artscapeレビュー

パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー

岩渕貞太、関かおり『Hetero』(「DANCE-X13: MONTREAL:TOKYO:BUSAN, 3rd Edition)

会期:2013/05/31~2013/06/02

青山円形劇場[東京都]

闇にスピーカー経由の溜息が漏れる。その直後、男と女が光に照らされた。貝のように向き合う2人。次第にゆっくりとした動作で体の形を変えていくのだけれど、線対称の鏡写し状態で、男が手を延ばせば女も手を延ばし、二つの手は重なる。緻密に同期するユニゾンは、無音のなかで、美しい緊張を保つ。身長差が20センチほどある2人だから、完璧に一致するわけではない。微小なズレは、タイトルが示すような「違い(hetero)」を気づかせるが、ユニゾンの緻密さがともかく徹底していて、2人を人間離れさせる。カナダ、韓国、日本の振付家・ダンサーがそれぞれの国で上演をしてゆくという文化交流の意味合いもある「DANCE-X13」という企画で、彼らは異彩を放っていた。カナダ(ヘレン・シモノー『FLIGHT DISTANCE III: CHAIN SUITE』)と韓国(キム・スヒョン『KAIROS』)の作品は、特徴ある音楽がベースとして流れていて、ダンサーたちはその音楽にリズムを合わせたり、やや離れたりしながら、いかにもコンテンポラリーダンスというような「らしい」運動を見せる。岩渕貞太と関かおりのダンスは、そうした音楽的要素もないし、そもそも何々「らしい」と特定できるような動きではない。圧倒的な個性がそこにあった。一定のスローな動きが、音楽に縛られるような類のダンスの時間性を失効させる。しかし、ずっとスローというのでもなく、素早い動きも差し込まれ、ギアを変えていくからこそ、この個性は引き出されているのだろう。10分ほど過ぎたあたりだろうか。最初のとは異質な男の大声で溜息がまた舞台に投げ込まれた。すると、この2人と溜息の主との関係が、気になってくる。2人は巨大な怪物の胃袋の中で、いまこうして生きている? 正確なことは皆目わからないのだが、そうした連想が湧いてくる。そうなると、2人の体はじつはとてもミクロなスケールなのではないか、などといったさらなる連想に誘われる。形が少しずつ変わり、体が絡まり合うと、2人は未知の昆虫のように見えてくる。その一方で、女の体の丸さや男の体の頑強さが2人を人間に引き留める。3回目の溜息が舞台にこだました。たまたま2人を照らしていた光が2人を見失った。そんなふうに、2人の運動は見えなくなった。

2013/05/31(金)(木村覚)

プレビュー:マギー・マラン『サルヴズ』

会期:2013/06/15~2013/06/16

彩の国さいたま芸術劇場[埼玉県]

今月は珍しく海外の作品、マギー・マランの『サルヴズ』に期待したい。マランは、カンパニー・マギー・マランを率いるフランス・ヌーベルダンスの代表的女性振付家。1981年の作品『メイ・ビー』が異例のロングラン・ヒットを記録したことでも知られている彼女だが、2010年に初演された今作では、舞台上にさまざまな災難、悲劇的な出来事、怒りや悲しみの世界が展開するのだという。ネット上で公開されている動画を見ると、ゴヤやドラクロワの戦争・革命を主題とした絵画作品が舞台上を行き来するなど、たんに個人の問題に留まらない人類史を意識させる仕掛けが用意されているようだ。ピナ・バウシュの作品とも通底している演劇的な要素が含まれたダンスを得意とするマランが、社会の矛盾をどう舞台化し、それとどう向き合っているのか、そしてそうした取り組みがぼくたち東日本大震災以後を生きている日本人にどう響くのか、それを客席で確認したい。

2013/05/31(金)(木村覚)

イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」

会期:2013/05/10~2013/06/02

シアタートラム[東京都]

世田谷シアタートラムにて、イキウメの演劇『獣の柱』を観劇する。SF的な設定が抜群に面白い。謎の隕石の飛来、そして世界各地のテロが幕開けとなって、人が集まる都市に、空から降ってくる巨大な柱。高さ300m、直径30m。それを見るものは多幸感に囚われるが、あまりの過剰さゆえに、人々は思考と動作を停止し、第三者に止められない限り、硬直したまま死に至る。仮に止められても、見ているあいだの記憶を失う。長い年月を経て、人類に厄災をもたらす、圧倒的な光の柱は、普段は隠される宗教的な崇拝物になっていく。支配されながら、共存するか、あるいは都市とは異なる自給自足による別の生き方を選ぶか。いろいろな解読が可能だが、筆者には事故を起こした原子力発電所の寓意のように思えた。ちなみに、この柱は、2010年前後に出現したという設定になっている。

2013/05/30(木)(五十嵐太郎)

イシノマキにいた時間

会期:2013/05/29~2013/05/30

せんだい演劇工房 10-BOX[宮城県]

仙台の10-BOXにて、「イシノマキにいた時間」を観劇する。震災から8カ月後にあたる2011年11月初旬、人が減った時期のボランティアたちの物語。被災者ではなく、よそ者ながら現場にかかわりをもった登場人物ゆえに、ある意味でより多くの人に訴える。多くの人は被災地に住まない、非被災者だからである。前半はコミカルな進行だが、後半はボランティアをめぐる悩みと葛藤に展開していく。そして演劇の終了後、最新の状況なども紹介する。これは石巻の伝道師としての演劇と言えるだろう。以前、石巻のドキュメント映画を仙台でみたとき、東京や大阪で3.11作品を見るのとは全然違う雰囲気だった。自分たちの体験が映画/物語になっているという没入感と記憶の再現ゆえだろうか。今回の10-BOXには石巻の人も多く訪れ、たぶん被災地以外で見るのとは異なる空気が流れていた。

2013/05/29(水)(五十嵐太郎)

「小沢剛 高木正勝 アフリカを行く」展─日本とアフリカを繋ぐ2人のアーティスト─

会期:2013/05/25~2013/06/09

ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

ヨコハマ創造都市センターの小沢剛/高木正勝「アフリカを行く」展へ。高木はアフリカの映像をもとに美しいイメージとリラックスできる場を提供し、小沢剛は福島生まれの野口英世がガーナで研究したことをもとに、フィクショナルなキャラクター、Dr. Nを捏造すると同時に、福島とアフリカにおいて制作したベジタブル・ウェポンのシリーズを展示する。前者は素直に美しいと思うが、個人的には後者のアートがもっている毒がいい。

2013/05/26(日)(五十嵐太郎)