artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

驚きの明治工藝

会期:2016/09/07~2016/10/30

東京藝術大学大学美術館[東京都]

最近、超絶技巧の明治工芸が人気を集めている。理由は一目瞭然、驚くほど緻密でリアルだからだ。例えば宮本理三郎の《葉上蛙》は、文字どおり葉の上に止まったカエルの彫刻だが、これがひとつの木から彫り出されていることに舌を巻く。《竹塗水指》はどう見ても竹筒を利用した器だが、じつは木で彫られているとかね。「自在置物」と呼ばれる金属彫刻はもっとすごい。エビや魚や昆虫が本物そっくりにつくられているが、それだけでなく鱗や節を結節点にリアルに動くのだ(もちろん展示物は動かせないが)。でもこれらはあまりに本物そっくりで、あまりに楽しすぎるので芸術としての評価は低く、「置物」どまりだったのだ。その評価が変わったのは、「芸術」の価値観そのものがひっくり返った最近のことでしょうか。驚くのはこれらのコレクションがひとりの台湾人、宋培安がここ20数年のあいだに集めたものだということ。ってことは、つい最近までそれほど高くない値段で市場に出回っていたということだ。それも驚き。

2016/09/06(火)(村田真)

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古都祝奈良─時空を超えたアートの祭典─(ならまちアートプロジェクト)

会期:2016/09/03~2016/10/23

ならまち[奈良県]

一泊して「ならまちアートプロジェクト」を見て回る。「八社寺アートプロジェクト」がエスタブリッシュされたアーティストによるものだとすれば、昔ながらの町家が残る「ならまち」を舞台にしたこちらは、おもに奈良や京都出身の7人の若手アーティストを特集した展示。前者とは場所も予算の掛け方も違うが、そんななかでも注目したのは西尾美也と宮永愛子のふたり。西尾はならまちの住人から古着を集め、矩形に裁断してつなぎ合わせ、パッチワークの家をつくって集会場にした。外したボタンは糸でつないで神社に展示。これはプロセスもさることながら、視覚的に美しい。宮永は古い木造の染物屋倉庫で、地面に染み込んだ染料を布に写し取り天井に張ってみせた。着眼点もインスタレーションも見事だが、残念なのは地面に置かれた台車や樽の跡を白く残していること。地面に置かれた物と天井に張られた布が天地対称になってわかりやすいのだが、実際に写し取ればこうはならないので、トリックに見えてしまう。惜しい。


西尾美也《人間の家》(撮影=筆者)

2016/09/04(日)(村田真)

古都祝奈良─時空を超えたアートの祭典─(八社寺アートプロジェクト)

会期:2016/09/03~2016/10/23

東大寺+春日大社+興福寺+元興寺+大安寺+薬師寺+唐招提寺+西大寺[奈良県]

奈良市内の名だたる寺社に、アジアのアーティストがインスタレーションを展開するというので見に行った。当初これも2、3年に1度の芸術祭かと思っていたが、これは日中韓が進める東アジア文化都市の文化交流プロジェクトのひとつで、今年の開催都市・奈良市が繰り広げる1回限りの「時空を超えたアートの祭典」なのだ。アドバイザーを務めた北川フラム氏は、日中韓をはじめインド、イラン、シリア、トルコまで広くアジア圏のアーティストを集め、8つの寺社に作品を絡めている。最初に行ったのが、開会式の行なわれた大安寺。その塔跡隣地に川俣正が高さ20メートルを超す《足場の塔》を建てた。これは遠くからでも見え(そもそも奈良には高い建物が少ないので見晴らしがいい)、よく目立つ。しかしこのモニュメンタリティは川俣らしくないなあと思ったが、おおまかな骨組みはすでにつくられており、川俣はその周囲に足場を組むだけだったという。なるほど、本体のない足場だけの塔。やっぱり川俣らしい。
中国の蔡國強は先行して3月から木造船を制作、遣唐使船を思わせるこの船は、東アジア文化交流のシンボルとして東大寺の鏡池に浮かんでいる。韓国のキムスージャは元興寺の石舞台に鏡を張り、その上に漆黒に塗った楕円形のオブジェを立てた。おそらくブラックホールのような異次元への穴を想定したのだろうが、完璧な黒が得られず半端感は否めない。これを見て思い出したのがインド出身のアニッシュ・カプーア。彼はそれこそ完璧な黒い穴の作品で知られるが、光の99パーセント以上を吸収する黒い顔料のアートにおける独占使用権を買い取った、というニュースを聞いたことがあるからだ。キムスージャはこれを使いたかったに違いない。ちなみにカプーアは今回出ておらず、インドからは若手のシルパ・グプタが参加。カプーアはギャラが高いので声もかけなかったそうだ。そのグプタは薬師寺の広場に、頭部が家や雲のかたちをした輪郭だけの人間像を設置。これは記憶や思考を可視化した彫刻と捉えることもできるが、彼女の過去の作品や薬師寺の建築群の圧倒的な存在感に比べればものたりない。しかしそれを言い出せばきりがない。そもそも寺社に絡むといっても核心部に触れるものは少なく、裏の池とか境内の外とかちょっと外れた場所が多いのも事実。とはいえ20~30年前に比べれば、現代美術がよくぞここまで踏み込んだものだと感心する。


左=川俣正《足場の塔》
右=キムスージャ《演繹的なもの》
(いずれも撮影=筆者)

2016/09/03(土)(村田真)

日輪の翼 大阪公演

会期:2016/09/02~2016/09/04

名村造船所大阪工場跡地(クリエイティブセンター大阪)[大阪府]

台湾で作られたデコトラ調の移動舞台車を用いて、中上健次原作の野外劇『日輪の翼』を国内各地で上演してきたやなぎみわ。筆者は過去に移動舞台車とそこで行なわれたポールダンスのパフォーマンスを見たことがあるが、『日輪の翼』は初めてだった。会場は名村造船所大阪工場跡地。やなぎの演出は工場跡の広大なスペースを生かしたもので、約100メートルはあろうかという奥行を効果的に利用していた。特に闇にフェイドアウトしていくラストシーンは秀逸だった。また演劇と音楽とポールダンスをミックスした構成もユニークで、舞台公演でしか表現できない世界が確かに感じられた。ところで、野外公演のネックは天候だが、当日は序盤から中盤にかけて雨に見舞われた。傘は禁止だったので、観客はカッパ着用で耐えるのみ。しかし、後半になると雨がやみ、天候すら演出の一部だったのかと思わせる展開に。やなぎをはじめとする関係者一同の熱意が天に通じたのであろう。

2016/09/03(土)(小吹隆文)

とことん!夏のびじゅつ(じ)かん

会期:2016/07/16~2016/09/11

府中市美術館[東京都]

夏休みの子供向け企画。「美術館で美術の時間を」ということで「びじゅつ(じ)かん」になった模様。幕末生まれの中村不折から山本麻友香までコレクションを使って、クイズや体験装置を通して楽しもうという趣向だ。清水登之のパリで描いた《チャイルド洋食店》、高松次郎の「影」、三田村光土里のサウンド・インスタレーション、富田有紀子の大きな花の絵など、テーマ展では一堂に会すことのない多彩な作品が並んでいた。山田正亮のストライプ絵画などは「いろのじゅんばんをかえてみよう」なんてやられて立つ瀬がない。奥の展示室には、まるでミニチュア模型みたいに航空写真を撮る本城直季と、その写真から本当にミニチュア模型をつくった寺田尚樹の「スモール・ワールド」があって、大人でも楽しめる。

2016/09/02(金)(村田真)

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