artscapeレビュー
プレビュー:金魚(鈴木ユキオ)『揮発性身体論 「EVANESCERE」/「密かな儀式の目撃者」』
2012年01月15日号
会期:2012/02/03~2012/02/05
シアタートラム[東京都]
今年は、日本の舞台芸術が「震災以後」のマインドに包まれた一年だった。正直、そのマインドに巻き込まれ過ぎの印象を受けた上演も多かった。そのなかでぼくが励まされたのは、舞踏系の振付家・ダンサーたちの揺るがない姿勢だった。揺るがないのは当然だ。死や病や「立てない」という状況からダンスを生み出すのが舞踏なのだから。浮かれた日常の底に普段は隠されている人間の闇から、舞踏の「踊り」は始まる。だから震災があろうが、舞踏の作家たちは淡々とマイペースを貫けたに違いない。例えば、大駱駝艦がまだ電車の暖房も街中の明かりも消されていた震災直後に『灰の人』というタイトルの上演を決行したのは、休演する作品が相次ぐなかできわだっていた。大橋可也&ダンサーズの『OUTFLOWS』は希望よりも絶望に目を向けていて、そのことがむしろよかった。子どもたちをダンサーにして鈴木ユキオが『JUST KIDS』という作品をつくったことも強く印象に残っている。舞踏系以外では、矢内原美邦もほうほう堂も自分たちの力量を発揮していて、心強かった。ということで、個人的に来年はダンスに注目していきたいと思っている。なかでも金魚(鈴木ユキオ)の新作『揮発性身体論 「EVANESCERE」/「密かな儀式の目撃者」』(シアタートラム)はそのタイトルが示すように、彼の新しいダンス論がパフォーマンスのなかで呈示されるに違いない。「揮発性」とは? 舞踏の未知の局面が示されることになるのかどうか、おおいに期待したいところだ。
2011/12/31(土)(木村覚)