2018年10月15日号
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artscapeレビュー

Nibroll『This is Weather News』

2011年07月01日号

会期:2011/06/24~2011/07/03

シアタートラム[東京都]

なにより「わかりやすい」と思った。1年前にあいちトリエンナーレ2010で初演され、東京では初の上演となった本作。赤、黒、白といったきわめて少ない色彩数に限定したこと、また構成のシンプルさもそう思わせる要因だったのかもしれない。そして、同時に思ったのは「そのわかりやすさでいいのか?」ということだった。Nibrollの(とくにダンスの)なかにある独特のコミュニケーション不全状態。イライラと相手の態度を拒絶したり、容赦なく突き飛ばしたり、混乱しているというか、未成熟さの露呈というか、そのなんとももどかしく、自分にも他人にもとりまく状況すべてに齟齬を感じているかのような、言葉にしがたいイライラした所作(ダンス)こそ、Nibrollというか振付家・矢内原美邦の魅力であると思う。ただしそこにはまた、なぜそういう不全状態になってしまっているのかがよくわからないと思わせるところもあって、そうしたダンスの発生源はおそらく矢内原の個人史的な部分に関わるものとぼくは推測している。わからない、けれども、矢内原が踊ると不思議とそのイライラのダンスは、見ているぼく自身の記憶にアクセスしてきて眼の前で起こる出来事をぼく個人に関わる事柄と思わせ、故に無視できないどころか引きつけられてしまう。ここに、矢内原ダンスの希有な魅力がある。けれども、本作のわかりやすさは、そうした魅力とは違うなにかである気がした。例えば映像では、影絵状態の人形が激しく壁に激突するなど、暴力的な運動が展開された。はっとさせられる。けれども、ぼくにはその光景が、「そうした暴力的映像が好きなひと向けのもの」のように見えてしまった。その他の、色のトーンを限定した美しいシーン(とくにラストシーンの視界が奪われるほどの白)も、「そうした景色が好きなひとにはぐっとくる場面」に思えてしまった。なんというか、矢内原のわかりにくさが、わかりやすい「趣味の世界」に転換されてしまったかに見えたのだ。いや「趣味」ではなく、そこにおくべき言葉は「コンテンポラリー・ダンス」あるいは「コンテンポラリー・アート」なのかもしれない。故に、その選択は「正しい」のかもしれない。けれども、矢内原の「わかりにくさ」から伝わってくるものにぼくは興味をもっているのだが……と呟かずにいられない。

2011/06/25(土)(木村覚)

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