artscapeレビュー

パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015

会期:2015/09/12~2015/11/23

六甲山カンツリーハウス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ガーデンテラス、六甲有馬ロープウェー、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、グランドホテル六甲スカイヴィラ、旧六甲オリエンタルホテル・風の教会、プラス会場[TENRAN CAFE][兵庫県]

六甲山上のさまざまな施設を舞台に現代アート作品の展示を行い、アートと六甲山の魅力を同時に満喫できるイベント。6回目を迎える今年は約30組のアーティストが出品し、会期中にはパフォーマンスやワークショップなど多彩な催しも行われている。筆者が毎年楽しみにしているのは、六甲高山植物園から六甲オルゴールミュージアムに至るルート。ここでは、貝殻のような陶の小ピースを森の中に散りばめた月原麻友美の《海、山へ行く》と、旧六甲山ホテルの電気スタンドを組み合わせて光と音がコール&レスポンスする久門剛史の《Fuzz》がお気に入りだった。また、六甲有馬ロープウェーで大規模なインスタレーションを行っている林和音の《あみつなぎ六甲》と、六甲ガーデンテラスで光とオルゴールを駆使した作品を夜間に展示している高橋匡太の《star wheel simfonia》もおすすめしたい。そして、今年にはじめて会場となった旧六甲オリエンタルホテル・風の教会では八木良太が音の作品《Echo of Wind》を出品しており、安藤忠雄建築との充実したコラボレーションが体験できる。作品、展示、環境、ホスピタリティが高いレベルで安定しているのが「六甲ミーツ・アート」の良い所。関西を代表するアートイベントとして、胸を張っておすすめできる。

2015/09/11(金)(小吹隆文)

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勅使川原三郎「ミズトイノリ─water angel」

会期:2015/09/05~2015/09/10

KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ[神奈川県]

勅使川原三郎「ミズトイノリ」@KAAT。「ハリー」と同様、モノとしての舞台美術はないが、暗闇を切り裂き、空間をつくる光=照明効果の見事なことに感心させられる。そこに4名のダンサーが緩急に富んだ動きで、時間の流れを変えるように舞い、水のイメージを紡ぎ出す。勅使川原が演出する、あいちトリエンナーレ2016のオペラが楽しみになった。

2015/09/08(火)(五十嵐太郎)

『テニスの王子様 青学vs聖ルドルフ』

会期:2015/09/05~2015/11/03

TOKYO DOME CITY HALL[東京都]

2004年に始まった「テニミュ」(『テニスの王子様』ミュージカル)は、しばしば「2.5次元ミュージカル」と呼ばれる。いまやその名は人口に膾炙するところとなり、「一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会」が設立されるほどにまで発展してきている。3次元(現実空間)と2次元(フィクション)との中間を意味する「2.5次元」とは、より具体的にはなにを意味するのか? 「物語を舞台に受肉させる」というだけならば、すべての劇は「2.5次元」ではないか。とりたててそう名づけるとき、舞台では一体なにが起きているのだろう。本上演は、まさにその点を図示するかのように始まった。一冊の本が舞台に落ちている。やんちゃな中学生たちが手にとり、読み始める。すると、舞台上に決めポーズをとった役者たちが現れる。と同時に背後のスクリーンには、役者のとったポーズと同じポーズをとる漫画絵が映る。なるほど、役者たちのポーズは(一般の演劇でもそうであるように)演出家によって施されたものというよりは、漫画のコマなどに描かれたポーズを基にしているわけだ。原作漫画はここでは単なる原作ではない。舞台が実現に注力すべき要素そのものなのである。言い換えれば、観客は舞台に漫画が具現することを、目前に「越前リョーマ」が、彼の部員仲間やライバルがそのままの姿で出現することを望んでいる。ファンは、キャラの具現化を重視するファンとキャラを具現化させる役者目当てのファンに二分されるのだそうだが、いずれにしても高解像度のキャラのリアリティは「2.5次元」にとって必須なのだ。
ところで、これはテニスの物語。いささかコミカルにも映る試合場面も含め、ラケットを振るう姿が何百回と繰り返される。ダンスと化した素振りは、歌舞伎の見得のように、独特のグルーヴを宿す。女性観客たちは、漫画という「フィルター」を被せた「男子の肉体の躍動」に興奮する。とはいえ、本当のテニス・プレイヤーとは異なる。もっといえば、役者たちは演技もダンスもけっしてうまいわけではない。ただの「茶番」だ。放課後の部活やサークルで生身の男子が肉体を躍動させているところを(チラとでも)見ているだろうに、それでも「フィルター」越しの鑑賞を若い女子たちは求める。この「フィルター」は、生身の男子に直面することを回避しつつ、限りなく接近することを許す。「テニミュ」とは、女子の欲望にとって最適化が施された場なのだ。物語は男子対男子の戦い。奇妙に偏ったホモソーシャルな世界を観客は傍観し続ける。物語が一旦終了するとショーが始まる。客席を役者たちは駆け回り、ハイタッチを観客と交わす。そうして観客と役者たちとは対面する。しかし、あくまでも彼らは役名のまま、表情を変えない。すべては「見る女性」の欲望に奉仕する。彼女たちの欲望を肯定する空間は、彼女たちが抱く生身の男子たちへの不安、恐怖、自信のなさを一旦棚上げにしてくれるのだろう。そうしたパラダイス空間を切望する女性たちから、彼女たちを容易に受け入れてくれない現実の過酷さが透けて見える。


【ダイジェスト映像】ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 青学vs聖ルドルフ


2015/09/08(火)(木村覚)

転校生

会期:2015/08/22~2015/09/06

Zeppブルーシアター六本木[東京都]

本広克行演出「転校生」@ブルーシアター。個人的に清水葉月が出演する舞台が続いたが、これは平田オリザの脚本で、ほぼ聴き取り不能な同時多発の会話劇によって高校生の日常とささやかな違和感をゆっくりと、丁寧に描く。同じく女子校の集団劇だが、めくるめく場面が展開する、STRAYDOG「問題のない私たち」の高速感と正反対だった。

2015/09/06(日)(五十嵐太郎)

ホーボーズ・ソング HOBO’S SONG ~スナフキンの手紙Neo~

会期:2015/08/25~2015/09/27

東京芸術劇場シアターウエスト[東京都]

作・演出、鴻上尚史「スナフキンの手紙 NEO」@東京芸術劇場。冒頭は能天気なビーチの描写から始まるが、一転していきなり日本が内戦状態に突入するという展開で物語が進行する。イラク侵攻から歴史が変わり、右的な日本軍と左的な新日本軍に分裂し、前者は後者をテロリスト呼ばわりし、自爆攻撃も厭わない。正義、天皇、笑いのテーマが交錯する意欲作だった。

2015/09/02(水)(五十嵐太郎)