artscapeレビュー
その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー
Stolen Names
会期:2014/12/19~2014/12/27
京都芸術センター[京都府]
「作品に関わるおよそ全ての情報(あるいは手がかり)が盗まれた状態にあ」り、作品がただ作品として、会場に混在するというコンセプト。床には漢詩が書かれ、粘土による造形が置かれている。または、モニターに映し出される集団行動、なにものかの資料などなど。そもそもタイトルしかテキストがない中、まったく心にひっかからない自分が居て、コンセプトにある「作品と向き合う時、いつから私たちは答えを求め、手がかりを探し続けるようになったのだろう」状態に。しかし、その空間自体の魅力や展覧会としてのトータルのおもしろさにまでたどり着くことが出来ない(と感じ)退室してしまった。会期中、名前を語らない放送室のようなプロジェクトなどが関連企画として行われ、ウェブサイト(http://stolen-names.tumblr.com/)にて公開されている。会場風景、ウェブ上には2時間強の映像作品もあり、試みとしては、ここを見るだけでもけっこう満足。では会場では、どう味わえば良かったのだろう。会場にいたのは短い時間、瞬く間の記憶としてだが、もう少し私の心に残ってくれそうではある。
2014/12/27(土)(松永大地)
フォートワース
[アメリカ合衆国テキサス州]
アメリカのフォートワースへ。高速を使って、空港から市内まで見える風景は、高いビルがなく、空が大きく見えるような平らな土地と、起伏のある土木インフラが続く。おそらく、良い景観を狙ったのだろうが、橋脚や壁などの土木構築物の表面が、すべて土っぽい色で塗装されていたり、似た色の擬岩、擬石積でおおわれている。施工がラフなのはともかく、デザインとして褒められない。ダウンタウンは、こじんまりとしてこぎれいで、あまり人気はないが、サンダンス・スクエアだけは賑わう。ハリボテっぽい、あるいは書き割りのような建物も散見されるが、実は復元や修理によるものが多い。端正なアールデコや、20世紀初頭の建築がよく残っている。様式建築系では、もこもこしたルスティカ風の仕上げを過剰に使うのが、この地域の好みのようだ。日本の地方都市より、全然豊かな建築資産を維持している。現地に到着して泊まるホテルが、実はケネディ大統領が暗殺された前夜に宿泊していたところと知って驚く。
2014/12/26(金)(五十嵐太郎)
オリンピックから半世紀 あこがれの「団地」
会期:2014/10/11~2015/01/12
横浜都市発展記念館[神奈川県]
横浜都市発展記念館の「あこがれの『団地』」展は面白かった。資料の数々はもちろん、鍵っ子の登場など、団地をめぐる暮らしと、必然的に引き起こされる交通問題と鉄道の整備が興味深い。当時の映像を見ると、クルマを止める場所がなく、路駐だらけになったり、駐車場があっても、田んぼなどの別の場所に勝手に駐車するなど、好き放題だ。昔はよかったとノスタルジックに回想されるが、これも「美しい」日本のひとつの現実である。
2014/12/23(火)(五十嵐太郎)
バスで行くアート・ツアー「五十嵐太郎さんとめぐる豊田の建築」
会期:2014/12/07
豊田市美術館が企画した建築バスツアーのガイド役をつとめた。《逢妻交流館》(妹島和世/妹島和世建築設計事務所、2010)にタクシー代程度の値段で、ランチ込みの参加費だったため、お得感もあり、40名の枠に倍近い応募者があったらしい。考えてみると、豊田市は地方都市ながら、妹島和世、黒川紀章、槇文彦、谷口吉生という世界的な建築家(プリツカー賞受賞者2名含む)の空間を一日で体験できる。まず、《豊田大橋》(黒川紀章 / 黒川紀章建築都市設計事務所、1999)と《豊田スタジアム》(黒川紀章 / 黒川紀章建築都市設計事務所、2001)を一連の景観として、同じ建築家が設計したのは希有な事例だろう。敷地に余裕がなく、急傾斜で壁のように立ち上がる観客席が印象的である。またスリットから外部が見えるのも興味深い。黒川らしく、外部やバックヤードは徹底して合理化する一方、吊り屋根や可動部に華を添えるメリハリのあるデザインだ。また貴賓席はポストモダンの細部も散りばめ、黒川印の装飾を使う。
続いて、《鞍ヶ池記念館》(槇文彦/槇総合計画事務所、1974)へ。一般に入場できる展示エリアは見学したことがあったが、今回は特別にゲストハウスのエリアに足を踏み入れることが許可され、貴重な体験をした。展示室に比べて、圧倒的に濃密なデザインである。壁、床、天井における素材の多様性、細かい床や天井のレベル操作、そして様々な美術作品が空間を彩る。三角形という建物の輪郭が生む斜めの構成ゆえに、部屋を出入りするごとに位置感覚がリセットされ、それぞれの場の個別性が強化されていた。池に対する風景の演出も巧みである。『新建築』では、磯崎新の群馬県立近代美術館と同じ号に掲載されている40年前の作品だが、ほとんど改造もされず、大切に使われているし、古びれない槇の建築に感心させられた。当時の彼はまだ40代だと思うと、大人の建築なのだが、現在は若手にこうしたプロジェクトがなかなかまわってこないのが残念である。その後、移築した《旧豊田喜一郎邸》(1933)を見学した。名古屋の近代建築を牽引した鈴木禎次が手がけたものだが、折衷具合が興味深い。基壇となる一層目は、ガウディの影響と説明されているが、西洋に比べて薄めのグロッタ風と解釈すべきだろう。二層目は、アーチの窓が並び、洋風のインテリア。三層目は、ハーフティンバーを強調するが、内部は和室である。異なるデザインを積層した不思議な建築で、ジブリの宮崎アニメの洋館のようだ。
豊田の若手建築家、佐々木勝敏が設計した《志賀の光路》(2014)を訪れた。典型的な住宅地において街並みに寄与する家である。角地にたつが、建物を奥に配し、塀をなくして小公園的な場を生む。六角形平面で、1階の開口は一ヶ所に絞るが、上部を囲む水平スリットから光を導く。中心の吹抜けは、大梁をルーバーで隠しながら光溜をつくる。バスで移動中、彼が手がけたもうひとつの住宅も、外観のみ見る機会があり、周辺との関係、開口のとり方を比較することができて興味深い。最後は《豊田市美術館》(谷口吉生/谷口建築設計研究所、1995)に戻り、学芸員の能勢陽子さんの解説を聞きながら、改修工事中で展示物がない状態の純粋空間として各部屋をまわった。この建築も大切に使われている。
2014/12/07(日)(五十嵐太郎)
鉄道芸術祭vol.4「音のステーション」プログラム
会期:2014/10/18~2015/12/23
アートエリアB1[大阪府]
京阪なにわ橋駅の地下一階コンコースに2008年に開設されたアートエリアB1。「文化・芸術・知の創造と交流の場」をテーマに、企業・大学・NPO法人が協同で、駅という特性やその可能性に着目したさまざまなイベントや展覧会を実施している。この会場を舞台に2010年よりはじまった「鉄道芸術祭」は多様なプログラムを展開するアートイベント。第4回目となった今回は〈音・技術・ネットワーク〉をテーマに開催された。「音」にまつわる制作活動を行っているアーティストの作品展示のほか、コンサート、公開ラジオ、トークライブなど多数のイベントが行われた。なかでも斬新だったのが実際に走行する電車内でのライブ・パフォーマンス「ノイズ・トレイン」。出演アーティストの伊東篤宏、鈴木昭男、和田晋侍とともに観客も中之島駅発の貸切電車に乗り込み、出発の中之島駅から樟葉駅で折り返す電車が、なにわ橋駅に到着するまでのおよそ一時間半の公演。放電ノイズを拾って音を発する伊東のオリジナル楽器、「OPTRON」のライブが行われた車両内部は人だかりで、私はあまり接近できなかったが、車窓全てのカーテンがひかれたなかでチカチカと強い光が明滅するその怪しげな車両はノイズ音と光がスパークする強烈な空間だった。2つの車両を移動しながら行われたサウンド・アーティストの鈴木昭男の《アナラポス》演奏、和田晋侍のドラム演奏空間など、観客はアーティストたちがそれぞれライブを行う車両を自由に移動しながらパフォーマンスや空間を楽しむのだが、その時間自体が刺激的で面白い。電車の走行音や車窓を流れていく外の景色、通過する駅の様子がいつもとは違うものに感じられ、新鮮。ユニークで独創的なイベントだった。
電車公演「ノイズ・トレイン」ウェブサイトhttp://artarea-b1.jp/archive/2014/1206629.php
2014/12/06(土)(酒井千穂)