した企画者の慧眼に感服する。
展示第1章はトキワ荘、第3章は技法書やマンガ教育など。第2章に挿入されているコラム的展示と合わせて、戦後のストーリー漫画にフォーカスした本企画を貫くテーマは「描く読者」だ。マンガは読むだけのものではない。キャラクターの似顔絵を描いた経験がある人は多いだろう(筆者もそのひとりだ)。描く読者の一部はやがて高校や大学の漫研、同人誌などを経て描く人になる。同様の経路は文学などにもあるのだろうが、本展監修者・伊藤剛(東京工芸大学准教授)は、マンガ家たちのデビュー年齢が低く「年齢も感性も近い読者に向けて作品を作り出すという『回路』が成立している」と指摘する。そうした「回路」を形づくる媒体は時代によって移りかわる存在であり、第1章ではトキワ荘のマンガ家たちが互いの作品の読者でもあったという点、第2章では貸本漫画や雑誌『COM』、アニメ誌・マニア誌、新人賞、コミックマーケットの役割、第3章では大学におけるマンガ教育や画像投稿サイトpixivが紹介される。
人気マンガ家のファンイベントのような派手なマンガ展・原画展が美術館を会場に開催される昨今、歴史的視点と批評とを盛り込み、マンガの未来をも見据えた本展は、マンガ展のあり方を考える上でも注目すべき企画であることは間違いない。なお、会場は第1章を除いて撮影が可能。印刷物では再現されない線の強弱やベタの濃淡といった筆致、ホワイトによる修正跡など、マンガ家たちの「画技」を目に焼き付け、写真に残すことができる。[新川徳彦]
2016/07/22(金)(SYNK)
プレビュー:あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ
会期:2016/08/11~2016/10/23
愛知芸術センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか、豊橋市内のまちなか、岡崎市内のまちなか[愛知県]
3年に1度、愛知県で開催される現代アートの祭典。3回目の今回は芸術監督に港千尋を迎え、「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」をテーマに、国内外100組以上のアーティストによる国際展、映像プログラム、パフォーミングアーツなどが繰り広げられる。またプロデュースオペラ「魔笛」の公演も行なわれる。テーマの詳細は公式サイトで調べてもらうとして、今回の大きな特徴は、豊橋市が会場に加わりますます規模が拡大したこと、キュレーターにブラジル拠点のダニエラ・カストロとトルコ拠点のゼイネップ・オズらを招聘し、参加アーティストの出身国・地域が増えたことなど、拡大と多様化を推し進めたことが挙げられる。この巨大プロジェクトを、港を中心としたチームがどのようにハンドリングしていくかに注目したい。個人的には、豊橋市が会場に加わることを歓迎しつつ、酷暑の時期に取材量が増えることにビビっているというのが正直なところ。前回は1泊2日で名古屋市と岡崎市を巡ったが、今回は1日1市ずつ3回に分けて取材しようかなと思っている。
2016/07/20(水)(小吹隆文)
童画の国から─物語・子ども・夢 展ジャンル:美術、その他
会期:2016/07/16~2016/09/04
目黒区美術館[東京都]
童画家・武井武雄(1894-1983)と初山滋(1897-1973)の作品に加えて、工業デザイナー・秋岡芳夫(1920-1997)が描いた童画作品が出品されている。学校が夏休みのこの時期、子供たちを対象とした絵本や童画の展覧会は多い。しかし、なぜこの3人なのかといえば、発端は秋岡芳夫だ。目黒区美術館では、2011年に目黒区ゆかりの工業デザイナー・秋岡芳夫の全貌を紹介する展覧会を開催し、その後「秋岡芳夫全集」と題する小企画で秋岡の多様な仕事をひとつひとつ掘り下げてきた。その秋岡の初期の仕事のひとつが童画である。秋岡が童画に関心を持ったのは、子供のころに愛読していた『コドモノクニ』がきっかけ。彼は心ひかれた画家たちとして、初山滋、本田庄太郎、岡本帰一、武井武雄の名前を挙げている。なかでも心酔していたのは初山滋。第二次世界大戦後、新聞に日本童画会発足の記事を見つけた秋岡は入会を申し込み、初山滋に師事して童画の勉強を始めた。初山は秋岡の結婚式に際して「神主役」をつとめたという。2013年には「童画」という言葉を生み出した武井武雄の作品を常設展示している「イルフ童画館」(長野県岡谷市)で、秋岡の童画作品の展覧会「デザイナー 秋岡芳夫の童画の世界」(2013/11/14~2014/01/27)が開催されている。そのような背景はあるが、もちろん展覧会は純粋に3人の童画の原画と物語世界を楽しめる構成になっている。第1章は武井武雄と初山滋の戦後作品。入口から左に進むと「物語」の世界、右に進むと「夢」の世界という視点で作品が並ぶ。第2章は童画のはじまりを武井・初山の原画、童画雑誌、装幀作品などによって振り返る展示。第3章は両者による版画作品。第4章は秋岡芳夫の童画だ。また読書コーナーには武井武雄・初山滋の本、童画雑誌の復刻版などが多数並んでおり、ふたりの作品世界にじっくり浸ることができる。
2014年に目黒区美術館で紹介された秋岡の童画を見たとき、筆者はそこに初山滋の影響が密接に見て取れるものがあると記したが
東京都庭園美術館では、本展と会期をほぼ同じくして「こどもとファッション」をテーマとした展覧会が開催されており、武井、初山作品を含む童画が子供服を語る資料として出品されている。どちらも最寄り駅は目黒駅。合わせて訪れたい。[新川徳彦]
関連レビュー
DOMA秋岡芳夫展─モノへの思想と関係のデザイン:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape
2016/07/20(水)(SYNK)
竹岡雄二 台座から空間へ
会期:2016/07/09~2016/09/04
遠山記念館[埼玉県]
本命の竹岡雄二作品は、広大な、というより廊下で細長くつながった屋敷内5カ所と庭に1点、置かれている。土間にガラスの容器で覆われた金属板、正方形の和室に白い立方体、縁側にブロンズ板の両端を内側に湾曲させた台座、庭に高さ130センチほどの石柱、などだ。20世紀に彫刻から台座が失われた理由は、作品自体が抽象化して台座との差異化がつかなくなったことのほかに、彫刻作品が美術館で鑑賞されるようになったからでもある。もともと台座は現実空間と彫刻とのあいだのクッションの役割を果たしていたが、美術館のとりわけホワイトキューブの展示室は、それ自体が現実空間とは隔絶した台座の役割を果たすからだ。だから美術館で見た竹岡の「台座」は、一種のミニマル彫刻として立ち現われたのだ。では、もう人が住んでいないとはいえ、この現実空間の屋敷内に置かれた「台座彫刻」はどのように見えただろう。意外なことに(いや当然のように、というべきか)美術館以上に作品としての存在感を主張するように感じられたのだ。それはおそらく空間的に開けた和風建築だからかもしれない。これが隙間のない密閉された洋風建築だったらまた違う印象を与えたはずだ。いやあ苦労して見にきてよかった。
2016/07/18(月)(村田真)
ガラスと土の造形
会期:2016/07/02~2016/09/25
遠山記念館[埼玉県]
「竹岡雄二展」を見るため川越からバスに乗り、牛ヶ谷戸というネーミングからして田舎なバス停で降り、周囲は田園なので日差しをさえぎるものもない炎天下、田んぼのなかをとぼとぼ途中2度ほど道を間違えながら、また同好の士と合流しつつ30分ほど歩いて遠山記念館に到着。そういえば前に来たときはタクシーだったな。同館は美術館とお屋敷に分かれていて、まず美術館を見てから遠山邸内の竹岡作品を鑑賞という順路になっているのだが、これは結果的に好都合だった。汗びっしょりだったので、クーラーの効いた美術館内は天国じゃ。さすがに1930年代に建てられた純和風の屋敷のほうにはクーラーは期待できないからな。美術館では「ガラスと土の造形」を開催中で、中東からヨーロッパ、南米、中国、日本までの陶器、ガラス器、モザイク画などを展示していたが、思考停止のまましばらく身体を冷却してから出た。
2016/07/18(月)(村田真)