artscapeレビュー

パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015

会期:2015/09/12~2015/11/23

六甲山カンツリーハウス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ガーデンテラス、六甲有馬ロープウェー、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、グランドホテル六甲スカイヴィラ、旧六甲オリエンタルホテル 風の教会、プラス会場[TENRAN CAFE][兵庫県]

神戸・六甲山の自然とアートの魅力を散歩感覚で味わえると好評のイベント。6回目となる今回も、六甲山上のさまざまな施設を舞台に、作品展示やイベントが開催される。今回特に注目したいのは、新たに会場に加わった「グランドホテル六甲スカイヴィラ」と「旧六甲オリエンタルホテル 風の教会」。特に「風の教会」は建築家・安藤忠雄の代表作でありながら、ホテルの閉鎖にともない長らく非公開になっていた。アートファンのみならず、建築ファンにとってもこの機会は見逃せない。六甲山は都会に隣接する山だが、いざ出かけてみると豊かな自然が保たれており、気分転換にもってこいだ。日帰りでお手軽に地域アートを楽しみたい方にもおすすめしたい。

2015/08/20(木)(小吹隆文)

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もとの黙阿弥

会期:2015/08/01~2015/08/25

新橋演舞場[東京都]

明治時代を描く、井上ひさしの舞台である。縁談予定の男女が、まずは相手の本音を探ろうと、それぞれの書生と女中と立場を交換して、四名で会い、混乱のラブコメが展開していく。いかにも西洋の古典にありそうな普遍的な構造をもった原作なので、昼食時間も含む3時間超えの長丁場ながら、飽きさせることがない。

2015/08/03(月)(五十嵐太郎)

おいしいおかしいおしばい「わかったさんのクッキー」

会期:2015/07/23~2015/08/02

KAAT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

岡田利規×金氏徹平「わかったさんのクッキー」@KAAT。夏休みのキッズ・プログラムなので、1時間くらいのコンパクトな内容だった。前半がクリーニングの配達、後半がロッククッキーづくりとなる。物語後半の展開はえらく遅くなるが、金氏の作風と通じる、多くのモノを組み合わせたにぎやかな舞台美術が、街であり、食べ物であり、さまざまに読み替え可能な別のモノに変化していく関係性が興味深い。

2015/08/01(土)(五十嵐太郎)

aokid×橋本匠『HUMAN/human』

会期:2015/07/29~2015/08/02

STスポット[神奈川県]

舞台の床一面に散らばっているのは、真ん中を折られて立っている紙たち。紙には一枚一枚異なる絵が描いてある。「絵」というよりは、それは絵の具の運動だ。その場にaokidと橋本匠が現われ、走り出す。すると、紙たちは踏まれたり風に煽られたりして倒れる。人間が動く、そのことで、周囲の物たちが反応する。こんな冒頭からしてそうなのだが、シンプルな「作用と反作用」が、この舞台を終始構成し続ける。これはダンスなのか? もうそういう問い方はどうでもよい。ミニマルな動作を「ダンス」と呼ぶ歴史は50年ほど前からあったとして、ミニマルな動作が原因となり、次の別の動作の基となる、といった2人の案出した連鎖だって、どうだろう「ダンス」と呼んでいいはずだ。よい場面がいくつもあった。例えば、不意にaokidが壁をノックし始めた場面。しばしばダンスの上演では、空間は抽象化され、そこに壁があること、天上や床があることなど「ない」想定で進みがちだ。映画『トゥルーマン・ショー』でジム・キャリーがこの世から脱出しようとして「コツン」と世界の果てに突き当たってしまったように、aokidは実は「ある」壁を手で叩く。叩くと壁の表情が浮かぶ。次第にそれはリズムをもち、次の動作を引き出す。こうしたデリケートな連鎖は、この場にあるものすべてを共演者にしていく。紙をちぎると、2人は壁に貼付け、紙たちはコンポジションを形成していく。紙を貼るたび、2人は言語にならない声でその紙を「命名」するのだが、そんな形と声の関係も面白い。終幕に向けて、赤い紙テープが、空間をダイナミックに横断しはじめた。それを潜ったり、跨いだりする2人は一言「この糸が俺たちにダンスさせる!」と叫ぶ。そう、人と物との作用反作用の関係は、容易く反転しうるのだ。とくにaokidの表現にはいつもそう思わされるのだけれど、人と物とが等価に置かれた舞台は、とてもクールで、ポップで、居心地がよい。そこには2人の倫理観、世界への態度が裏打ちされているように見える。だから揺るぎがない。そして力強いのだった。


HUMAN/human

2015/08/01(土)(木村覚)

プレビュー:PACIFIKMELTINGPOT

会期:2015/09/22~2015/09/23

Art Theater dB KOBE[兵庫県]

フランス人振付家、レジーヌ・ショピノのカンパニーをハブにして、太平洋諸地域のアーティストや研究者が展開する《PACIFIKMELTINGPOT》。ショピノの基本的な関心は「口承文化」にあり、声を通した伝達が時間や空間性、身体性と切り離せないことを、コンテンポラリー・ダンスの本質に通じるものとして捉えている。ニューカレドニアやニュージーランドの先住民であるカナックやマオリなど、口承文化をまだ受け継いでいる人々とワークショップを行ない、太平洋地域の口承文化に関するリサーチを行なってきた。2013年には大阪のアートエリアB1で、「PACIFIKMELTINGPOT / In Situ Osaka」ライブパフォーマンス&ディスカッションを開催し、日本、ニューカレドニア、ニュージーランドという3つの地域のアーティストが参加した。
私は一昨年、この大阪でのパフォーマンスを実見したが、基本的には、それぞれの文化圏ごとに3グループに分かれてのショーイングという形式だった。体格差や肌の色、バネや跳躍力など身体そのものの強度、アカペラの力強い歌唱や身体の動きと一体化した音楽のリズムなど、それぞれの文化圏ごとに提示された身体性の差異は分かりやすく、とても魅力的だったが、反面、こうしたプレゼンテーションの仕方は多文化主義的な予定調和に陥りがちでもある。「多様性や差異を認め合って尊重しよう」という確認作業に落ち着いてしまいかねないのだ。
「PACIFIKMELTINGPOT / In Situ Osaka 2013」の完結編となる今回の上演では、大阪大学と城崎国際アートセンターにて、計約3週間の滞在制作が予定されている。滞在制作期間が1週間であった前回に比べると、充実したスケジュールだ。既にある「共同体」の内部に留まったまま、確認・抽出して並置するという提示方法から、身体的対話の継続とさらなる深化によって、より「メルティングポット」な状況が生まれるかに期待したい。
また、沖縄を拠点に活躍する映像作家・山城知佳子と映画監督・砂川敦志が、前回の「PACIFIKMELTINGPOT / In Situ Osaka 2013」のリサーチワークや上演の様子を撮影したドキュメンタリー映画の上映も予定されている。こちらはArt Theater dB KOBEの近くにある神戸映画資料館にて、同日程の午前中に上映されるので、合わせて鑑賞したい。

2015/07/31(金)(高嶋慈)